いつかのきょうえん
(注意)
・デイビット総・・・愛され(強制)?
・オータム書店編集デイビット(https://bbs.animanch.com/board/1572734/)の二次創作として書いたのでこのスレを知らない人はまずそちらを読むことをオススメします
・今回のために吸死の受動喫煙をやめたくらいのにわかなので大目に見てほしい
・貴方!2023/07/19 23:59までDMMブックスで吸血鬼すぐ死ぬ1~3が無料!
「手伝ってやろうか?」
「問題ない、間に合わせる」
帰宅したそのスーツのままで机でペンを走らせる音を聞きながら思い返すのは今日のこと。
デイビットは周囲に隠しているが記憶障害があり、オータム書店に就職して以降は一日の終わりに日記帳に向き合うことを習慣にしている。
過酷な出版業界という戦場であるが本人の優秀さと理解ある先輩の助力で自宅で穏やかな夜を向かえ、書き終えてから就寝/漂白に備えるというルーチンを遂行できていた。
今夜はなぜ、こうなったかというと…………
◆
「カルデアグランドオーダー戦記の増刷を祝して……乾杯!」
「かんぱーい」×n
藤丸立香と彼の作家仲間が食事処兼居酒屋で卓を囲む、ちょっとしたお祝いが始まった。
それに属さないものも席にいるが誤差である、具体的には、
「オレはここにいていいのか?」
「いてよ~!?デイビットが頑張ってくれてるからおれはこの仕事やれてるのに!!」
「なんだ。幹事だけして参加はしないなんてするつもりだったのか?それをするにはお前はちょっと若すぎると銃大好き思うワケ」
「まだそれ自称してるのかね貴様は銃好きかもしれないが銃はクソエイムのこと好きじゃないぞ(胴体ブチ抜き)スナァ
「ヌー」
彼の担当編集であるスーツの青年とか、ついてきたグラサン吸血鬼とか、主人の死に涙を流すアルマジロとかそのあたり。
「藤丸くんもすっかり人気作家だなあ先輩として嬉しいぜ~、次はおごらせてくれよな」
「ありがとうございます。この前フクマさんがアイアンメイデン持って事務所にいかれてたからもしかしてダメかなと思ったけどロナルドさんも呼べてよかったです」
「それはそのあとあれ、なんだっけ、まあデイビットさんが話くれてさ。なんとか」
「吸血鬼連続昏睡事件への協力については話せる範囲だとここまでだ」
「おいおい事実より小説が面白いとオレたちがくいっぱぐれちまうだろ勘弁してくれよ!」
「ステキ!さすがねデイビット!(そんなことになっていてもみんなへの原稿催促は変わらなかった、あなたは本当に編集者としての仕事を大事にしているのね…)」
「私も関わりたかったなあ」
「超野球選手シーズンにそんな余裕ないだろ」
「ヴォーダイムはそのつもりがなくてもパパラッチに負担をかける側なんですからもうすこし大人しくしてほしい」
「それでですね、その先輩と初めて会った日というのは私の誕生日だったんですよ」
「ホウ!キリエライト嬢にとって運命の日といったところかな」
「ヌーヌ」
「はい!……言い切るとちょっと恥ずかしいですね、あったかくなてきましゅ……」
「しっかりしなさいマシュ、こいつに隙をみせてもいいことないわよ」
「誕生日、かあ……」
それは労いの言葉だったり、世間話だったり。和やかに言葉を交わし時間は過ぎていく。
しかしここは新横浜、ポンチとトンチキと変態と人外のサラダボウル。トラブルの規模はともかくやつらは望まなくても闇の中からやってくる。
「いらっしゃいませー」
「我が名は吸血鬼バースデーパーティ大好き!早速くらうがいい我が祝砲!」
「「バースデーパーティ大好き!?」」
各々が何らかの理由で対処が遅れる店内を飛んだ空砲ならざるそれはカーブしながら対象に着弾した!
「くっ!?」
「デイビット!」
「デイビットさん!?」
煙の晴れた中心にいるのは無傷のデイビット。ただしコーンハットをかぶせられ「本日の主役」と書かれたタスキをかけられているあまりにわかりやすい違いはあったが。
「全く時季外れを祝っても困らせるばかり!そこな人間の誕生日が近いことは雑誌のカル戦特集等で確認済み!」
「あーだからホーミング弾みたいな挙動を」
「そんなこと気にするの?」
「じゃあ初めからアイツを狙ってたってことでいいな?覚悟はできているんだろうな?」
敗北カウントを重ねた保護者のアイアンクローが吸血鬼を捉えた。並の吸血鬼であるならばその頭部は熟した果実と同じ結果を迎えただろう。
「があああああああ」
「ああーいけませんお客様!店内での狼藉はおやめくださいお客様!追い出されたら我々は入れないんだぞ!」
「意見か?」
「あたりまえだろーが!(発砲)スナァ
ジョンは涙した。
狭くない店内が一人を中心にして危険な密度に近づいている。
ここまで読んだ読者ならその人物の予想は簡単なことだろう。そう、先程現れた吸血鬼から妙なことをされた青年、デイビットである。
「なんだにいちゃん誕生日なんだって?俺の唐揚げやるよ」
「お兄ちゃんおめでと!わたしのタコさんどうぞ」
「ドンペリを彼に」
「お客様、本日のお支払いは特別サービスとさせていただきますので」
見ず知らずの人たちが異様な熱意をもってこちらへ何かしようとしてくる上に知っている面々もこの状況を止める気がないのである。
「唐揚げにレモンかけといたぞ」
「マヨネーズかけといたよ」
「それはやめてほしい……」
催眠術。デイビットの頭に浮かんだのはその単語であった。
「このままだと店内で致命的な事故が起こってしまう、退出に協力してほしい」
「いいですよ。おらおら道を開けろ!」
「本日の主役様のお帰りでーす」
フィジカルのロナルドと人好きのする藤丸に道を作ってもらい、万雷の拍手を背に大通りへと脱出した。
◇
「すまないな」
「ん?」
「……今夜は藤丸のための場だったのに」
「別にいいよ、嬉しいし。たぶんみんなもそうだったんじゃないかな」
「嬉しい?」
「前に誕生日聞いたときに、もしかして自分の誕生日好きじゃないのかもって思って」
「でもどんな小さいことでも『おめでとう』って言ってくれる時オレは嬉しかった」
「だから、当日じゃなかったとしても、熱に浮かされたみたいでもさ。お祝いしていいんだって気持ちになれて嬉しい」
「デイビット、誕生日おめでとう。貴方と出会えて、今、本当に幸せだ」
「そうか……オレもそうだよ藤丸」
◇
しかして状況は改善されないまま。今夜この一帯は祝いたい感情が止まらない人間・楽しいことに目がない吸血鬼・ダシにされているデイビットの3つに分かれ混迷を極めることになるのでした。
最終的には神輿と乗せられたデイビットを中心に舞うわ踊るわのどんちゃん騒ぎ。
発端の吸血鬼は銃大好きが適当に殴って無力化していましたがその彼もまた動き始めた騒ぎを止めてくれるわけでもなく夜は更け……シンデレラがお城を後にするより少し早い時間、青年が流し始めたのはとある曲。
メロディーを聴くと多くの日本人は帰路に就く選択肢を無視できない、DNAに刻まれた音楽…………「蛍の光」。
その日の宴は、そのように。
◆
白紙に文字を残し、最低限の寝支度をすませ、朝日が遮光カーテンの隙間から主張してくるころデイビットは目覚めた。
完全に覚醒する間ぼんやりとオレという猫(ジャガー)の毛並みを撫でる姿はやはり幼い。
「オハヨ。今日は一日オフだが、どうするよ」
「今日は、そうだな……あまり出かけたくない」
「なら飯食って昨日の貢物確認しておけ、もうお前の物なのだから」
冷蔵するべきものは冷蔵庫に。マジでヤバい代物はデイビットが寝ている間に処分したのであとは受け取ったコイツがどうするか決めるものしかない。
それでも積みあがったそれらはなかなかの質量を持って待っているわけで。
「【Aチームより】【ロナルド吸血鬼退治事務所より】……? いつ、そもそも巻き込んでしまったのにこんな……」
「いいんじゃねえの?アイツらは楽しそうだったがね、お前だからこそ」
「そうかな…………うん、そうだといいな」
オレでも現状目にすることは少ないとてもレアな顔をした。
ふむ。腹立たしい野郎から始まった祝祭だったが、内面が成長する養分にはなったようだ。日付の意味を知らない人間に祝われることも受け取っていけるといい、そう思う。
「! 見てくれテスカくん。前作が10年以上前に上映された――」
有効期限わずかな映画ペアチケットをこちらに見せながら、愛し子は幸せそうに笑った。
【いつかのきょうえん】終
書きそびれたこと:神輿の担ぎ手にロナルドとペペさんとカイニス(キリシュタリアに神輿を担ぐやつをやってみようと思うんだ今はできる気がすると電話されたので止めにきてなら代わりにやってほしいなあされた)は確実にいる。