ある何でもない日

ある何でもない日


(炎銃使い!!見てるかー!!!)


(↑↑みんな喜んでくれたときの気持ち)












この呪霊・・・存外強いな。

頭の片隅でそんなことを考えながら、降り下ろされる腕を受け流し、そのまま懐に裏拳を入れる。

二級呪霊の討伐任務として配属されたのは、実家の裏の山であった。

田舎の方の村なので、スピリチュアルな考えが細かい所にはびこっている、そんな村だ。そんな村の祠が粉々になったとなれば一大事。彼はそれによって這い出てきた呪霊の討伐であった。

このまま山を下れば実家。

スピリチュアルな村のくせして、誰も呪いなんざ見えない。

大事になる前にパッパと倒して親孝行でもしてやるかね、と、続々とやってくる打撃を腕を交差させ呪力で耐えながら考えた。

相手にとっての決めの一発をしゃがんでかわし、ローキックを入れて相手のバランスを崩す。カウンターをバックステップでかわし、勢いのまま腕をもぎ取る。

俺の術式にとって、腕は結構な威力を有する。もぎ取った左腕を口にくわえて、依然向かってくる呪霊の顔を足蹴にして、高いところの木の枝に捕まる。あとはこのまま爆撃すれば・・・そこで彼の思考はストップした。

そこには、背中に篭を携えた母の姿があった。

彼は大いに焦った。どうする、普通の状態ならごまかすのも容易かったが、今の俺の姿じゃ話にもならない。

あせる思考のなかでふと、思い付いてしまった。

心配、してくれるかな。

そりゃあ、なんてったって今の俺は左腕がないんだ、きっと心配してくれる。

そう思いながらはなしかけようとしたが、ダメだった。もうそれ以上言葉を紡げる気がしなかった。


なぜなら、母の顔は、怯えきっていたからだ。


頭が真っ白になった。しかし、なおも呪霊は止まってくれない。

左足をむしゃぶりつかれる。痛い、いたくない、いたい、いたくない、いたい、いたくないいたいいたくないいたいくない。

どれのせいで何が痛いのか、そもそも痛くないのかも、もう彼には分からなかった。

そのまま美味しそうにかぶりつかれた俺の足は、ついに五臓とお別れを告げた。

同時に、母は叫びながら一目散に山を下っていった。

なにもできない、なにも感じない、どうして下っていったんだ、どうしてなにもいってくれなかったんだ。なんでどうしてどうなって・・・

いまにも叫びだしたくて、問い詰めたくて、もう混乱極まりないのに、言いたいことがありすぎるのに、心はクールになっていく。

やり場があるのに当てられない、当てたくない。

そんな怒りを、未だむさぼられるがままの足にぶつける。

轟音が鳴り響く。呪霊は霧散していく、なのにスカッともしない。呆然と立ち尽くす。きっと今、鏡を見たら、見事に目は死んでいるだろう。

まだ少し冷たい風にすべてを任せ、暫しの思考停止に甘えた。

頬に水滴が落ちる。天気予報は、爽やかな晴れを予報していた。


少しした後、山を降りると、村の全員が麓に立っていた。武装しているもの、いまにも腰が抜けそうな者、そして、・・・札を片手になにやら詠唱している者共。

そのなかには、父の姿もあった。視線が集中している。

その視線は、ついさっき見たばかりのー


彼はすべてを了解し、その場を静かに去った。

Report Page