あの子のいるところ

あの子のいるところ


「それじゃ歌うね…改めて手伝ってもらってありがとう」


ウタワールド内の調査を彼女から頼まれてからさほど日も経たずその日が来た。

能力を使う本人は、最近の新聞を読んでいる筈だが、特に動揺した様子もなく比較的落ち着いている様だった。だが…その表情はどこか陰がある。


「お、おう…というか、ウタ…お前なんか……怒ってるか?」

「…んーん、大丈夫だよ。ルフィ君」


思わず聞いたルフィに対して、彼女は「大丈夫」と笑って濁した。詰まるところ、聞いてくれるなという事だ。新聞の内容に心ない事があったか…それとも……だがルフィは、それ以上聞くことはしなかった。【前】のウタなともかく、目の前の彼女は不思議と無理をしているという雰囲気はなさそうなのだ。エレジアでの時と違って、生に対する執着を見せているからかもしれない。


「一応、私でもそっちに干渉出来ないか頑張ってみるよ…期待は、しないで欲しいけどね……」

「大丈夫だ。気楽にいこう、シシッ」

「うん、ありがとう」


そうして、数名現実に残してルフィ、チョッパー、ナミ、ロビン、ブルックでウタワールドへと入った。


「……うーん、やっぱりダメか」


それから、彼女なりに目を閉じてみたり、意識を内に向ける様に集中してみたりしたがウンともスンともしない。

やはり自力ではウタワールドへの介入は難しそうだ。自身の能力の筈なのにと歯噛みしてしまう。


「あう!能力の感覚は本人にしか分かんねえからな…おれ達じゃアドバイスはしてやれねえ。すまねえな」

「気にしなくて大丈夫で…だよ。フランキーさん……」


敬語になりそうなのを慌てて修正する。この船の人達は優しくて、敬語を使うと「気楽に話してくれ」と言ってくれる。だから意識できる範囲で敬語を外していた。


「まっ、あんま気張り過ぎないでいいと思うぞ。さて!実はおれらから渡してェもんがあるんだ」

「え?」


そうして現実待機組であるウソップとフランキーは、ソレを取り出して彼女に手渡した。その形にとても見覚えがある。


「…これ」

「ウチの船長が壊したってのに待たせてスーパーすまなかったな!新しいヘッドホンだぜ!!」


色は黒と水色になっているが、それ以外は間違いなく自分が求めていた形と重さのままだ。思わず彼らと新しいヘッドホンを見比べて…それをぎゅうっと抱きしめた。


「ありがとう!すごい素敵だ!!」

「へへ、そう言ってもらえると作った甲斐があるな…あとよ」

「?」

「コレを作る時、前のヘッドホンを調べてもしかしたらって仮説があってな…もし本当にそうならこりゃスーパーなんてもんじゃねえ……とんでもねえ奇跡がお前に起きてたかも知れないぞ」


そうして二人の話を聞いている彼女。そんな彼らを横目に、楽譜はひっそりと彼女の影へと溶け込んでいった。

呼び込まれたウタワールド内で、ルフィ達はやはりウタを探していた。

だが捜索は難航…否、何も進展が無いと言ってよかっただろう。どこを見ても人がいる様には思えないのだ。


「あー!何処にいるんだウタのやつー!」

「やっぱり見つけられないわね……こうしてる間にもウタの能力の活動限界が来るかもなのに」

「…そういえばこの世界ってあっちこっちに五線譜があるのね」


ロビンの一言に全員が改めて周りを見る。彼女の言葉通り、そこらじゅうにめちゃくちゃな世界を繋ぎ止めようと以前と同じ様に、まるでテーピングの様にそれらは点在していた。


「コレ…剥がせないかしら」

「「「ええ!?」」」

「い、いやしかし……それは考え付かなかった視点です。やってみましょうか…」


そうして前回に引き続き来ていたブルックの言葉もあり、手短に近くにある五線譜で検証してみた。草原と、燃える街を繋ぐそれに前の様に分かりやすいドレミを表すものはない…だが


コツンッ…ポーン♪


「鳴りました…ラー♪」


五線譜を軽く小突くと音が鳴る事に気付いてそれをブルックが歌ってみる事にした。すると空気に解ける様に五線譜は消える。


「ビンゴ!…って、これは」

「うわ〜…!!なんだこれェ…!?」


五線譜が消えると、草原の方の世界が…文字通り剥がれていった。剥がれた世界は五線譜と同じ様に消えていく。そこに残ったのは草原分広がった燃えた町。その場の皆で顔を見合わせた。

やるだけ剥がしてみるか?と。示し合わせる事なく全員が考えた。だが…


「この量は…流石に……」

「ドレミが分かるの、この中じゃブルックだけだし…」

「私が一つ一つやっていっては時間がかかりますしね…骨が折れそう…ハッ!私、骨しかないから折れたら大変!」


折角とっかかりを掴めたというのに、どうしたものか…そう悩んでいると


ヒラッ

「!ああ!お前!?」


ルフィが顔を上げて指を指す先に、ヒラリヒラリと宙を待っていた古い楽譜、トットムジカはルフィ達が自分を視認したと判断するやいなや、宙を泳ぐ様に進んでいく。


「待てこらトットコー!!」

「トットムジカよ!というかなんで此処にいるのよアイツ!!」

「…元々現実世界とウタワールドのどちらにも姿を表すもの。行き来自体は自由なのかも知らないわね」

「無茶苦茶だ!!!」


とりあえず慌てて追いかけるルフィ達。すると数枚の楽譜が一つ、また一つとある五線譜の上で止まっていく。


「…これらを剥げばいいのか?」


信用していいかは未だに分からない。ただ少なくともルフィは目の前でウタを救おうとした瞬間を二度も見ている。悪い様にする気は無いのかもしれない。


「大丈夫なの?」

「…やってみよう。ブルック」

「了解です。…ソー♪……ドー♪」


そうして楽譜の指示に従い五線譜を剥ぎ、燃える街を増やしていく…と


「…瓦礫?」


出てきたのは火事が原因か、崩れ落ちた幾つかの瓦礫の山だった。一体コレがなんだというのかと思うナミ達をよそに楽譜は山の一つに近寄る。

それにルフィ達も近寄ると、瓦礫の隙間から何か光の様なものがもれていた。


「…ゴムゴムのJET銃乱打!!」


とりあえず、と迷う事なくルフィは拳でその瓦礫を壊していった。すると…光の正体だろう、光の粒子の様なものが集まり、握り拳程の大きさで丸く形作ってふわふわと地面から少し浮いて存在していた。


「なんじゃこりゃ?人魂?」

「え!お化け!?」

「に、しては…キラキラしてるわね…」

「…待ってくれ、何か聞こえるぞ!」


そうしてチョッパーの言葉を聞いて全員で耳を傾けると


「……!……!」「……」「……?」


確かに、何か声の様なものが聞こえる。肝心の内容や誰の声かは聞き取れないが…だが、ルフィだけは、その光の集合体の前で屈み、そっと指を伸ばす。


「…ウタ?」


ちょん、と指先が触れた時…その粒子は急に眩さを増して形を変えた。

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