ある焼肉店にて

ある焼肉店にて


「いらっしゃいませ〜!」

威勢のいい声で接客をする店員が出迎えたのは男性2人に女の子1人。

「すみません、19時から3名で予約してた川崎ですが」

「はい!川崎様ですね!こちらにどうぞー!」

「おお…初めて来ました、寿寿苑」

「俺もそこまで来たことないな…肉はだいたい増田さんのBBQで食ってるし」

「そんなに緊張しなくてもいいぞ。俺は東さんに連れられて何回か来たことがあってな。狙撃手はだいたい1回は食わせてもらってるんじゃないか」

席へ通されながら会話する3人。キョロキョロと辺りを見回しながら話すのは桐谷隊攻撃手の伏見七瀬。それに相槌をうつのは増田隊の万能手、白岩虎。

そんな2人の様子を見ながら椅子に座るのは陳隊の狙撃手、川崎勝星。何の因果か、隊もポジションも違う3人はここ、寿寿苑に焼肉を食べに来ていたのだった。

「さて、と…ほら、メニューだ。代金は心配しなくていいぞ。バイトで結構稼いでるしな」

「ありがとうございます。でも自分らもA級で給料は貰ってるので…自分の分は自分で払いますよ。な、伏見」

「……えっと、タン塩にハラミにカルビ…壺焼きってなんだろ。これも頼もうかな……」

「……伏見?」

「はっ、はい。なんですか?」

「…いや、なんでもない。好きなの頼め。川崎さん、伏見の分も俺が払いますよ」

「いや、そういうわけにはいかない。俺はお前たちより年上だしな。東さんからも後輩には奢ってやれと言われている」

「ですが……」

「あ、お肉来ましたお肉。とりあえず焼いていいですか?」」

「あぁ、いいぞ。白岩、とりあえず食うか。代金のことは後で話そう。お前も食べ盛りだし、飯は美味いほうがいいだろう?」

「……分かりました。でも、川崎さんも食べてくださいね」

「ああ。ありがとう」



ジュウジュウと肉が焼けるいい匂いが鼻腔をくすぐる。焼くことに集中し、思わず会話を忘れてしまうほど。……実際、会話はほとんどない。そもそも3人とも自分から話すタイプではなく、それもあって完全に無言の状態だった。

「……その、最近どうだ。ボーダーは」

無言に耐えかね、川崎が口を開く。

「最近ですか?うーん……楽しいですよ。いっぱい友達できましたし。及川先輩からチリソース教えてもらったりもしました」

「あいつ、また他の隊員に布教しようとしてたのか…悪いな伏見、あいつには言っておく」

「えっ、なんでですか?わたしチリソース好きになってきましたよ。クセになるっていうか…」

「そうなのか、いや、だが…伏見が喜んでいるなら、いい、のか?」

「ははは、そうか、順調か。良かった。白岩はどうだ?」

「自分は…まぁ、楽しい、というか…やり甲斐はあります。増田さんにも頼りにしてもらっているので。金剛とか、山本とか、よくつるむ奴らもいますし」

「増田隊の副官って言われてるものな。C級隊員がお前のことを憧れてるって話してたのを聞いたことあるぞ」

「あ、私も桐谷さんから聞いてます。増田隊は増田くんも怖いけど白岩くんも怖いって。頭が切れるし、盤面を動かすのが上手いって」

「そ、そうですか…あー、なんか、その...面と向かって褒められるとこそばゆい、というか…」

ふい、と白岩が顔を逸らす。耳が少し赤く染まっているのを見て2人は顔を見合わせて笑う。

「お、白岩も照れることなんてあるんだな」

「“レアモノ”ってやつですね。桐谷さんがガチャガチャで当てて言ってました」

「う、やめてくださいよ……ほら、肉食いましょう。川崎さんも俺たちばかりで食べてませんよね?」

「ん?あぁ。いいのさ俺は。後から入ってきたお前たちが楽しくボーダーやっているようで嬉しいよ」

「なんか、お父さんみたいですね、川崎さん」

「お父さ……俺、そんなに老けて見えるか?」

「いいじゃないですか。それくらい頼りにされてるってことですよ」

意趣返しとばかりに、白岩がニヤリと笑う。まるで悪戯が成功したワルガキのようだった。


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