ある海兵の日常

ある海兵の日常


「おい。起きろ。」

 同室の相方に揺さぶられ目を開ける。窓の外を見れば分厚い雲の天井が太陽を遮る。今日は曇りのようだ。眠気を堪えて布団から出て身支度をする。すこし汚れた制服を着て身を引き締め、部屋を出る。今日は太陽がないせいか、少し通路が暗く見えた。

「あれ、珍しい。今日はルフィさんもウタさんもいないのか。」

 食堂に入りいつもより静かな光景に驚く。このぐらいの時間なら大体いつもルフィさんとウタさんの早食い競争が起きてる筈だ。その2人がいないとしてもこんなに静かなのは珍しい。

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『ルフィ。今日の勝負はおばちゃん特製激辛カレーだよ!』

『ウタ。おめェ甘党だろ。激辛なんて食えんのか?』

『何?やる前からビビってるの?』

『ビビってねーよ!よし!やるぞ!』

『おー、やれやれ!おれはウタ准将に100ベリー賭けるぞ!』

『おいおい。みんなウタ准将に賭けるから成立しないぞ!ハハハハ』

『おめェら失礼だな!おれの方が強いのに!』

『出た〜!負け惜しみ〜。』

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「おい。何言ってるんだ。」

 相方に小突かれてハッとする。そうだ。あの2人は今は犯罪者だった。神に逆らった一級の犯罪者。周りの冷たい視線が刺さる。思い出させるな。暗にそう言ってるような視線。居心地が悪くなり素早く朝食を終わらせて食堂を出る。けれども最早日常となった光景は頭から離れない。廊下を行く。

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『待てお前ら!』

『わりィなケムリン!諦めてくれ!』

『待てと言われて待つバカは居ないよ〜!』

『チッ!あのガキ…ヒナ!』

『ストップ。大人しく捕まって貰うわよ。』

『げっ!?仕方ねェ!ウタ!跳ぶぞ!捕まってろよ!』

『うん!』

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 何かあるたびに逃げ回ってた2人。たまに中将や大将、元帥まで参加してたっけ。それでも笑顔で馬鹿騒ぎしてた2人は自然と堅苦しかった本部の雰囲気を柔らかくしてた。今は廊下を行く誰もが笑わない。笑顔も話し声も無いただの通り道。唯一壁に残った傷跡、補修跡だけがあの頃と変わらない。階段下のフリースペース。

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『へーい!新入荷だよ!今回はなんと!2人が抱き合って寝てる写真!滅多に出回らないよ!』

『なんだと!おい!2枚くれ!』

『おれも!4枚貰おう!』

『お前らせこいぞ!こうゆうのは独占禁止だろ!出来る限り大勢に広まるように買い占めは禁止だろ!1枚くれ!』

『へー。いつのまに。ねェ。いつ撮ったの?』

『そりゃァこの前の見回りでちっちゃくなったルフィ大佐に夢中になってた時の…ウタ准将!いつのまに!』

『おれも居るぞ?』

『ルフィ大佐ーーー!?』

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 ほぼ毎日開いてた歌姫ショップ。ほとんどファンメイドで作られた2人のグッズ。本部内の経済を大きく回してたのは間違いないだろう。基本は数量限定。たまにセリも行われて定期的に2人に見つかっては怒られたり、新しく提供されたり。そのまま公式グッズ入りした物もあったっけ。今は店もなく真っ暗なフリースペースは思ったより狭く感じる。あの頃売ってたグッズはみんなどうしてるんだろう。人が1番通り集まる広場

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『みんなーー!ゲリラライブ始まるよーーー!いっぱい騒いで、普段の疲れを吹っ飛ばしちゃおう!』

『オオオオーーー!UTA!UTA!UTA!』

『あらら〜。あいも変わらず人気だね〜。元帥に怒られても知らないよ?』

『そん時はそん時だ!シシシ』

『UTA!こっち向いて〜!』

『ウインク!』

『投げキッス!』

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 本部で1番の娯楽になってたゲリラライブ。元帥か赤犬大将に見つかるまで続いて、しばらく2人は反省文を書かされる。その繰り返し。いつでも出来るようにと端に積んであったライブ会場セットは撤去され広場の広さを再認識させられる。ペンライトは持ち込みのみだった為にみんな常にペンライトを持ち歩いてた事もあったっけ。今は誰もそんな事はしない。訓練場

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『お前ら大丈夫か?水、持ってきてやったぞ。』

『ゼェ…ゼェ…ありがとうございます…ルフィさん…』

『どうでしたか…見てて…』

『そーだなー。もっと腰を入れて、こう!そしてこう!あとは狙い過ぎだ。それと…』アレコレソレコレ

『成る程…ありがとうございます!今度機会があれば美味しい肉屋でも紹介しますね!』

『おう。気にすんな。おれはお前たちにも死んでほしくはねェんだ。』

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 最初の頃こそメチャクチャではあったけど日を重ねる毎に教えるのも上手くなって。訓練終わりに合うように水や塩を差し入れてくれて。強いだけじゃなくて優しさや暖かさを見せてくれて。問題にも真摯に向き合ってくれて。今は終わっても誰も来ない。虚しく空を切る手の置き場を誰も知らない。大人しく休憩中に水を汲みに行く。多くの海兵がその行動を取るにみんな結局受け入れられては居ないのだろう。

 太陽の光を遮る厚い雲は我々の心にも大きな影を落とす。

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