ある海賊の拾い物
ある島にて、食糧を買い、折角だからと街や森をそれぞれが散策していた際に、我らが船長がそれを見つけた。
「お、なんだこりゃ?音貝の入った瓶?」
その時は、大した物を見つけたつもりはなかったが後にコレがなかったらと思うとゾッとする。だが逆に、こうして自分の元にそれが来た事は確実に「次こそ救え」という運命の様にルフィは思っている。
「ナミ!!ジンベエ!!まだか!?」
「これが今出せる最大速度よ!落ち着きなさいルフィ!!」
「風も波も悪くはない!お主はドンと構えちょれ!!そして信じるんじゃ!!」
船首で落ち着きのない様子で音貝を握り締めるルフィの言葉に、舵を握るジンベエとその横に立つナミ…
それ以外の一味のメンバーもまだ顔色はどこか険しいものだった。無理もない。あの日死んだと思った人間が生きていると知ったのだ。声の似た他人かも知れないなんてルフィは思わなかった。間違いなく【アイツ】だと直感した。そんなルフィの言葉を疑わう事はこの船の行き先を疑う事だから船員の誰も文句はない。だが…楽観視をするには状況が厳し過ぎた。
ルフィの手元に、あの浜辺に、音貝入りの瓶が来るまで長い時間が経っていた事を示す様に瓶には経年劣化の跡が見られた。もし本当に音声通り記憶喪失で誰もいない島に一人でとなれば生存は絶望的と言ってもよかった。
人は独りで、生きてはいけないのだから。
オレンジ色の髪を風に揺らしてナミはルフィの背を見て目を細める。
「まったく…この辺りの海流や最近の天候から、幾らでもある無人島の何処から音貝が流れ着いたか分からないか…なんて」
酷い無茶振りをされたものだと苦笑と共に肩を落とす…しかし。
「私じゃないと不可能だったんだからね!感謝しなさい!!」
海賊王になる男の船員が、船長の望みを叶えられない訳はない。不敵に笑うナミと、ルフィの視線の先に
「島だ!!!!…!!」
ルフィが叫んだ時、ほぼ同時にその姿を捉えた。島の切り立った崖の上…その上に誰かいた。ほつれや破れの酷い黒い服を纏い深くフードを被っているその手から、水が入っていたらしい桶が落ちた。
距離は遠く、顔も見えない。
それでも…間違いなかった!!
「……え…」
なのに、その姿は、船に背を向け、島の奥へと逃げる様に走り出したのだ。
「な、んで…くそっ!!」
「あ!ルフィ!!」
納得いかない。今度こそ、話し合わねばならないと、ルフィは腕を伸ばして一足早く上陸し、人影を追いかけた。