ありふれた満足死

ありふれた満足死


 地球に神々しい見た目の宇宙人が侵略してきて早数か月。地表では宇宙人を神と崇める連中による強引な勧誘活動が猛威をふるっていた。

 神に代行の力を与えられたと嘯く信者たちの手には、ボタン一つで目の前の物体おおよそ100kgを消失させる光線が出る装置が握られている。

 そして今日この時、僕の家にも彼らがやってきた。


「なぜ上級信徒がこちらに?僕は、社内アンケートで神を受け入れると返答したはずですが……」

「やはり、一人一人意思を問うべきであると神々はおっしゃいました」


 セールスかなんかだと思って無視してたら玄関ドアを溶かしやがった女が、にこやかに微笑む。その服装は、元々地球にある宗教の貞淑な女性信徒めいた格好だった。


「いざ使命を人々に与えた際に嫌がられては困る、とのこと」

「はぁ……俺としては生かしてさえくれれば、人類の支配者が宇宙から来た神でも別にいいんですけどねぇ……」

「それでは困るのです。神を愛する信徒を、神は求めております」


 そう言って、女は手元の装置をこちらに向ける。

 装置の正面についている七色に輝くレンズが、刃のようにギラリと周囲の光を反射した。


「あなたは神を愛する信徒でしょうか?神の声を、受け入れる者でしょうか?」


 目の前の女が僕に尋ねる合間にも、溶かされた玄関と開けていた窓からここ一か月ほど不意に聞こえる光線の甲高い音がしている。

 ……ただでさえ日本人的無神論(宗教行事をしないとは言っていない)の人間には酷な事を聞くものだ。

 神を名乗る連中に不快感を覚えながら生き続けることと、今死ぬ事を心の中の天秤にかける。天秤はたやすく、死ぬ方に傾いた。

 この状況では、ただ恐怖で「はい」と言わせたいだけだろうと思うのは仕方のない事だろう。そして僕は、そういった脅しにこそ不快感を覚える性質だった。


「いや、脅して愛を得ようとする神なんて、受け入れたくないです」


 女が一瞬固まり、己の正しさが揺らいだ顔をした。

 そうして僕は、ザマア見ろと胸がすいた気分でこの世から消え去った。

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