いつか必ず出逢う君へ
※注意※
・ローと🥗ルフィの子供(娘)を捏造しています。
・娘の名前が出てきます。
・娘→キッドの描写あり。
・時系列はシャボンディ前、ケイミーと出会ってハチと再会してデュバルとバトル前日くらいだと思っていてください。
「いつか必ず出逢う君へ」
side:M
一瞬の違和感。
その場で何かに包まれたような感覚がサニー号の食堂でいつも通り騒がしく食事していた全員に走ったが、その違和感に対して何らかの行動をできた者はいなかった。
というか、次の瞬間にはもう皆がその違和感に関しては忘れ去った。
「へ?」
「ひゃあっ!?」
「「「!?!?!?」」」
ルフィが抱え込んで食べていたサラダが器ごと消失して、代わりに5歳以上10歳未満と思える幼女が現れたのだから、そりゃ当然皆の意識はその幼女に一点集中する。
そして、気づいてしまう。
その、突然現れて今はルフィの膝の上にちょこんと収まっている幼女の容姿は、あまりにも……似ているを通り越してまさしく生き写しだった。
「???母様、髪切った?」
「「「母様!!??」」」
ルフィの歳を10歳マイナスにしたとしか思えない幼女の発言に、麦わら一味驚愕の叫びが食堂内にこだました。
※
「……もう一度、確認するわ。あなたの名前は?」
「モンキー・D・ルーシー」
「歳は?」
「7歳」
「お母さんの名前は?」
「モンキー・D・ルフィ。ねー、ナミおねーちゃん。おんなじ質問ばっかりで飽きたよー」
一通り大混乱してから、ルフィの「とりあえず、お腹減ったからご飯の続き!」とある意味では一番建設的な意見が採用され、食事は再開。
その合間にナミが代表して幼女ことルーシーに話を聞くが、先ほどからナミの問いはこの三つの繰り返し。
「おい、ルフィ。一応聞くが7年前に子供を産んだ覚えは?」
「ある訳ないよ」
なので話を進めるためにゾロが聞きにくいことをデリカシー皆無で尋ねるが、実際の所ルフィも心当たり皆無なので全く気にせず即答。
その答えに、二人の年齢差からしてまずないと思いつつも、胸糞最悪だがギリあり得る年齢だったので捨てきれなかった不安が拭い去られ一味はホッとする。
「……ということは、急に現れたことからしても、能力者になんかされてやってきた未来のルフィの子ってことか?」
「たぶん父様。父様、母様の元に送るって言ってたけど、慌ててたから失敗しちゃったのかな〜?」
見た目が瓜二つなのでルーシーの虚言とも思えず、悪魔の実の反則さもクルー全員がすでに思い知らされてきたので、ウソップがなかなかぶっ飛んだ憶測を口にすると、サンジに作ってもらったおにぎりをもぐもぐ頬張りながら、ルーシーも答えた。
そしてその答えに、ルフィさえも重苦しく沈黙してしまった。
ルーシーが、この幼女がルフィの娘であるということは、当然だが「父親」がいる。
その存在が「誰」であるかが、一味にとっては色んな意味で恐ろしくて知りたくないが、知らないままでもいられない情報だった。
「……ついに、強行突破した奴が現れちまったか?」
「ルフィの血が強すぎてわからない……!ルフィより頭は良さそうだから中身は父親似かもしれないけど、見た目じゃ何にもわからない!!」
「い、いや、案外ちゃんと真っ当な経緯の結果かもしれねェだろ?」
「そ、そうだな!ルーシーの様子からして、父親を嫌ってないみたいだし!」
「でも、ルフィよ?ヤンデレとか関係なく、恋よりも冒険とサラダに目がない子よ?」
フランキーが天井を仰ぎ見て、ナミは頭を抱えて嘆くので、サンジとチョッパーが慌てて嫌な予感を振り切るようにフォローするが、ロビンが無情にその可能性はルフィ本人の気質からして低いとバッサリ。
「……ルーシーさん。あなたのお父上の名前を教えてもらえませんか?」
先ほどのゾロの問いより聞きにくい、したくない質問を、加入時期でいえば新人だが一番年上のブルックが意を決して尋ねてると、梅干しの酸っぱさで口を*にしていたルーシーがしばしの間を開けて答えた。
「…………そういえば父様の名前知らない」
「「「知らないの!?」」」
「落ち着いてください、皆さん。これくらいの歳の子なら、親は『お父さん』『お母さん』以外の何者でもなく、個人名を認識してなくて覚えていないのは珍しくもないですから」
ルーシーの答えに闇深さを感じて、ナミやサンジ、ウソップが悲鳴のような声を上げるが、ブルックがそれは流石に早計だと諭す。
「そ、それもそうよね。……でも、さっきから思ってたけど、ルフィの子供らしくない呼び方ね」
「昔はねー違う呼び方してたけど、父様が父様って呼んで欲しいって言ったから」
ナミが納得しつつ、最初から実はルフィの娘という情報以上に意外に思っていた彼女の両親の呼称を言及すると、ルーシーは二個目のおにぎりを食べながら答える。
その答えに、ロビンは眉を歪めた。娘にそういう呼び方を強要しそうなヤンデレの心当たりが思い浮かんでしまったからだ。
「……ねェ、ルーシー。あなたのお父さん、クロコダイルとかワニって呼ばれてない?顔の真ん中に大きな縫い傷があって、左手が……」
「!?違うもん!父様ワニじゃない!今日だって父様、ワニから私を逃してくれたんだもん!!
あいつ嫌い!父様も母様もいじめるから嫌い!!ミンゴはちょっと面白いけど、ワニも赤っ鼻もハトの奴も毒ガスも、母様追いかけ回して父様いじめる奴はみんな大嫌い!!」
ロビンのないとは思うが確認としての質問は、最後まで言い切る前に歳の割に落ち着いていたルーシーがヒステリックに取り乱して、泣きながら否定。
その否定の中で、他の厄介でしつこい強行突破しかねないヤンデレ達の名指しに近い呼称が出たことと、父親はヤンデレ共から娘を守っていることが知れたので、どうやらウソップのフォローが真実である可能性が高まった。心当たりない呼称もあったが、それは聞かなかったことにする。
一味はそれで安堵出来たが、ルーシーの方は嫌な奴らを自分の大好きな父親と勘違いされたのが相当ショックだったらしく、そのまま泣いてルフィに手を伸ばす。
「うええェェェェ〜〜!があ"ざま"〜〜!」
「え!?私!?」
号泣する幼女に呼ばれて手を伸ばされ、ルフィはオロオロ狼狽えるが、周りに助けを求めるように見やっても、「いや、お前しか無理だろ」という目で見られたので、観念してルーシーを抱き上げる。
「ひっぐ……うェェ……。
どうざま……あんなやつらと違うもん……」
ルフィに抱かれ、彼女の胸に顔を埋めるようにルーシーも抱きつくと、少しは落ち着いたようだが、それでもまだしばらく啜り泣きながらロビンの言葉を否定し、ロビンも珍しくちょっと狼狽えながらルーシーに謝り続ける。
「ご、ごめんなさい、本当にごめんなさいルーシー」
「あー、ルーシーちゃん。ルーシーちゃんのお父さんはどんな人かお兄ちゃん達に教えてくれないかなー?この船にいる奴……じゃないよな。いたらそいつを『父様』って呼んでるか」
「じゃー、この先仲間になる奴かな!!」
そんなロビンを見かねて、サンジが話を変えようと試み、チョッパーがその話題に乗る。
そしてルフィが見よう見まねで、落ち着かせようと揺らしたり、背中を軽く叩いてあやしていたルーシーが、目を真っ赤にしつつも顔を上げて答えた。
「……いない。父様、違う船。サニー号にはいない」
「違う船?」
ルーシーが鼻声で答えた言葉をフランキーがオウム返し。そしてその答えに、薄れたはずの不安がぶり返す。
今はまだいない後の仲間なら安心できるのだが、子供ができても一緒にいない、おそらくは同業である海賊の父親は、やはりルフィの呪いじみた体質によって生産されたヤンデレの可能性が消えないようだ。
「一緒に暮らしてねェのか?」
「うん。父様の船は色々特別で、私が入ったり触ったりしちゃダメなのが多いから、私はサニー号で暮らしてる。でもたまに父様の船にお泊まりする時もあるよ」
「そうですか。けれどお父上と一緒に暮らせないのは、私たちがいても少し寂しいでしょうね」
「んーん。たまに一ヶ月くらいどうしても会えないこともあるけど、だいだい三日離れて十日ぐらい一緒にいる感じだから、あんまり寂しいって思ったことないなー」
「もう一緒に暮らせよ、何で別の船乗ってんだ?」
ゾロが更に切り込んで尋ねると、どうやらルフィが娘を連れて父親から逃げているというわけではなく、両親同意の上でサニー号主体暮らしなだけらしく、更にブルックの感想をしれっと否定するルーシーの発言でなおさら心配する要素はないと確信した。
ウソップのツッコミ通り、もはや別居と言っていいのかどうかも怪しいレベルである。
「……なんか、思ったより本当に健全かつ真っ当な旦那みたいね」
「うーん、我ながら想像つかないな」
ナミが安心通り越して呆れ気味に呟き、ルフィはルーシーを抱いたまま珍しく苦笑して答える。
その言葉にもうすっかり泣き止んだルーシーは、ルフィそっくりの大きな目をまん丸くして小首を傾げた。
「母様、父様を本当に知らないの?会ってないの?」
「うーん……全然まったくさっぱり心当たりない!!」
「えー?……あ、そういえば母様、胸に傷がない。そっかー。まだ会ってなかったんだー」
「「「傷?」」」
未来の旦那が可哀想な答えを朗らかに言い放ったルフィに、ルーシーは不満そうな声を上げたが、ふと目線を下にやって気づいた事を口にすれば、今度は麦わら一味が異口同音。
「うん。私が知ってる母様、ここ、胸の真ん中に大っきなバツの傷があるの。
父様がしゅじゅちゅで治したの」
抱かれたままルフィの胸を指差し、手術を噛みつつ答えたら、一味のほぼ全員が一斉にチョッパーを見た。
「父様、チョッパーじゃない。人間のお医者さんだよ」
割と察しの良い子なルーシーがジト目で即座に突っ込み、誤解を解く。というか、何故誤解した。
「あ、うん。そうよね」
「つーか医者なのか、ルフィの旦那」
「別の船にいんのは、船医は引き抜けなかったからか?」
「というか、そん時の俺は何してんだ?外科手術は得意じゃないけど、何で俺じゃなくて別の船の船医がルフィを治してるんだ?」
ルーシーのツッコミにナミは誤魔化すように笑い、ゾロとサンジは新たな情報にそれぞれ納得や推測を口にし、そして注目を浴びて焦ったチョッパーが未来の自分がどうしてたのかを疑問に抱いて首を傾げた。
そんな周りの反応をルーシーは既に気にも留めず、再びルフィと向き合って、母を真っ直ぐに見て語る。
「ねえ、母様。ここが昔なら、母様は怪我しないように頑張って。
父様、母様に傷を残しちゃったこと、綺麗に治せなかったこと、気にしてるから。よく母様を膝に抱っこして謝ってるから」
その言葉は、もしかしたら自分の存在を無かったことにしかねない発言だと、きっと本人はわかっていない。
どこまでも純粋に、父親の悔恨を彼女なりにどうにかしたい一心での言葉。
そんな言葉だからこそ、理解できた。
この子供は愛されていること。
この子供は父親を愛していること。
そして、……未来の自分はきっと確かに、この子供と同じぐらい大切にされて、ただ求められるのではなく、大好きで大切な仲間達と引き離されることもなく、海賊をやめることもなく、自分を、自由を尊重されて愛されていることが理解できた。
呪いそのものである自分の体質によって、嫌悪さえも覚えていた「愛」に、年相応の「憧れ」がほんのわずかに灯った。
「み、未来のルフィちゃんの旦那が羨ましすぎる!」
「ヨホホホホホホ、お熱いですね〜」
「……夫婦って子供の前でそんなにイチャつくものだったかしら?」
「アウッ!無粋なこと言うな、ロビン!仲の悪さや取り繕った関係を見せるよりはずっと健全だぜ!!」
「あ、私の前じゃ抱っこしないよ。父様、私が見てるって気づいたら、母様を横にぶん投げるし」
「「「投げるんかい」」」
しかし未来の旦那のアグレッシブなツンデレ具合に、ツンデレという概念が理解できないルフィは灯った自覚なく憧憬が消し飛んだ。
「何で私、その人のこと好きなんだろ?」
しかし、初めは一抹でも確かにあったはずのものは既になくなっていた。
自分の意思も尊厳も自由も、何もかもが踏み躙られて奪われた未来の可能性を、もうルフィは持ち前のポジティブさではなく、自然体で見ていない。
この子がいる世界は、そんな未来で作られていないと確信している。
自分は誰かを好きになったと確信したからこその疑問に、ルーシーは答える。
「知らない」
あっさりと、当たり前のように。
「でも、母様は本当に父様が大好きだよ。
投げられても怒らないけど、私がキッドと結婚したいーって言って、父様が『ルーシーに大きくなったら父様のお嫁さんになるって言われたかったのに!!』ってキッドに怒ってた時、キッドが『怖い』って言うぐらい母様、父様に凄く怒ってた」
知らないこと、わからないことに不安はなく。
愛していること、愛されていることを当たり前のことだと認識して。
「母様と父様、ケンカはするけど母様が父様に怒ってるのを見たのはあれが初めて。キッドも、ナミおねーちゃん達も初めてって言ってた。
あと、母様いつもは『結婚はしない』って言ってるのに、父様に泣いて『結婚する!ルーシーじゃなくて私がお嫁さんになる!』って言ってた」
愛に理由を求めず、疑問を抱かずにルーシーはルフィの「愛」をおかしげに笑って語る。
「…………そ、そうなんだ」
「る、ルフィが照れてる……」
「しかも未来のルフィ、『結婚しない』を撤回してるわ……」
「何者なんだよ、未来の旦那」
そんなルーシーの答えに、ルフィは頬を朱に染めてぎこちなく答え、ナミとロビンは彼女の珍しすぎる反応に慄き、ウソップはまだ見ぬルーシー父へ多大な敬意と少しの恐れを思い馳せる。
他の連中も同じように、驚いたり、呆れたり、……もう安堵すら湧かない、抱いていたはずの不安が完全に消え去ったことすら気づけぬままにその存在、ルフィの娘、ルーシーを受け入れていたが、この一時は泡沫である事を思い知る。
空間が区切られ、閉ざされ、包まれるような違和感。
ルーシーが現れる直前に感じたものと同じ違和感が生じ、すっかり忘れていた緊張が一同に蘇る。
ルフィも咄嗟に更に強くルーシーを抱え込むが、当の本人は明るい声を上げた。
「父様だ!!」
彼女は知っている。
これは父の能力。父が支配する空間であり、自分を傷つけたことなどない、守り続けてくれたもの、そしてこれからも守ってくれると信じて疑わないもの。
だから、ルーシーは安心しきった輝くような笑顔を浮かべて言う。
「じゃあね、昔の母様とみんな!
母様、父様と早く会えると良いね!!」
一方的にそれだけを言い残して、誰にも、ルフィの答えも聞かずに彼女は、ルーシーはルフィの腕の中から消え失せる。
代わりに、彼女と入れ替わって消失していたはずのサラダが入っていた器がルフィの腕をすり抜けて床に音を立てて転がった。
中身は流石に残っていなかった。なんなら綺麗に洗われた痕跡すらある。
ただ、サラダの代わりに一枚の、何か文章が書かれている紙が入っていた。
まるで白昼夢だったかのような、唐突な帰還に一同が呆然としている中、ルフィがその紙を拾い上げて読む。
少し癖のある、けれど綺麗で読みやすいおそらくは男性の字。
『驚かせて悪い。詫びは未来でするから待ってろ。
あと、誤解されてそうだから一応言っておくが、同意の上だ。そもそも俺は捕まった側だ』
わざわざ手紙で謝っているのに、記名はしない。
甘い言葉はどこにもないのに、きっとルフィの体質も、恋愛沙汰には興味どころか忌避していたことも知っているからこそ、ぶっきらぼうだが「無理やりではない」と伝えてくれた優しさくらい、ルフィだって読み取れる。
「……結局、誰なんだろうね。『父様』は」
ツンデレというものが理解できなかった素直すぎるルフィが、その素直じゃなさすぎて逆にわかりやすい手紙に笑って呟いた。
無自覚のうちにまた、「憧れ」は静かに小さく、けれど確かに灯った。