・あにまん民兄弟、突如兄がウマ娘化する

・あにまん民兄弟、突如兄がウマ娘化する


「おいクソ兄貴いつまでプレステやってんだよ。僕にも貸せ」


「うるせぇな、今セーブして終わるから待ってろ」


先月ようやく届いたPS5でシリーズ最新作を楽しんでいると、口うるさい弟に水を差され、セーブして終了する。


「というかお前の方はスマホでもやれるんだろ?そっちやれよ」


「あれはスマホでやるもんじゃないよ、凄まじい発熱するから電池がヤバくなる」


「はぁ、そうかよ」


眉をひそめて吐き捨てる。弟であるコイツになぜ兄である俺が素直に従っているのかというと、答えはひとつ。───コイツは俺よりも優秀だからだ。

とある有名な漫画では「兄よりすぐれた弟なぞ存在しねぇ!!」という台詞があるが、実際は普通に存在する(というかその漫画でも弟が兄より優れていた)。

俺が必死こいて勉強してもそこそこレベルの県立高校が限界で大学も中堅の私文なのに、弟はと言うと旧帝大合格者を多数輩出してる名門私立に受かったのだ。

学力だけでなくスポーツでも要領のいい弟には勝てず、俺の家庭内での地位は弟よりも下だ。もちろん親も表立ってそう言っているわけではないが、なんとなく雰囲気でわかる。だから俺は、弟にあまり強く出ることができない。


(クソッ…せめて俺が男じゃなけりゃ比べられずに済んだのに)


そんな、僅かだが確かに存在する敗北感、劣等感を抱きながらスマホに向かい、ブラウザを開く。


「そういやチャンミ期間中なんだっけか?興味ないからやってないけど」


いつものようにあにまんのウマカテを開くと、推しキャラの号外などチャンミ期間特有のスレが目に入る。ウマ娘のアプリはやっているものの、ソシャゲ対人要素にはあまりいい思い出がないのでチャンミは毎回不参加としている。

そんなことは置いておいて適当に興味を引いたスレを漁っていると、いつの間にか数十センチ先に見覚えのない物体が出現していた。


「なんだこれ?」


それはビルでよく見る火災報知器のスイッチボタンと似た感じの物で、側面に文字が書いてある。


「『ウマ娘になれる代わりにあにまん民と強制的にエッチさせられるボタン』……?なんじゃそりゃ」


書いてある内容が突拍子も無さすぎて、ボタン自体の絶妙にチープな雰囲気も合わさりジョークグッズか何かにしか見えない。


「効果…あるわけねぇか!ポチっとな」


どうせ大したことないだろうとボタンを押してみる。すると周囲が光に包まれて何も見えなくなり、身体を熱い痛みが駆け巡る。


「ぐっ……あっ、なんだ、これ…!?」


意識が遠退きそうになりながらも持ち堪えていると、光が弱くなって周囲が見えるようになり、激痛も治まる。


「なんだったの今の……あれ?」


声がおかしい。お…あたしはこんなに高い声だっただろうか?


「いや、声以外もなんかヘンだわ…」


体にも違和感があり、見下ろすと服装がさっきまでとは違っていてセーラー服っぽい制服になっていて、胸には身に覚えのない膨らみがあり、腕や脚も華奢になっている。まるで、女の子になったみたいな状態で。


「すいません、あなた誰ですか?」


と、突然の出来事であたしが混乱しているところに聞き慣れた声で遠慮がちな問いかけが聞こえる。


「この声は……クソ弟!」


「はい……?クソ兄貴に何か吹き込まれたんですか?」


「吹き込まれたも何も…あたしがその“クソ兄貴”よ」


「えー、こんな綺麗な芦毛で愛らしいウマ娘が愛嬌もへったくれもない傲岸不遜なクソ兄貴なわけなイタタタタ痛いってやめろよオイ」


「減らず口が過ぎるわよ?親愛なる弟クン!」


余計な事を抜かす弟の頭に拳をグリグリとねじ込む。昔はやんちゃした弟へ親の代わりにこうやって灸をすえたものだ。


「うーん、このすぐ暴力に訴える姿勢は昔のクソ兄貴にそっくりだな。認めるよ」


「認めるも何も最初からそうだって言ってるでしょ。……ところで今あたし、どうなってるの?」


「さっきも言ったけど芦毛のウマ娘になってるよ。と言うか僕に聞くより鏡見たほうが早いんじゃないの?」


「そうね、見に行ってくる」


あたしはそのまま部屋を出て、洗面所まで廊下を歩く。父さんは短期出張であと1週間は帰ってこず、母さんは婦人会の旅行で4日ほど家を空けているので誰にも会わずにたどり着いた。


「さてとご対面……なにこの美少女?天使かしら」


鏡にはきょとんとした表情が愛らしい、青みを帯びた白に近いねずみ色の長い髪をツインテールにして、頭部にはウマミミが生えた美少女が映っていた。ゲーム内で見慣れたトレセン学園の冬制服を着用しており、胸はそこそこでC~Dくらいはあるだろうか。少々ツリ目気味で瞳は輝くようなエメラルドグリーン。


「自分でも驚くくらいの美貌ね………でも」


ここで一旦状況を整理する。


事の発端はあにまんを見ていたらいつの間にか現れていた『ウマ娘になれる代わりにあにまん民と強制的にエッチさせられるボタン』とふざけた文面の書かれたボタン。

それを冗談半分で押したことで、あたしはウマ娘へと変化してしまったということだろう。となると、前半の“ウマ娘になれる”という部分は既に完了したというわけだが、それなら後半部分はどうなったのだろう?

あたしがいるのは変わらず自分の家で、ウマ娘へ変化するときに自分の部屋から弟の部屋へ移動したが…。


「えっ………まさか………」


最悪の予想が頭に浮かぶ。しかし、それは非常に可能性が高いものであり。

早歩きで弟の部屋へ戻る。なんとか予想が外れていてほしいと思いながら。


「ねえ、ちょっと!」


「えっ、何だよいきなり」


「あにまん掲示板って知ってる?」


「え、ああ…使ってるけどあにまんがどうかした?」


やっぱり当たってしまった。弟もまたあにまん民だった。勉強や運動の能力では大きな差があるものの、兄弟だし環境も変わらないため趣味は割と似通っている。考えてみれば、あたしと同じくあにまん利用者であっても不思議ではないのだ。


「あたしの目の前にね、いきなりボタンが現れたのよ。『ウマ娘になれる代わりにあにまん民と強制的にエッチさせられるボタン』っていうの」


「ウマ娘になれる代わりに…あにまん民と…えっ、じゃあまさか…!」


「うん……何も起こらないと思って面白半分で押したら……さっきの……」


この先に待っている事態を思うと、言葉が尻すぼみになっていく。


「……マジかよ。嘘…じゃないよな」


「あたしも…嘘とか、夢とか、とにかく現実であってほしくなかったんだけど……」


そこまで言い終えて弟の反応を見る。何か考え込んでいる様子であり、しばし沈黙が続く。

静寂に耐えかねてこちらから話し掛けようと思ったところ、弟が口を開いた。


「押しちゃったもんはしょうがないし……やるぞ」


「やるって……何を」


もちろん、頭では分かっている。その先に続く言葉が何かなんて。それでも、せめて違っていておいてほしいと僅かな可能性にすがりながら弟の出方を窺うが。


「セッ、クスだよ…しなきゃ、いけないんだろ」


「いやいや、考え直して!あたしはあなたの兄なのよ!?今は姉だけど!」


姉弟でなんて駄目に決まってる。血統的に考えれば全きょうだいインブリードで1×1扱い、牧場長なら確実に「極度の近親なので配合できません」と止めるだろう。

ウマ娘の影響でだろうか、そんな風にサラブレッドの理論を人間で当てはめながら考えていると、弟はあたしを床へ押し倒した。


「ちょっ、ちょっと!」


「兄貴……いや、姉さん。正直言ってさ、今の見た目すごい僕の好みなんだよ」


「……へー、それで我慢できなくなったの?ドーテー丸出しじゃん」


ヤる気を削がせるため、小馬鹿にしながら言うが弟は動じるようすもない。


「童貞は兄貴もだったろうが。自分は違うみたいに言ってんじゃないよ」


「くっ……痛いところを」


そこから先は会話が続かず、再びの沈黙。隙を見て逃げ出そうとモゾモゾと動くと弟が顔を近づけ、床ドンをしてきた。


「……姉さん。じっとしてろよ」


普段よりも低い、ドスの効いた弟の声。そしてケダモノのような飢えた目と目が合い、もはや逃げることは不可能だと悟って身を任せるしかなかった。





「ふぅっ……ねえ、さんっ………」


……結局、この変態弟は最後までしやがった。下腹部には未だに鈍い痛みが残っており、既に抜かれたはずなのにナニかが入っているような違和感がある。


「……満足したの?」


「いや…今さらなんでやってしまったんだろうって後悔が…」


あたしの純潔を奪っておいて何を言ってるんだこの馬鹿は。


「蹴飛ばしていい?」


「ウマ娘の力じゃ冗談抜きで死ぬからやめろ」


「ったく……痛かったんだからね?言ったのにやめなかったし。中に出しやがったし。これだから童貞は駄目なのよ」


まあ処女は失っても童貞は失ったわけじゃないから結局あたしも童貞ではあるが。


「…ねえ」


「何?姉さん」


「その呼び方やめ……いや、もういいわ。それよりさっきのことは絶対誰にも言わないでよ?」


「言えるわけないだろ、美少女化した兄と近親相姦なんて」


「うわぁ、改めて声に出すと最悪ね……まあ黙ってるならいいけど」


そうして、この日からあたしはウマ娘となった。






───ちなみに、帰ってきた両親はまるではじめからあたしと弟がウマ娘と人間の姉弟だと認識している素振りであり、知人や友人もあたしが最初からウマ娘であるという様子だった。

どうやら、あたしが元男だということは自身と弟しか認知できないらしい。全く、酷い秘密を二人で共有する羽目になったものだ。

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