あんなに一緒だったから

あんなに一緒だったから


「俺が!殺したッ!!」


旧友が放つ紅蓮の怒りを、キラは躱し切れない。いやそもそも、避けるだけの気力すら失われていたからか。


「俺達の甘さが、ニコルをぉぉぉ!!!」


──先の一戦。イージスを無力化し油断したキラを拘束しようと接近したブリッツ、そのコックピットブロックへスカイグラスパーのキャノン砲が着弾した。

ニコルはキラと話したかっただけだった。

トールはキラを守ろうとしただけだった。


アスランは怒る。キラを傷付けたくなかった自分達の甘さが、その結果を引き寄せたのだと。


「キラァァァ!!!」

「っ、ぐ……!」


裂帛の気合いと共に、ビームサーベルがストライクの左腕に迫る。それでもオーブに辿り着く前のキラなら辛うじて躱すか、防いでダメージを軽減できただろう。

だが光の刃は、スムーズにストライクのフレームを切断した。純白の鋼腕が宙を舞い、落ちた。


キラの精神は既に限界だった。度重なる友人との殺し合いに疲れ果てていた。

だが彼は戦いから逃げられない。コーディネーターの友は信じられるが、ザフトは信じられないのだ。迷えば、投げ出してしまえば、ナチュラルの友が死ぬ。


「うぁ、あ……!」


だから迷うわけにはいかなかった。キラはストライクを駆り続けた。



迷わなかった結果、コーディネーターの友が死んだ。

ナチュラルの友が。自分の為に、殺した。


「やめてくれっ……!!!」


残った右腕で突き飛ばす。が、お返しとばかりに突っ込んできたタックルが容赦なくキラを揺さぶる。

姿勢制御が間に合わず、尻餅をつくストライク。今の衝撃でエネルギーも尽き、トリコロールに彩られていた躯体が灰色に染まった。


「ニコルは本国の病院に移送された……そこにお前を連れて行く!」

「え……」

「もう助からないと言われた……それでも!お前を取り戻したと言う事実だけでも、アイツにッ!!」


コックピットを抉り出そうと構えるイージス、その瞬間。


「キラぁぁぁ!」


そのフェイズシフト装甲を実弾が叩いた。

アスランの怒りは頂点に達した。


「邪魔を……するなアアアア!!!」

「……っ、来ちゃダメだ!!」


窮地のストライクを救おうと駆けつけたスカイグラスパーへ、投げ付けられる盾。元よりニコルの仇、アスランに彼を許す理由など無い。


……乗っている少年もまた、キラにとって大切な人であると。彼がそれを知っていたなら或いは、違ったのかも知れないが。


「トールゥゥゥッ!!!」


胴を裂かれて、翼が陥ちる。山の向こう、浜辺の方向へ消えた機影にキラは叫んだ。


「……さぁ、行くぞキラ」


これでもう阻む者はいない。友を連れてディアッカと合流し、イザークと共に帰投して、本国のニコルとラスティの下へ。この際、足付きはもう度外視したって許されるだろう。

そんな算段を立て始める程に、既にアスランは勝利を疑わなかった。


偏に、彼の落ち度は。想定外とは。


「………ァ……」

「キラ?」


自分が今なした事のその意味を、分かっていなかった事だ。


「ぃ、あぅ……アアアアアアアっ!!!!」


まただ。また友が、友を殺した。

自分の所為で死んだ。どっちつかずの自分が、死なせた。

──自分が殺したのと何が違う?


ニコルもトールも、キラが殺した。


少なくともキラは、そう捉えて泣き叫び……躊躇無く自爆シークエンスを発動したのだ。


「なっ……にをするつもりだ!?キラ!!」


数拍遅れて異常に気付いたアスランが駆け寄り、そして最悪のパターンを想定して動く。コクピット切り離しは乱暴には出来ない、では爆発源ならば?


「間に合え───!」

「………」


組み付くイージスに対し、ストライクはどこまでも無抵抗。これ以上、大切な人達の死因となる事を拒んだキラは現世から逃避しようとしていた。

そうはさせまいと、アスランは力尽くでストライクに仕込まれた爆薬をこじ開け掴み───



───瞬間、閃光が刻を照らした。





「くっ……そぉ……っ」


海に突き落とされるも、なんとか陸にたどり着いたデュエル。その中でイザークは悔しさを吐露する。

そんな彼が目にしていたモニターが、隅に何かを捉えた。


「あれは?……!!」


それは墜落したスカイグラスパー。紛れもなくニコルの仇。

一瞬で沸騰した頭が、他全ての思考を追いやる。


「殺す……!」


キラを戦地に駆り出したナチュラル。それだけでも許せないのに、前回の戦いだ。

いっそ嬲り殺してやろうかとすら思いながら砲口を向け、だがその瞬間。


「なっ」


ターゲットスコープに映ったパイロットが、自身とさほど変わらない年齢の少年だった事に、頭が冷えた。



《あの船には守りたい人達が……友達がいるんだ!!》


「……まさか」


ラクス姫を返してくれた折、キラが言っていた言葉。

ナチュラルの船に乗っていた、自分達と……キラと同い年の同性。

頭の中で、点と点が繋がってしまったイザークは。もうその引き金に、指を掛ける事が出来ない。


「チ……ィッ!!!」


スカイグラスパーごと乱暴に引っ掴み、彼は歩き出した。何にせよ話を聞かなければ、コイツにとってキラは何なのか。キラにとってコイツはどんな存在なのか。


自分達が戦っているのは何なのか。何と戦うべきなのか、を。




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