あなたは誰か

あなたは誰か


「ルキアちゃん!」

藍染惣右介と市丸ギンにやられた身体がぎしりと軋む。でも鬼道で後方支援をしていた自分は最前で戦ってた一護よりはまだ動ける。

それにあの霊圧は正直「大したことはない」。少し自分に見栄を張って瞬歩で踏み込んでいく。お気に入りの白いロングパーカー──この連戦で少々薄汚れてしまった──のフードが落ち、無理矢理髪を押し込んでいた帽子が落ちる。仕方ない。だって友達の命の危機だ、それが「瀞霊廷の者に顔を見られるな」という家族の言いつけに背くものでも、友達を見捨てる臆病者に成り下がるくらいなら───

目の前の男の顔が、瞬きにも満たない間強張った気がした。

「縛道の六十一、六杖光牢」

腹部に白い光が食い込む。嗚呼しまった、ルキアちゃんを殺されそうになってアタシの判断力は下がり切っていたようだ。藍染惣右介の霊圧がまた一段上がる

「まだ動ける者がいるとは思わなかったよ。私もまだまだということかな?」

そう言いながらも藍染の手がルキアちゃんの体に近づき、『崩玉』と呼ばれたモノを取り出す。崩れ落ちるルキアちゃんの姿を見て、アタシを押さえつけていた『お姉ちゃん』をアタシは自ら跳ね除けた。

霊圧が体を軋ませるほど溢れかえる。体の芯がバチバチと燃えるようだ。頭の奥がジリジリと焦げるようだ。市丸ギンの刀がルキアちゃんに迫っている。やらせはしない、やらせてはならない!

瞬間、ルキアちゃんのお兄さんがルキアちゃんを庇って割って入った。くずおれた彼を庇うように抱き込むルキアちゃんにあの男の刃が──


「ッあああああああ!!!!」

ばきん、と光が砕け散る。瞬閧の圧でたなびくパーカーの裾が破れて落ちる。殺す、あの男を殺さねばルキアちゃんは助けられない。圧縮された鬼道が男の喉元に迫る。

「落ち着け、撫子。同じ轍を踏むでない」

馴染み深い師の声に男の背後から喉笛に迫った手が止まる。気付けばすぐ隣に夜一さんと似た装束の女性と夜一さんがいた。

一瞬にして隊長格の姿が周囲に現れ、藍染に引導を渡すかのように思えた。3人に取り押さえられる形になった藍染は動かない。勝負は決したように思えた。

「…時間だ」

男の声が無慈悲に響く。

「離れろ砕蜂、撫子!」

夜一さんの声にアタシが引こうとした瞬間、男の手が無造作にアタシの手を掴む。

「キミは面白い霊圧をしている。ついてきてもらおうか」

男の底知れない笑みにさっきまで燃えるようだった背筋が一気に冷たく凍りつく。必死に纏わせたままだった鬼道に霊圧を注いでも男の手はびくともしない。

「っ…イヤや!やだ、やだ、助けて夜一さん!」

反膜が降り注ごうとする中、さらに力を込めて無詠唱で腕にどんどん力を注ぎ込むと一瞬バチンッと男の手が灼けるような音がした。その瞬間、夜一さんが一瞬にして近づき────藍染につかまれたアタシの手を切り落としてアタシの腰を攫う。

「悪いな藍染惣右介、この娘はやれんよ」

ひしと残った腕でしがみつき、痛みを堪えるアタシをキツく抱きしめて軽々と刑場に降り立つ夜一さんは。

アタシがよく知る師匠の顔で、アタシを見ていた。

ああ、解放されていた霊圧が『お姉ちゃん』によってキツく絞られていく。アタシの無謀さを咎める気配をチクチクと感じて心で謝る。

「……」

反膜によって去りゆく藍染が手の内に残されたアタシの腕をきつく掴んで何かを呟いたのは、誰の耳にも届かなかった



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