禁断異聞帯 ラスト
「先輩…?この異聞帯も間も無く閉じる頃なのですが…そろそろ帰還した方が…」
「ゴメンね、マシュ。でも、最後にあの2人を見届けたいんだ。」
カルデアのマスターが崖から見下ろす中、戦いの傷跡が深く刻まれた荒野に2人の超獣が向かい合い、立ち並んだ。
その肉体はボロボロに砕け、最早歩くことすらままならぬ程に消耗しているが、それすら意に介さず彼らは言葉を紡ぐ。
「思い返せばいつも、テメェは俺の敵だった。うすっとろくて、無様で、その癖に何度痛い目を見ても立ち上がってくる…つくづく、かったりぃ相手だ。」
「それが革命を起こす者としての責務だからだ。貴様らのような輩から仲間を護る、団長と呼ばれるならそれくらいできなくてはな…。」
「だが今のテメェにも、そして俺にも、後ろはねぇ!護るモンも、従う相手も居やしねぇ!
……だからこれは俺たちだけの私闘だ。テメェとの因縁、今日こそケジメをつけてやるぜぇ!」
「ああ、我らのこの運命に、今度こそ決着を付けよう!ブラックアウト…否、レッドゾーンッ!」
半壊した体躯を無理やりに動かし、両者は駆け出した。
決着は一瞬。
刃と拳の交わる刹那の瞬間、レッドゾーンは最後の独白を心の内に呟く。
──ずっと、何かの意思に突き動かされた生涯だった。
何者も追いつけない速度で駆け抜けながら、血湧き肉躍る死闘を演じながら、それすらも禁断の星の掌の上だったのだ。
そこに自分の思考はあったのかと、問いかける。それは自分の望んだ結果なのかと、思索にふける。
答えは出せないままだ。
──だが、そんなものはどうだっていい。
オイルの血潮が沸き立ち、エンジンの如き心臓がドキンと鼓動する。
今この時、命の燃え尽きるその一瞬がこんなにも高鳴りに満ち溢れているなら、それはこの人生に満足出来た証なのだろう。
──だからこそ、どうでもいいのだ。
精一杯この生命を走り続けられた、それだけは不変の事実であり、誇れることなのだから…。
………それは誰も知らない最後の結末。幕の閉じた異聞帯で行われた、ある英雄たちの最後の激突。
その勝者は…死闘を見届けたカルデアのマスターと、その最初の従魔たる少女、2人だけの秘密である…。