あまくて、にがい
「いっこ、あげる」
そう言ってはにかみながら手渡されたりんご飴は提灯の灯りを反射してキラキラと輝いていて、本物なんて見た事がないのにルビーみたいだな、と思った。
普通に受け取って笑顔でお礼言えばいいだけなのに何故か妙に気恥ずかしくて、私はスグリと目を合わせないままそれを受け取って小さな声でありがとう、と言った。
ちゃんと聞こえたか不安だったけどお礼を言った後にスグリは嬉しそうに笑っていたから、きっと聞こえていたんだろうと思う。
男の子と一緒に何かを食べる事自体は別に初めてじゃない。それこそペパーにお手製のサンドイッチをご馳走してもらった事は数えきれないほどあるし、逆に私が作ったサンドイッチを食べてもらった事だってある。お世辞にも綺麗とは言えない見た目のサンドイッチにペパーは少し困惑していたけど、それでも美味しいと言って食べてくれたっけ。
…話が逸れてしまった。何はともあれ、決して初めてではない行為のはずなのに、その時に抱いた感情は今まで感じたことのないものだった。
なんだかソワソワして落ち着かなくて、でも不快感は全くなくて……そんな不思議なはじめての感情に戸惑いながらも、ぼんやりとまたスグリとお祭りに来れたらいいな、なんて、そう思いながら渡されたりんご飴に口をつけた。
──結局、それは終ぞ叶う事はなかったけれど。
「……ィ、アオイ?」
名前を呼ばれて、ハッと我に帰る。
慌てて声のした方向を向くと、怪訝そうに私を見つめている女子生徒と目が合った。
「どうしたの?ボーッとしちゃって…それ、せっかく買ったのに付けないの?」
そう言った彼女は頭にイーブイのお面を付けていて、私は「なんでもないよ」と取り繕ってから彼女に倣うように先程買ったピカチュウのお面を側頭部に被せた。
今日は林間学校の最終日で、私達グレープアカデミーの生徒は明日の朝キタカミの里を発つ事になる。
そして数日間に渡って開催されたオモテ祭りも今日が最終日らしく、せっかくなので最後の思い出作りにみんなで行こう、という話になったのだ。
長かった夏が、終わろうとしていた。