いいふうふのひ

いいふうふのひ



「今日は良い夫婦の日か…」


11月22日。

トレーナー室に飾ってあるカレンダーを見ながらぼんやりと呟いたカツラギエースのトレーナーに、担当ウマ娘であるエースもつられてカレンダーに視線を向けた。


「あー語呂合わせか……トレーナーさんは将来結婚したいとか思ってんのか?」

「いやぁ、生憎相手が居ないし、今はエースと過ごす時間の方が楽しいから、結婚はまだいいかな」

「へへ、嬉しい事言ってくれるじゃん!…けど、気付いたら独身のままなんて事あるからな、ちゃんと相手は見つけておけよ?」

「…そう言うエースはどうなんだ?」

「あたし?まぁ、一応女だし、そう言う願望は少しあるけど……この性格だろ?惚れてくれる男がいるかどうか……」

「いやいや、エースはお嫁さんに向いてるよ、今だってこんなに美味しいお弁当作ってくれてるし」


トレーナーは弁当箱を掲げる。

日頃不規則な食生活を送っているトレーナーを心配したエースは、いつからか毎日トレーナーの為に手作り弁当を持ってくるようになった。

それだけではなく、休みの日にはトレーナー宅へ赴いて、その日の食事を作るようになっている。

ライバルであり親友のシービーからは、「それ通い妻じゃない?もう一緒に住んじゃえば?」と、珍しく真面目な顔で言われてしまっている。


「エースはきっと良いお嫁さんになるし、こんなに美味しいご飯を毎日食べれる旦那さんが出来たら、その人は幸せ者になるよ」

「そ…そうかなぁ…?」

「そうだよ、もし疑うなら、将来その旦那さんに聞いてみるといいよ」

「んがっ…!」


トレーナーに真っ直ぐな目でハッキリと言われ、エースの顔は茹蛸のように真っ赤に染まる。

恥ずかしさを誤魔化すようにエースは「褒めても何もでねーぞ!!」と叫びながらトレーナーの肩を思いっきり叩き、脱臼させてしまった。



〜〜〜⏰〜〜〜



「今日は良い夫婦の日か…」


11月22日。

自宅に飾ってあるカレンダーを見ながら、カツラギエースのトレーナーはボソリと呟いた。


「なーに飯食いながらボーっとしてんだ?ほら、お昼の弁当」


エプロンを付けたカツラギエースは、トレーナーの朝食の横に紺色の布で包まれたお弁当箱をそっと置く。


「今日は生姜焼きにしておいた」

「いつもありがとう」

「いいってことよ……なぁ、あなた」

「ん?」

「あたし、あなたにとって良いお嫁さんになれてるかな?」

「……当然だ、君の旦那になれた俺は、凄く幸せ者だよ」


エースの手を取り、ハッキリと言ったトレーナーに、エースは軽快に笑って「やだぁも〜!」と照れ隠しに空いてる方の手で、旦那であるトレーナーの肩を叩いた。

愛妻からの重い一撃にトレーナーは「ゔっ」と声を漏らしたが、それ以上は何も言わず、照れながらも抱き付いて頬にキスをしてきたエースに、お返しとばかりに自身からもキスを贈っていた。


「………かーっ!見んねぇ弟!卑しか夫婦ばい!」

「毎年のことなんだから諦めろよ姉ちゃん……」


そのやりとりはこの一家の毎年の風物詩(?)となっていて、毎年目の前で繰り広げられる両親のイチャイチャを朝っぱらから見せ付けられている2人の子供達。

現在思春期真っ只中なのだが、物心ついた頃からの見慣れた光景な故に、最早呆れるしかなかった。


終わり

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