vs新魚人海賊団 決着 sideウタ(withブルック)
「戦いに死ねん奴らは今ここで!!おれの手で死に人間への恨みを残せ!!」
「ぎゃああああ!!!」
ルフィが新魚人海賊団の船長ホーディ・ジョーンズを倒したと言う報告が国中に轟いた後。残った新魚人海賊団の幹部達は「死もまた復讐である」と宣い始め、突如味方を襲い始めた。
その中の幹部の1人、オオセの魚人ゼオが鎖を振り回して海賊団に襲いかかる。
「おやめなさいよ!!あなた味方にィ!!」
「何してるのォ!!」
そこに二つの影が割って入った。剣と槍が鎖を弾く。魚人や人魚ではない。新魚人海賊団と敵対していた筈の麦わらの一味の2人の音楽家、ブルックとウタであった。
「おォ、助かった…すまねェガイコツマスク!」
「嬢ちゃんもありがとよ…小娘とか言ってごめんなァ!」
「ありがと!別に気にしてないよ!」
敵である麦わらの一味の人間に助けられ感謝の言葉を述べる魚人海賊団の面々。それに対してウタは敵の方を向きながら受け応えた。
「あなたねェ!死んだ事もないくせに偉そうに!!死んで怨みを残す!?バカバカしい!何も残りませんよ!生物皆!死んだら骨だけ!!」
『説得力が違うぜ』
「恐縮です!!」
ブルックの啖呵にフランキー将軍に乗ったフランキーが軽く笑いながら受け応える。
「私…!!命粗末にする人大嫌いなんです!!鼻持ちなりませんね!!私持つ鼻ないんですけど〜!!ヨホホホホ」
自身に約束を託し、死んでいった仲間たち。そこから50年間漂流しながら生き続けた経験。自分の人生経験からの憤りを、軽くスカルジョークを織り交ぜながら言うあたりは流石ブルックと言うべきだった。
そんな中、憤っているのは隣の少女、ウタも同じだった。
「何で…そんな簡単に仲間を傷付けられるの!?"同胞"なんじゃないの!?」
『どんな理由があろうと、おれは友達を傷付けるやつは許さない』
ずっと尊敬し憧れ続けてきた、父親『赤髪のシャンクス』が掲げていた信念。それをよく知っているからこそ、平気で仲間を傷付ける連中がウタには到底許せなかった。槍を突き付けながらウタはゼオに問う。
「仲間だからこそさ…我々は常に一心同体!受けた傷も、痛みも、怨みも…全てを共有している!
つまり彼らの痛みはおれ達の痛み!!彼らが貴様ら人間に怨みを抱けば…おれ達の怨みは永遠のものとなる!!」
ゼオからの返答が返ってきたが、到底納得の行く答えではなかった。
「…意味が分からない」
「どうやら話して通じる相手ではない様ですね…!!」
ウタと同様、隣にいたブルックも気を引き締め武器を構え直す。
「それに…我らが残すのは"怨み"だけでは無い!!それを教えてやろう!お前達ィ!!」
そう高らかに宣言したゼオが手を挙げる。すると、幹部と、それに近しいメンバーが何かの袋を取り出すのが見えた。そこに入っていたのは彼らが戦闘の最中何度も使用していた…凶薬『ES(エネルギー・ステロイド)』だ。
「……まさか!」
悪い予感は的中した。彼らは戦闘が始まってからずっと倒れていた海獣達の側に行き、袋の中身を全て海獣の口の中にぶちまけた。今まで倒れていた海獣達の目が開き…
「「「「「グォオオオオオオオオオ!!!!!!」」」」」
凄まじい咆哮が広場に轟いた。
「そんな…海獣達が……」
「「「復活したァァ〜〜〜〜〜!!!」」」
「王子達が倒したのに…!」
一味だけでなく、新魚人海賊団の面々も、周囲で観戦していた魚人島のギャラリーも、皆驚いた。麦わらの一味との戦闘に入る前にリュウグウ王国の王子、フカボシ達が倒した海獣達。削れた筈の戦力の突如の復活は、ノアが落ちるこの状況で絶望を更に加速させた。
「さァあ海獣ども!!思う存分暴れろォ!!」
「「「ブォオオォオオオオオオオ!!!!!」」」
「海獣が暴れ出したァァ〜〜〜!!!」
「やべェぞ無差別だ!!こいつらおれ達の事を見てねェ!!」
「ひいい助けてェェ〜〜〜〜!!!」
ゼオの号令を皮切りに暴れ出す海獣達。その近くにいた新魚人海賊団の団員達は必死で逃げ惑った。だが、何人かは間に合わず、海獣達の大暴れに巻き込まれ吹っ飛ばされた。
「フハハハどうだ!?ESで凶暴化した海獣達が暴れる事で!!この広場をはじめとした魚人島は破壊される!!おれ達の怒りと怨みの傷跡が残るのさ!!」
「…………!!」
ゼオの発言を聞いたウタの表情が険しくなる。
暴れる事で傷跡を残す?
ウタはこの2年間での修行を思い出していた。
修行の場として彼女が滞在していたのは、かつて自身の力が原因で一度滅んだ音楽島『エレジア』。国王であるゴードンの尽力により、何とか復興にまで漕ぎ着け、住民が暮らす事が出来る様になったものの、それでも島のあちこちには未だに痛々しく崩壊した爪痕が幾つも残っていた。街が今どうなっているか案内してくれた時に、それを見たゴードンの苦々しい顔は今でも忘れられない。
そんな"傷跡"を、こいつらは簡単に「残そう」などと言うのか?考えるだけで腑が煮えくりかえりそうになった。
『オイやべぇぞ!!』
「なんたる事じゃ…おのれ!!」
暴れ出す海獣達を見て、フランキーとジンベエが対処しようと動き出す。
しかし、ウタが静止するように差し出した手を見て、2人の動きが止まった。
「!」
『ウタ?』
「…大丈夫!あの海獣達は私が何とかするから!みんなは目の前の敵に集中して!」
ウタは、先ほどまでの怒りを心の奥にしまい、普段の様な明るい表情を見せた。
「私行くね!」
「ウタさん…」
ゼオに背を向け、海獣達の元へ歩き始めるウタ。彼女の手足に黄金の鎧が、持っていた槍が黄金の剣の様に変化する。彼女が2年間の修行で身につけたウタウタの新たな力だ。
「……その代わり、あのクソ野郎は…貴方に任せたよ!"ソウルキング"!!」
「!!……ええ、承りましたよ…"歌姫"!!」
彼女が去り際に怒りを滲ませながら発した言葉は…ブルックを発奮させた。
「フフ!!あんな人間の小娘1人に獰猛な海獣達を任せるなど…血迷ったか?命を粗末にしてるのはお前達の方なんじゃないか!?」
「ヨホホ、生憎私には迷う血も流れておりませんので…」
嘲笑するゼオに対し、静かにスカルジョークを交えて返答するブルック。
「状況をよく考えろ!仲間全員逃げず騒がす結構だが…「ノア」が落ちてきて確実に命を落とすのはお前達人間だ!キサマが人間かどうかは知らんがな」
ゼオの煽りは止まらない。だが、それに対してもブルックは余裕たっぷりに返答した。
「我らが"麦わらのルフィ"船長はいずれ海賊王になられるお方!!!それを信じていれば、何をジタバタする事があるでしょうか!?」
「あちらはウタさんに任せました…さァ私も任務を果たすとしましょう!!ヨホホホホ!!」
暴れ回る海獣達に、新魚人海賊団の面々はパニックになっていた。ギャラリーの魚人島の住人達も固唾を飲んで見守る。
そんな中、突如場違いな音が上空から聞こえてきた。タンバリンやシンバルを鳴らした様な音だ。
その音の源を見ようと、皆上空に目を向ける。
「?」
「はいはーい!!みんなこっち見てー!ウタだよ!!」
そこにいたのは、ウタだった。ウタウタの力でウタワールドの事象を現実でも限定的に再現できる様になった彼女は、その力で宙に浮き、手拍子を叩いていた。彼女が手を叩く度に、タンバリンの様な音が鳴り、音符の様なものが生まれ浮遊する。海獣達は音と浮遊する物体に気を取られ、動きを止めた。
「暴れないで!!私が相手してあげる!!」
だが凶薬を飲んだ海獣達はそれでは止まらなかった。
「ガルルルルルル……」
「「「「グォオオオオオアアアア!!!」」」」
忌々しいとばかりに咆哮する海獣達。
「無茶だ!!あんな数の海獣、1人で止められっこねぇ!!」
「やべェ逃げろ〜〜〜〜〜!!!」
海賊団の面々も、島民達も人間だとか魚人だとか関係なく、たった1人の少女が到底叶う筈がないと騒ぐ。
だが、ウタの狙いは、気を引いて大人しくさせる事ではなかった。
「"ペンタグランマ"!」
ウタが指を鳴らすと、海獣達の周囲で浮遊していた音符が五線譜に変化し、彼らを包み込む。振り解こうと暴れる海獣達だが、無駄だった。
「グゥ!?」「ガ……」
「"快速な詠唱曲(アレグロ・アリア)"!!」
戸惑う海獣たちを尻目に、ウタワールドの力で自身のスピードを引き上げ更に上空へと上がるウタ。助走距離を確保するためだ。
「"武装色"硬化…」
ある程度の高さまで上昇したウタが自分の持つ大槍に覇気を纏わせる。穂先が黒く変化した槍を構えた彼女は…
「"強き詠唱曲(フォルテ・アリア)"、"急速な追奏曲(プレスト・カノン)"!!!」
ズドォン!!!!
「「「「「ブォオオアアア〜〜〜〜!!!!!」」」」」
「「えええェェ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!??」」
「「「いいいい一撃ィィ〜〜〜〜〜!!!!??」」」
凄まじい速度で急降下したウタが、大槍で海獣達を吹っ飛ばした。悲鳴をあげてやられる海獣達に、周囲の海賊や島民達は声をあげて驚く。
そんな驚いている者達を気にすることなく、ウタは急降下する中で音符を召喚して華麗に着地した。
吹き飛ばされた海獣達がギャラリーの所へ激突しないよう、ウタは指を鳴らして音符を変化させ、海獣達を拘束するのだった。
「あの小娘…何たる速さだ!!」
「ヨホホ」
場所は変わり、ゼオと対面するブルック。
たった1人の少女に海獣達が一瞬で全滅させられた事にゼオは驚いていた。
「だが如何に早く動こうとも無駄だ!!これがおれの"間合い"だガイコツ男…この円に貴様が入った時…!!貴様の骨は粉々に砕け散る!!あの小娘もこれで殺してやる!!」
ゼオが持っていた鎖を、これまでに無い速度で高速回転させ始めた。鎖によって強化されたリーチ。そう簡単に近づく事は出来ないだろう。
「ん〜〜〜〜〜んん〜〜〜んん〜〜〜んん〜〜〜♪」
…だが、そんな中ブルックは鼻歌を歌い始めた。疑問に思うゼオだったが、それでも油断はせず、鎖を振り回し"間合い"を保ち続ける。
ふと気付くと、あれだけ警戒していたのにいつの間にかブルックは後ろの方にいた。
「…ハイ、失礼ですがもう円に入って斬っちゃいました…お寒うござんす、お気をつけて」
「貴様いつの間に後ろに回り込ん……」
ゼオの言葉は、次に続かなかった。
「"掠り歌"、"吹雪斬り"!!!」
パリィン!!
「ぐあァァ!!!」
ブルックが剣を鞘に収めると同時に、ゼオの身体に斬撃が走り、そこが一瞬にして凍りついた。
「ここで一句、『血も凍る』、『黄泉の風』で…」
「スカートめくれたらいいのに」ボーン
決着は、一瞬でついた。
「せっかく決まったと思ったのに…ブルック、最低…」
「え!?あれ!?ウタさん!?いつの間にこちらへ!??」
後ろから声が聞こえて来たと思ったら、いつの間にか呆れた様な顔でこちらを見ているウタがいる事に気付いたブルック。まさか今の発言を聞かれているとは思わず、ブルックは盛大に焦った。
最初はやや軽蔑を含んだ目で見ていたウタだったが、焦るブルックの様子がおかしくて、やがて笑顔になった。
「……ふふ、何はともあれ…ナイス演奏だったよ!"ソウルキング"!」
「ええ、貴女こそ素晴らしい演奏でした!"歌姫"!!」
"ソウルキング"と"歌姫"。
2人の音楽家は、互いの健闘を称え、手を合わせた。
決着は、もうそこまで迫っている。