あなたの”目玉”を”エレキネット”

あなたの”目玉”を”エレキネット”


僕と”君”は…ずっと昔から親友だった


「わたしね、いつかパルデアでいちばんのゆうめいじんになるの コイルくんも、なれるっておもうよね!」

「ココッ♪」

君との暮らしは決して裕福ではなかったが…僕にとって幸せだった


「えへへっ… コイルくんならそういってくれるとおもってた! それじゃあコイルくんは…わたしのファンにごうだね!」

「…コ?」

「ファンいちごうは、てんごくのおかあさん! いちばんゆうめいになって…おかあさんをよろこばせたいの! それに…パルデアじゅうのみんなをえがおにしたいんだ! できるよね?ねっ!」

「コーッ♪」

ファン2号…僕にとって本当に君の家族になれたみたいで、その響きは嬉しかった

君なら本当にみんなを笑顔にできる有名人になれる気がした…けど、生活がそれを許さなかった


君の母親は父親と離婚した後…一人で髪を育てていたが…その心労が積もってか、早くに病でこの世を去った

身寄りのない君は僕と一緒に家を追われ…街の外れで家もなく暮らす日々を送っていた


僕は戦いがあまり得意ではなかったため、僕が磁力で引き寄せたポケモンのおとしものを売ったお金…それが僕らにとって唯一の収入だった

ポッポの涙ほどしかない小銭であったが…それでなんとか僕らは生きていた


「はい、コイルくん! ナンジャモシェフのおいしいサンドウィッチだぞー!」

「コイッ♪」

具材はいつも多くても二つ、味付けは何もないか塩だけのサンドウィッチ…

それでも僕たちにとってはご馳走だった


何もなくても、貧乏でも…どんな時でも笑顔な君を見ていれば…僕も幸せだった

君の夢も大変だけど…2人一緒ならいつか叶うと信じてた

そうして、幸せな日々がいつまでも続くと思っていた

…あの時までは


「コイ…」

ある時、道路を渡ろうとすると鋼の塊が僕の目の前を横切った

そして、僕を呼ぶ君の声は…一瞬で轟音に掻き消された



君の身体から見た事がない赤いドロドロが流れていく

顔に笑顔はなく、苦しそうな顔で止まっていた 

息もしていない


「コイッ…コイイイッ!!」

僕は声を張り上げて泣き叫んだ

でも、誰も来なかった


あの鋼の塊…後で知ったけど、トラック…というのを動かしていた人も君みたいに動かない

僕の強さじゃ、あのトラックを壊すこともできない

僕の磁力じゃ、トラックを引き寄せることもできない

僕の短い手じゃ、君を道路から引き戻す事もできない

僕じゃ、何も止められない

僕は…何もできないんだろうか


「コイッ…!」

そういえば、どこかの誰かが言っていた

心臓が止まった時、動かすのに電気を使うって


「コイ…コイコイ…コィ… …ッ」

唯一僕にできることを僕は繰り返す

苦しいけど、辛いけど、身体が限界だけど…僕は何度も何度も心臓に僕の電気を流し込む

君を失う事に比べれば何があっても僕にとっては辛くない


奇跡よ起これ、奇跡よ起これ

僕は祈るような気持ちで電撃を試みる


「コ…ッ」

意識が朦朧としてきた

今までの記憶が頭の中に浮かび上がる



一番古い記憶はキラキラ輝く綺麗な洞窟の中だった

僕はそこで一人寂しく暮らしていた


ある時、僕は寂しさに耐えられず…洞窟を抜け出した

その時…僕は君に出会った


初めて見た僕以外の生き物…君の笑顔に僕は…心を奪われてしまった

思えば、あの時から僕は君の大ファンだったのかもしれない


「コイ…ィ…ッ」

お願い、目を覚まして

君がいなくなったら…僕はどうすればいいのかわからない

君の夢を…君の笑顔をずっと見ていたいんだ

だから…奇跡よ…起きて…


次の瞬間…今までより大きな電撃が僕の身体から放たれた

そして、僕はそのまま意識を失った




次に目を覚ました時、僕は人間の病院にいた

確かに奇跡は起きたよ

ナンジャモちゃんも生き返った

でも、それは君ではなかった

「なんで…僕がナンジャモちゃんに…」



それからも奇跡は起き続けたよ

偶然ロトムスマホを拾ったり、

流行りの配信をしてみたらいきなりバズってあれよあれよと極貧から有名配信者になれたり、

僕より強いポケモンを次々に捕まえられたり、

ポケモンバトルの才能が開花してジムリーダーに選ばれたり…いろんな奇跡が起きたよ


でも、僕が一番起きて欲しい奇跡は起きなかった

君はどこにもいなかった



ある時、僕は顔を隠してサンドウィッチ屋に寄った

既に僕は有名人になっていたから…あんまり目立つと大変だからね


「スパイシーサンドを一つ!」

いつも頼むお気に入りの昼ご飯だ


ナンジャモちゃん、天国の君にはこの味が届いているかな

あの時のサンドウィッチと比べたら随分と具沢山だね

でも…僕には目玉しかないから…食べても味がわからないや

あの時食べたサンドウィッチはあんなにも美味しかったのに…


サンドウィッチで身体の栄養を摂ると、ちょうどロトムフォンのアラームが鳴った

そろそろ、今日の配信の準備をしなくては


僕はあの時も結局君に何もできなかった

君はもうこの世にいない 

いるのは、僕が詰まった君の抜け殻だけ…

だからせめて、僕は君として君の夢を叶えたい

それが僕にできる唯一のことだから

君になってしまった僕ができる唯一の償いだから

僕はファンとして君を幸せにしてみせる


あぁ、今日もまた君の夢が叶う



「おはこんハロチャオ~! あなたの目玉をエレキネット! 何者なんじゃ?ナンジャモです!」

ねぇ、ナンジャモちゃん

僕はパルデアで一番の有名人に…君の夢になれているかな


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