(いたいけな少女をS嬢に目覚めさせた幼兄ちゃinスペインの中学校)
「あぁッ…………!」
雷に打ち抜かれた心地がした。
少女の全身はガクガクと震え、今にも倒れて死んでしまいそうだ。
恐怖? 疲労? 否、興奮によって。
糸師冴が。憧れの先輩が目の前にいて、学校で悪名を馳せている札付きの不良を跪かせている。
校舎の角からこっそり覗き込んだ先の中庭。すっかりと日の暮れたそこに他の生徒はいなくて、見回りの教師もこの時間帯は別の場所を巡っている。そこで垣間見た、穏やかな日常を犯す艶やかな非日常。
「お舐め。……そう、いい子だ。ドリンクは人にかけるものじゃなく、こうやって飲むものだからな。今度からはあんなオイタはするんじゃないぞ、犬?」
白い手が差し伸ばされ、掌で作ったくぼみには校内の食堂で売っている牛乳が注がれている。ベンチに中身の少し減ったボトルがここからでも確認できた。
それをピチャピチャと、比喩に収まらぬ本物の犬のように舌を伸ばして不良は舐め取っている。
冴の口から不良に向けて言葉が与えられるたび、スポンジが水を含むようにズボンの中身の質量が目に見えて増した。カクカクと滾ったものを発散するように腰を小さく振りながら、それでも触れることを許された掌の他に、自ら女王様に触れることはしない。
ただ、全ての情欲を舌に集めて一心不乱に冴の掌を味わおうとしていた。
惨めな男を、冴の気高い猫を思わせる美しく冷えた瞳が見下ろす。
「無様だな。俺を売女呼ばわりしてミルクぶっかけやがった挙句、次は『本物』でやってやるよ、なんてイキってた威勢の良さはどこに行った?」
そういえば、今日の昼休みにそんな事件があったと小耳に挟んだ気がする。
いつでも問題行動を起こすことで有名な奴だったから、大して気にも留めていなかったが……まさか絡んだ相手が糸師冴だったなんて。
日本から来て1ヶ月もたった頃には校内で女王様と畏怖されていた彼に、まさか今更喧嘩を売る者がいたとは。人生を棒に振るのがお好きと見える。
(……いや、私も人のこと言えないか。糸師先輩に憧れて、家に鞭とかロウソク買い揃えてるんだもん)
いつかあんなにも美しく艶やかな女王様に私もなりたいと。
未だあどけない少女の心に官能と嗜好を植え付けたことに、さしもの糸師冴も気付いてはいなかった。