ムジカとの邂逅のお話
「…ここは…?」
目を覚ましたウタは、周囲を見渡す。
暗闇の世界が広がっていた。
「…そうだ!サニー号は!?みんなはどうなって―――」
あれ、確かサニー号とみんなを守るために、食いわずらいを起こしたビッグマムの威国を受け止めて…それから…?
「あはは…そういうことか。」
ここが死者の世界かと改めて見渡してみる。自分以外には誰もいる気配はない。
天国でも地獄でもない、無の世界で孤独に永久に過ごす。これが自分に課せられた罰か…。
『違います。』
「っ誰!?」
黒一色の世界が一瞬で白い世界に変わる。
「あなたは…。」
目の前に現れた者の姿に驚きを隠せなかった。
だってそれは、昔シャンクスやベックマンからお伽噺として伝え聞いていた存在…。
そして、二年前の修行の頃から見るようになった、寂しく悲しい夢の中での"わたし"。
"魔女"として人々から愛され、しかし魔王トットムジカに堕ちた少女の姿にそっくりだったから―――――。
■
「あなたは…ムジカ?」
「そうです。」
身長はウタと同じぐらいだろうか。
年齢はおそらく18歳ほどだ。
髪は朝焼け前の夜空のような深い青色
反対に瞳は燃えるような深紅。
そして、その外見は正しくお伽噺の通りの魔女と言っていいだろう。
本当なら正直、一発殴ってやりたいところだ。あんたの力のせいで、私は…。
「す、全て私の責任です。」
「あんた、私の思考が読めるのね。」
「今の世界では見物色の覇気、ですよね。それには優れていて、占いで生計を立てていた時期も――――。」
「うっさい!」
「ヒッ!す、すいません…。」
この子が本当にあの魔女?
イメージと違い、かなり内気だ。
ウタに完全に怖じ気づいてしまった魔女だが、チラチラと何かを言いたげに目線を送ってくる。
「ハァ…何よ、言いたいことがあるならなんか言ったらどうなの。」
「あ、あの…ここから出たいんですよね?」
「え、私死んでるわけじゃ?」
「はっはい…いや、正確には現実世界の魂は死にかけてるというか…。」
説明を聞く限り、ウタウタの実の能力者は現実世界とウタワールドの2つの世界で平行して存在するため、魂が半分ずつお互いの世界にあるらしい。
「それで、どうすればいいの?」
魔女と思わしきその少女は、何かを酷く悔いるように目元を曇らせて少し俯いた後、真剣な表情に変わる。
「ここはずっと昔、私が世界中のみんなを助けようとした、そして大きな間違いを犯してしまった場所。」
「だからウタ、あなたはもう、ここに来てはいけない。」
「え、それってどういう―――」
魔女が、胸に手を当て何かを掴む。
「ウタ、あなたに私の魂を。」
魔女の手のひらの上で、蒼い炎が揺らめいていた。