voice in the rain

子🐪と子🐊

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「これはやられたね」

隣からの呑気な声におれはしゃがみこんだ。

手配書にのるのは何も海賊だけではない。最近国を騒がす盗人がねぐらにしている村があるという情報を買って山を登って五時間。

目の前には焼け落ちた家々だけが待っていた。

「地図は本物でも情報は古い物だったみたいだね」

アニキは焼けて半壊した家を覗いてなにも残ってないことを確認すると駆け足で戻ってくる。

「クロ。山降りるよ」

「え」

「ごめんね。予定では村で泊まるつもりだったから。この山でキャンプするのは得策じゃないかな日が高くて良かった早く下りないと」

今までの山道を思い出してガックリする。とてもじゃないが行きと同じスピードで下りれる気がしなかった。

「わかったじゃあ」

「おんぶしようか」

「は？」

「いっぱい歩いたし疲れたんじゃない」

なんてことないようにそう言って見下ろすアニキに立ち上がると怒鳴るように言い返した。

「ふざけんなおれもう10才だぞ！　子供じゃない！」

「平気だった？　じゃあ行こうか」

アニキの言葉に今歩いてきた道を早足で引き返す。

冗談じゃない。

「休憩しようよ」

「しない……」

「あの木ノ実美味しそう」

「早く行くんじゃなかったのかよ」

止めようとする前に木を登りだしたアニキを見て諦めると木陰の下で岩に腰掛けて荷物から水筒を出すと一口飲む。急ぐと言っていたのにすぐにあちこち寄り道するからその度に立ち止まって下りる前より楽になっていた。

わざとだろうか。そんなわけないだろうな本当にただ遊びたいだけだあれは。

あっという間に木ノ実を取り尽くすとこっちに来て手渡してくる。

「あと半分だね。平気？」

「平気だ」

甘ったるい実を食べながら遠くを見下ろすと遥か下に見える海で何かが跳ねるのが見えた。海王類だろうか。

キラキラと反射する青に身を乗り出していると

「あ」

というアニキの突然の声に驚いてふり返る。

「大変」

「なにがだ？」

「ちょっと待っててクロ」

「おい！アニ……」

走り出したアニキを引き止めようと伸ばした手は空を切ってしまう。小さくなる背中に大声を出そうとしたがどうせ意味がないと止めた。

こういう時、自分が巨人族だったら良いのにと考える。ヒョイとアニキを持ち上げれば勝手に何処かに行ったり暴れたりしないしこんな山疲れることなく登れるのに。肩にアニキを乗せたって重さも感じないに……いやお菓子食べ始めたら汚くて払ってしまいそうだから止めよう。飛び降りようとしそうだし。

そんなつまらない夢想にふけりながら靴を脱ぐ。山に適していない安物はすっかりボロボロになってつま先が破れて開いてしまっていた。

ため息を吐いて膝を抱えた。

一人だとすぐに暗い部屋にいた時の事が浮かんできて気持ち悪くなるから騒がしいアニキがいたほうがマシなのに。

今回は帰ってくるだろうか。アニキは気まぐれだしおれのことを忘れて山を下りてしまうかもしれない。今回は覚えていたとしてもいつか忘れるかもしれない。何処かの国では山にいらない人間を捨てていくという話を思い出したが……アニキならそんな遠回しな事はしないでさっさと殺すだろう。

アニキはおれのことを助けたんだから殺す権利もある。でも一つワガママが言えるなら棄てるときは

「山より海が良い」

「そうだね」

顔を上げるとアニキが大きな葉っぱを傘代わりに立っていた。

「私も海が好き」

ぽつぽつと跳ね返る音で雨雲が近づいていたことに漸く気づいた。

「木に登った時に群生してるのが見えたからちょうど良かったよ。その靴はもうダメそうだね、やっぱりおんぶするよ」

「平気だって言ってるだろ」

「今回は騙された私のミスだから、お詫びさせて」

ごめんね。と、もう一度謝るアニキに俯く。

「…別にいい…………そんなの」

「ありがとう」

しゃがんだアニキの背中に仕方なくしがみつくと少ない荷物と葉っぱを持って歩きだす。雨の勢いは強くなっていった。

「濡れないようにしっかり掴まって」

泥濘んでいく地面が背負われた分遠い。

背中に顔を埋めて呟いた言葉はうまく雨の音に混ざってアニキに届かないでくれた。