いつかの再演
その光景を見た者は絶句するしか無かった。そこには五番隊副隊長である平子副隊長がいた、はずだったのだ。
滅却師たちが瀞霊廷に侵攻して間もなくして、敵からの攻撃を受けた各隊の隊長、副隊長だったが五番隊は隊長、副隊長が別々に行動しており隊長は3席である雛森と副隊長はその始解の能力故に1人で滅却師と相対していた。
平子副隊長の始解の能力は一言でいえば罠だ。影という影にトラップを仕込む、そういうものだ。影に潜んでいた滅却師達には初見殺しとも言える能力に多くの兵士がその罠に嵌り、影へと沈んでいく。
「全く、こんなんイタチごっこが過ぎる。」
ここは卍解するしかないかと嘆息する。実際、影から出てきた兵士は始めはねずみ捕りのように面白いくらい罠にハマっていったが時間を追うにつれ対応していく。彼の卍解は始解とは打って代わり光のように速く正面切って戦う、そんな能力だ。
「卍解、大光真神」
そう能力を解放した瞬間、相対していたほかの兵士とは一線を画すだろう奥に佇んでいた人物が笑い声をあげる。
その人物の手にはメダルのようなものが握られており、解放した卍解はそこへ収束していく。
それを見て、平子副隊長は縋るように手を伸ばす。
だが、伸ばした手の先から泥のように崩れ落ちていく。
残ったのは沼と言えるほどの大きさをした暗闇の塊だ。それもただの暗闇ではなく、赤子の手のようなものや小さな目、口などの顔がその暗闇のあちこちに点在している。それは見るからに触れると崩れ落ちてしまいそうな見た目をしていた。
その暗闇は兵士たちを飲み込み、引きずり込んでいく。
「か…して、かえして」
小さく、幼い口調で囀るその声は一体どこから聞こえてくるのか。
平子副隊長から卍解を奪ったその人は、当たりを見回し絶句した後流石に分が悪いと思ったのかそれとも目的を果たしたからなのかその身を翻しその場を去って行った。
辺りに残るのは無数の赤子の手や顔が点在する底なしの泥沼の暗闇のみ。遠くから様子を伺っていた五番隊の隊士たちも、どういったことなのか分からず困惑するしかない。「とりあえず、平子隊長を呼べ!」との声に否のあるものはいなかった。
その姿を見た時、平子真子が感じたのはただ「懐かしいな」という感慨だった。
目の前にはいつかのような夜明け前の暗さと目の前の沼のような暗闇。そしてこちらに手を伸ばす小さな無数の手。
そこまで考えて、そういえばこいつを拾った時はそんなシチュエーションだったな、ということを思い出す。何だか可笑しくなって、笑う。
隣で絶句している3席の姿も拾った後の藍染の顔を彷彿とさせた。
「マァた、暗闇に閉じこもってるやん。」
笑いを堪えきれず思わずそう言う。
「ホラそんな暗い所おらんでこっちに来ィ、」
しゃがんでそう言って名前を呼ぶと初めて名付けたいつかのように泥が収束し1人の見慣れた姿になった。
「それっぽい姿になってよかったやん」
そう言ってケラケラ、と笑うと仰向けに寝転んだその人の手が平子の髪を掴む。
そして、思いっきりそれを引っ張った。
「痛っ!何すんねん!!!」
平子の叫び声が辺りに響き渡った。