あの日の再来-1-(伏見、水瀬)

あの日の再来-1-(伏見、水瀬)

M

「んじゃあ、伏見」

「うん。やろっか、水瀬くん」


 2人は一瞬だけチラリと視線を交差させ、意志を確認すると互いに背を向けてブースに向かう。

 笑うのは前回勝者の誇りか、挑戦者の覚悟か。


『対戦ステージ「市街地A」 』

『個人ランク戦10本勝負 開始』


 開始直後。水瀬は即座に伏見から目を離さないようにしながらバック走で距離を取る。高速機動をしてくる孤月持ちの利点を両方とも奪うためだ。

 水瀬も真正面からぶつかり合っても勝つ自信はあるが、自分の序盤の弱さを自覚しているからこそ、ここはあえてぶつからない。

 伏見はグラスホッパーで接近を試みようとするが、マンティスによる牽制で動き出しを狩られる。


 そのまま水瀬は順調に距離を取り、伏見は水瀬の挙動に注意しつつ慎重に後を追う。

 戦況は互角……しかし、序盤ということを考えると水瀬有利と言ったところか。


(ならさっさと詰ませるに限るよな!)


 水瀬は伏見に背を向けて全速力で近くの曲がり角に向かう。更に距離を取るために曲がり角を利用して位置情報のリセットを試みるようだ。

 互いに情報が少なければ少ないほど、技術の差が結果に直結する。己の技術を信頼した結果である。


(一度姿を眩ませようと……? させない!)


 しかし、そこはA級隊員伏見七瀬。冷静で的確な判断で水瀬の企みを潰そうとする。

 姿を眩ませて情報をリセットしようとするなら、せめて後ろ姿だけでも視認して情報有利を取る。

 そう考えた伏見はグラスホッパーを使用して水瀬が消えた曲がり角へと足を踏み入れ。


「なんてな!」


 気づけば、その目前には黄色く光る刃が迫っていた。

 曲がり角に姿を隠しての奇襲。それが水瀬の作戦。序盤の弛みなど感じさせない頭の回転、動きのキレ。



───ただ1つ、誤算があるとすれば。


『それは互いに情報が少なければ少ないほど頭角を現す』


「うん、知ってた」


 水瀬の1振りはなぜか空を切り、水瀬の視線は空を見上げていた。


「はっや」


『水瀬一 ベイルアウト』

1(伏見七瀬)- 0(水瀬一)


 たった1本。されど1本。

 強者達の三つ巴は前回勝者の寡黙な走り出しから幕を開けた───。




 観戦席で2人の戦いを見ていた崎守永治は驚きを隠せずにいた。


「速い……ランク戦でもここまでの速さは見たことがないぞ!?」


 彼には憧れの人に追いつくために様々な人の対戦ログを見る勤勉さがある。それに加えて伏見七瀬は彼の同級生にして彼より上のA級隊員。彼女の対戦ログに目を通した数は2桁程度では無い。

 しかし、そんな彼でも見たことがない彼女の速さ。否、早さ。


「早かったのは動き出しやな」

「動き出し?」


 崎守は隣で観戦していた一条安寿の言葉にオウム返しをする。


「水瀬さんが奇襲を仕掛ける前に、伏見さんは既にグラスホッパーを設置して、避けて斬る準備を済ましとったっちゅうこと。ほんで、それを可能としたのは」

「第六感……!」


 第六感。存在しないはずの情報を仕入れることができる能力。

 互いに情報が少なければ少ないほど頭角を現す力。


 強いが、その分発動率は心もとないと言われていたSE。しかし、大事なところで外さずに流れを掴んだのは大きい。


「ま、川井さんと佐野さんとこの隊長さんがこれで終わるとは思われへんけど」



「あー、しくったな。SEが発動したとしても反応速度的に間に合ないと思ってたんだが……」


 最後、水瀬が首を切り飛ばされる前に見た伏見の表情は───とても晴れやかな笑顔を浮かべていた。


「ノッてんなぁ。伏見」


『2本目 開始』

「よし、今度はわたしから攻めちゃおう」


 伏見は孤月を持ちながらグラスホッパーを使用して超加速で水瀬に迫る。


「流石にそれは愚策だろ」


 市街地Aの大通りでの直進。あまりにも隙だらけだ。

 水瀬はそう呟き、両手からスコーピオンを出して太刀を受け流す準備をする。

 伏見のグラスホッパーはメイントリガーに設定されている。サブトリガーの孤月は旋空を使用できず、振り回しの良さではスコーピオンの方が勝る。

 ここはリーチと防御面を捨ててでも機動で暴れるべきだったな、と水瀬は結論づける。


(右、左、上。そのどこから攻撃をしてきてもオレなら捌いて差し返せる)


 水瀬は左右どちらから来ても対応できるように足を肩幅まで開きつつ、伏見を見据える。

 伏見の孤月のリーチの届く範囲は水瀬の手足なら差し返し、グラスホッパーを使用せずにメイントリガーの孤月を出してくるのならその瞬間に詰めて手数で押し切ることができる。


 数瞬の思考で勝利を確信した水瀬は構えながら伏見が近づいてくるのを待つ。

 右か左か上か。水瀬は伏見の変化を待ち……。


「正面かよ!」


 伏見は更にグラスホッパーを使用してまっすぐ加速。孤月を構えたまま突撃する。

 リーチとしてはほぼ互角。しかし、水瀬は避けという選択肢を持っている。


(やらねえけどな! クロールみたいに下を向いて肩を入れればオレの切っ先の方が先にアイツを貫く!)


 柔らかい肩甲骨。水の中で鍛えられたその可動域は勝利を手繰り寄せんとする。


しかし。


(感触がない。伏見のスピードとオレのリーチを考えたらもう……)

「ううん。違うよ」

「は?」


 水瀬はありえない景色に目を見開く。

 正面ではない。伏見の狙いは───。


(なぜ伏見がオレの下にいる!?)


 地面すれすれを更に加速する伏見。彼女はあろうことか水瀬の股下を通過する。


(左右への警戒で開いた長い足の下が1番勝利に近いと思った)

(足からスコーピオンを……間に合わないか)


 地に立つ人は下には加速できない。


 伏見は股下を潜り抜ける瞬間に水瀬の両足を切り落とし、最後は背後から首を落とす。

 体の小ささを生かした第六感は再び勝利を掴み取る。


『水瀬 ベイルアウト』

2(伏見七瀬)-0(水瀬一)



 この試合を見ていた観客たちは思い知る。

 伏見七瀬という少女のポテンシャルとその本来の実力を。

 水瀬一の序盤の弱さだけでは証明できないこの展開は間違いなく、伏見七瀬の実力によるものだ。


 そして、戦いは加速する。


『水瀬 ベイルアウト』

3(伏見七瀬)-0(水瀬一)

『水瀬 ベイルアウト』

4(伏見七瀬)-0(水瀬一)


 伏見はただの1度として傷を負うことなく怒涛の4連取。その勢いはとどまる所を知らない。


 そんな中、男は淡々と牙を研ぐ。


『5本目 開始』

「いつもならここも待ってるんだけど、余裕が無いんでな。邪魔するぜ」


 折り返し前最後の5本目は滅多に見ない水瀬の速攻から始まった。

 近づいてきても対処出来るが、外で落とせるならそっちの方が良いと考えた伏見は旋空弧月で牽制を行いつつ場を整える。


「んな大振り当たるかよ!」


 それを水瀬は避ける避ける。元々当てるつもりのない斬撃とはいえ、水瀬の少ないトリオンからしたら当たり所次第で即座に絶体絶命だ。

 それなのに躊躇することなく斬撃の巣窟に突撃できる恐るべき胆力。


 気づけば水瀬は伏見の目の前。この距離まで来ると旋空は初動を潰されるから使いたくない。

 伏見は両手で孤月を持って構える。


(大丈夫。くっつかれてもわたしには第六感を使ったピンポイントシールドが使える)


「逃げないんだ。じゃ、遠慮なく」


 その言葉の直後、跳躍。身長およそ2mの巨躯は空を飛び、伏見の真上に到達する。同じ速攻戦でも下に注視している水瀬の前では2本目にあった下からの奇襲は使えない。


 伏見の脳内に、今までの経験によって培われた数多もの選択肢が浮かんでくる。

・ピンポイントシールドで防いで落ちてくるところを狙う。スコーピオンの手数相手に?

・二刀流の応酬で競り勝つのを狙う。あの水瀬の技術相手に?

・グラスホッパーで1度引いてから立て直す。それを許す相手か?

・空中で身動きの取れない水瀬に孤月を投げる。当たったとしてもこっちの方が先に飛ぶ。


 しかし、浮かんだ選択肢は全て失敗のイメージに塗り潰され、万事休すかと言ったところで第六感が仕事をする。


「グラスホッパー!」


 を、自分の頭上に設置した伏見。それによりバランスを崩した水瀬は空高くへと弾き出される。

 そこに伏見はすかさず追い討ちをかける。グラスホッパーで水瀬の上を取り、バランスを崩して伏見に見向きも出来ていない水瀬を上から襲う。下からの奇襲が無理なら上からの奇襲という作戦だ。



 しかし、横目に微かに映った銀髪、それを水瀬は見逃さなかった。


(最善を尽くそうと背後から迫ってくる伏見の未来が見えた)


「届くでしょ」


 背後を見ずに出した水瀬の右手の中指が伏見の首の皮1枚だけが触れ、そこから伸びたスコーピオンが伏見を貫く。


『伏見 ベイルアウト』

4(伏見七瀬)-1(水瀬一)


「回ってきたな。脳も、体も」



「水瀬が5戦目にして伏見を捉えたか」

「これはまた、どっちが勝つか分からへんくなってきたな」


 観戦席にて2人の戦いを見守る柊木洸牙、一条安寿、崎守永治は怒涛の展開に固唾を飲む。


 崎守永治が集めた今までの無数のデータでは水瀬が伏見を捉えた状況で2人の勝敗が大きく変わっていることがわかっている。

 まず、殆どないが1~3本目で水瀬が1本でも取った場合では水瀬の勝率が9割超え。

 次に4本目で水瀬が1本取った場合、8割の確率で水瀬が勝利する。

 6本目まで水瀬が取れなければその場合は伏見の勝利か引き分けで確定しているのでさておき、5本目で水瀬が伏見を捉えた場合、その勝率は4割、敗率も4割、引き分けが2割。


 つまり場況は五分五分。

 そこまで戦況の共有を終えたところで3人の背後から1人の少女が現れる。


「戻りました」


 彼女の名前は一条万里。彼らを率いる一条隊の隊長。

 万里の声に崎守が反応する。


「万里さん。2回戦の準備は大丈夫なんですか?」

「ええ、今しがた。次戦うことになる伏見さんの情報を仕入れておこうと思ってこちらに来たのですが……このままなら問題なさそうですね」


 万里はつまらなさそうな表情で2人の戦いを眺める。


「SE一辺倒で勝てるほど私たちは甘くない」


───そして、追いついた。


『伏見 ベイルアウト』

4(伏見七瀬)-4(水瀬一)



『9本目 開始』


「速度が違うな。適当に手足をバチャバチャ動かせば勝てるほどオレは甘くねえよ」


 いつものニヤけた表情ではなく、何かに飽きたかのような真顔で煽る水瀬。

 そんな彼を見て伏見は心臓の辺りにチクリと痛みを感じる。恋情のような甘酸っぱいものでは当然ない。追いつかれた事による焦りでも、見下されたことによる怒りでも。


(来るな、と言われた気がした。お前はオレとは違うと)


 伏見七瀬にとって他者から排斥されることは恐怖の象徴であった。

 故郷で、学校で、ボーダーで他者から排斥されてきた彼女は一時期、人を信じられなくなるような人生を送っていた。

 時が経ち、人への信頼を覚えてきた彼女だが、過去は消えない。


 水瀬の一言で彼女のトラウマがフラッシュバックする。


「わたしを置いていかないで───!」


 導火線が燃え上がる。

 彼女の心に赤が灯る音がした。


 グラスホッパーで加速したかと思いきや、孤月を地面に刺して急停止、急ターン。空を跳び、地を跳ねる。

 なりを潜めていた伏見の武器のひとつである機動力が暴れ回る。

 常識に囚われた理想的な最速手順など必要ない。ただ第六感のままに勝利を呼び込む最速の動きを。


 その様を水瀬は眺めて思う。


(SEの爆発……うん)


「負ける気がしない」


 それは強がりや誇張なしの事実。

 確かに火力や破壊力は伸びたが、その程度。動きは単調で少し見れば躱せる。


 SE:第六感は直感でその時の最適解を見つけることが出来る。

 けれど、所詮情報とは水もの。1秒前の最適解が1秒後には不適当になる可能性もある。特に攻撃手の間合いでは1秒の重みが他のそれとは全く異なる。


 言ってしまえばこの状況はカーブして曲がるべき状況を直線ダッシュと方向転換のみで曲がろうとしているようなものなのだ。

 ロスが生まれやすいし、何より次の動きを読みやすい。


(最初の4本で今日の第六感のデータは何となく取れた。こうやって右腕を囮にすれば)

「ほらきた」


 水瀬が隙だらけの右腕を差し出せばそれを取らんと伏見は水瀬に向かって突っ込む。その代償に命を狙われているとは知らずに。

 水瀬の右腕を切り落とそうとグラスホッパーを設置した瞬間、伏見は水瀬の左腕から生えたスコーピオンに気がつく。


「バレたか。けど、もう遅い」


 水瀬のスコーピオンは既に伏見を捉えているが、伏見の機動なら迷わずに方向転換して引けば多少のトリオン漏出はするかもしれないが五体満足で窮地を脱することが出来る。


(ここはシールドを使って引くべき。だって第六感がそう言ってる。少しでも迷ったら間違いなく両足を失う。引いて立て直すには万全の状態である必要がある。わかってる。けど……)


「───少し、黙って」


 しかし伏見は前に出た。右腕ではなく、水瀬本体に目がけてグラスホッパーを踏み込む。


(わたしは知っている。第六感は絶対に当たる訳じゃない。そして何より、水瀬くんはランク戦で意味の無い行動を絶対にしない!)

(第六感、いや、考えたのか……!? この窮地で、自分の武器に頼らずに!)


 伏見は前進したことで水瀬の左腕から生えたスコーピオンに両足を刈り取られるが、その代わり先程まで立っていた場所に突如前置きもなく生えてきたモールクローを避けることに成功する。

 右腕を狙っていたら左腕のスコーピオンに胴を両断され、その場に留まっていたらモールクローに貫かれていたというわけだ。


 水瀬の策略を上回ったのは伏見の経験と思考の合わせ技。

 そしてそのまま仰向けになって倒れる伏見。両足を失ったことで機動力は削がれた。トリオン漏出も止まらない。加えてこの状況不利。


「けど、もうそんなの関係ないよね」

「チィッ!」




「水瀬の序盤の弱さは相手を侮る油断によるもの。だからこそ、あえて力を抜いて終盤に油断を誘う……って伏見さんはそんな器用じゃないよな」


 言っちゃ失礼だけど、と言葉を切って崎守は彼女の歩みを思い返す。同じクラスになってからだけど、彼女がどれだけ努力してきたかは人一倍見てきたつもりだった。


 それは、不器用にもただ真っ直ぐと走り続けた少女の勲章───。


「おめでとう」



『水瀬 ベイルアウト』

5(伏見七瀬)-4(水瀬一)


「水瀬くん。終わらせよう」

「……そうだな」


いつもより少し大きく見える伏見の言葉に水瀬は静かに同意した。


『10本目 開始』


 戦況も精神状況もいつもとは逆転。伏見は終盤に強い水瀬から9本目を取り、伏見には勝利の目があるのにも関わらず水瀬にはもうそれがない。

 負けか、引き分けか。

 水瀬一の先の見えない旅路が始まった。


 10本目もまた、2人が向かい合って転送された。

 伏見は突っ込んでくる意思を見せない。先程の水瀬の策を思い出して躊躇しているようだ。

 かくいう水瀬の脳内にも2つの選択肢が浮かび上がっていた。突っ込むか、待つか。


(突っ込むと主導権を握れるし楽だが、必然的にハイテンポな戦いを強いられるから、必然的に調子の上がっている伏見が有利になる)


─── 適当に手足をバチャバチャ動かせば勝てるほど伏見は甘くない。


 水瀬は待ちを選択した。


 その選択に伏見は逃げを選択したようだ。

 1本目を彷彿とさせる逃げ。ただし違うのは、追う側より逃げる側の方が機動力があるという点。伏見が本気で逃げたら水瀬は追いつくことが出来ないだろう。

 そして、嫌にも思い出してしまう、かつて自分が取ったカウンターという選択肢。しかし。


─── それは互いに情報が少なければ少ないほど頭角を現す。


「ちっ、仕方ねえ」

 水瀬は追いを選択した。


 SEの影響かどうやら背後を警戒して全速力では走れていない伏見。本来の機動力の差以上に距離の差が広がらない。

 痺れを切らした伏見はグラスホッパーを利用した最大加速で市街地の曲がり角に突入し、距離の差を活かして姿を眩まそうとする。

 水瀬もカウンターを警戒しながら曲がり角に到着したが、既にそこはもぬけの殻。

 恐らく一方的に位置を知られている状況で水瀬は次に取るべき行動を考える。


(曲がり角を利用したということは周囲の建物のどこに入っていてもおかしくない。逃げの足が止まったということは旋空弧月が飛んでくる可能性もある。無闇に動いたらグラスホッパーの罠がある可能性も。シールドは確実に割られる)



─── 最善を尽くそうと背後から迫ってくる伏見の未来が見えた



 それは水瀬にとって自然に出た一撃だった。

 練習はしたことが無い。それどころか、今まで1度も出そうとしたことすらないようなこと。

 ただ、それを可能としたのは常に最適を掴み続けてきた今までの経験。

 それは形となって空を翔ける。



「ノールックで足からバックマンティスを!?」

「ここ1番で大博打。すごい神経してはるなあ」



 今日の10本勝負にてキーになったポイントは1本目、2本目、5本目、そして9本目。その全てで伏見は水瀬と真正面からの勝負を避け、そして内3本で水瀬の背後を取ることを優先した。

 ゆえに水瀬の取った行動は根拠のある勘による背後へのマンティス。

 後ろを見る暇もないと察知した水瀬は右足だけを蹴りあげるように勢いをつけ、背面一直線にマンティスを伸ばす。まるでボーダー1年目の技術ではない。


 だが、観客が驚いたのは別の理由。その一撃の届く方向には、まさに水瀬の読み通り伏見の姿があったのだ。









───しかし、水瀬が放った渾身の一撃は伏見の慣れ親しんだ一撃によって砕け散る。


「旋空弧月!」

「マジか」


 悔やむべきは、否賞賛すべきは伏見の位置取り。

 彼女は曲がり角に突入した後、得意の機動力で直線を駆け抜けて姿を眩ました。そして、バレないように空中をグラスホッパーで移動して水瀬の後方に到着。

 奇襲の体勢は整っていた。しかし、その距離は本来なら両者の距離は旋空弧月は当たらない距離のはずだった。

 故に伏見は情報有利を取ったまま仕切り直しをするのが両者にとって1番丸い形だったのだろう。


 しかし、彼女は全速力で前進した。

 第六感は発動していない。ただ、今までの個人ランク戦の傾向を見て、ここで引いてはいけないと確信した彼女は前進し、結果マンティスの為に足を止めた水瀬は伏見の旋空弧月の射程圏内に入ってしまった。


 勝利の女神が微笑んだのは挑戦者の覚悟でも、前回勝者の誇りでもなく、ただ誰よりも勤勉に戦ってきた者の経験に。


『水瀬 ベイルアウト』

6(伏見七瀬)-4(水瀬一)

『勝者 伏見七瀬』


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