ある1日の話
「…今日も平和だったな」
何事もなく終わる当たり前の日常、ようやく最近になって慣れてきた場所。
オレは今の暮らしは結構気に入っている、自分の居場所だと感じられているし。
…元の生活とかの記憶が欠けていて、思い出しても窓枠から覗くように…他人事のように思えてしまうからかもしれないが。
「…こうしているのは柄じゃないかもしれないが…」
「ああ…そうだ…こういう生活も…悪くない…」
ラフな格好に着替えて簡素な部屋にあるベットに転がり目を瞑る。
「…そういえば…此処へ引っ越すと決めた時はどうなるかと思ったが…意外とちゃんとやれているな…」
オレが夢から連れ出した責任を取ると決めた以上は少女のために今まで住んでいたような廃墟には居られないと悩んでいたが…ネロを名乗る少女に誘われて一緒に旧個人研究所に住まわせてもらうことになったのだが…今の所は上手く回っている。
…少し考え事をしたら眠くなってきた。そうして目を瞑り意識が落ちて…
「…ん?」
浅く眠っていたが体に違和感を感じて目を覚ますと…
「……なんで居るんだよ」
「別にいいでしょ?ボクと貴方の仲なんだから」
…どんな仲だよ…いや結構複雑な仲ではあるし…こうしてもおかしくはないのかもしれないけど。
「……悪いが今は寝ようとしてたんだ…後にしてくれよ」
「つれないなぁ」
そう言って少女はイタズラっぽく笑ってオレの体にしなだれかかるように体を擦り寄せオレの頬をその手で撫でる。
「…やめろ…オレは…」
何かを口に出して拒絶しようとするも
「…オレは?…ボクを突き飛ばすことも出来ないくせに」
「…それは………」
オレはそれを口にすることは出来なかった。
「…それに嫌って訳じゃないことぐらいはボクにもわかるよ」
笑みを深めつつ何処か縋るような目で、空虚さを感じさせるような雰囲気で
「貴方のお願いを聞いてあげたんだし…コレぐらい良いでしょ?」
「だから…壊れるぐらいに滅茶苦茶に…強く…強く抱きしめてよ…」
甘えるような口調で目を合わせてくる。
オレはその姿を見て拒絶することなど最早出来ずに
「……はぁ」
その手をとって…優しく間違っても壊すことなどないようにその体を…死体のように冷たくも感じられる体を抱き寄せる。
「……悪いな…オレはまだ答えを出せていない…」
「だから…今はこれだけで……」
そうしてオレはその体の重さと冷たさを感じながら眠りへと落ちていった。
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ボクは抱き寄せられて暖かい体温を…彼の命を感じながら思う。
こんな彼は嫌いだ。
だってそう言う目をする時はボクと彼女を重ねてみている時だ。
彼の向ける優しさが…暖かさが少し怖い。
それはボクではない彼女に向けられたモノと同じモノだから。
彼にはボクだけを見て欲しい。
……ボクを壊してメチャクチャにしようとしたあの時は…
あの時の激情を抱いた瞬間だけは確かにボクだけを見ていたから
それなら…ボクを抱きしめて、壊して跡形もなくなるぐらいに壊して欲しい。
そうしたら彼はきっとボクだけを見つめ続けてくれるかな?
でも……それでもボクはこの暖かさに惹かれてしまう。
彼の優しさが好き。“私”はそれで夢を見れたから
彼の強さが好き。彼はきっと何処へでも行けてしまうから。
ボクが思うに…“私”は彼の弱さを…強さもわかっちゃいなかった。
だから失敗したんだ。
だから、ボクは彼を縛り付けてでも繋ぎ止めたい。
ボクは…彼が何処か遠い所へ行かないようにその温もりを求め続ける。
そうしている間は彼は何処にも行かないから。
…彼はきっとボクだけを見てくれないだろうけど。
いつかはきっとその日がやってくるのだと願って。
彼の温もりを…心臓の鼓動を感じながらボクも眠りに落ちていく。