twilight
フィリアside in
校舎の窓から紅い一矢が放たれた。
アレはアーチャーの宝具、『放たれし信力の一矢(アプフェル・シーセン)』だろう。あれが放たれたのならば確実にあの大妖蛇の核を貫いたはずだ。
だが結果として一瞬動きを止めただけで大妖蛇は健在、しかもアーチャーがいた教室に頭をひとつ突っ込んで行ったのだ。
「っ!?アーチャー!!無事か!?」
(すまん、腕を1本持っていかれちまった。これじゃあ宝具は撃てん…一旦ここから離れて体制を建て直す…)
念話越しの声が心なしか弱くなっている。
(少なくとも核はひとつ潰した、だがもうひとつある筈だ、どうにかしてそれを…)
(!?アーチャー!アーチャー!!!)
まずい、アーチャーの様子が変だ。確認しなければ…!
「すまない二人共、アーチャーが失敗した」
「なんですって!?」
「核が複数あったようだ、悪いが私はアーチャーを回収するために一旦離脱する」
その一言と共に自身に強化の術式と気休め程度の蛇避けの呪い(まじない)をかけておく
「大丈夫なのか!?」
「問題ない、ライダーとバーサーカーで何とか大妖蛇を留めてくれ」
そう言って校舎へと駆け出す、まさかアサシン相手(本人では無いが)にアーチャーの腕を持っていかれるとは…。
後悔は後だ、今はアーチャー回収と状況の建て直しをしなければ───!
フィリア side out
神永 side in
作戦が失敗した、それを聞いた瞬間理解が追いつかなかった。
何故だ、何故核となる部分を撃たれて尚健在なんだ…!?
「まさか…呪いの核とアサシンの霊核のふたつがあるの!?」
美作が言った事は絶望を突きつけるようなものだった。
あの大妖蛇はアサシンの宝具だ、そしてアサシン自身が消えなければ魔力の続く限り再生をし続ける。
アーチャーが貫いたのは宝具を構成する呪いの核とも言える部分なのだろう、だがアサシンの身体は未だ蛇にありそして呪いそのものはアサシンから供給され続けている。
「一体、どうすりゃいいんだ…!?」
核のみを潰しても意味は無い、ならばあの巨体を一撃で吹き飛ばす必要がある。だがライダーにも、バーサーカーにもあの巨体全てを吹き飛ばすほどの宝具は無い。
もう、手の打ちようがない───
「おや、未だに祭りは続いていたのかね」
後ろから、聞いた事のない男の声がした。
「ほう、アレは伊吹の荒御魂、その呪いを暴走させた代物か。限定的に八岐大蛇を再現した強力な呪詛とも言えるな」
後ろを振り向くと状況を観察しているスーツ姿の男が立っていた。
「貴方、誰かしら」
宝石を男に構えた美作が問う。男は冷静に俺たちを見て
「失礼、自己紹介が遅れたか。私の名前はトーマス・ディオクレア。セイバーのマスターだ」
右手の甲に刻まれた令呪をこちらに見せながら後ろに鎧姿の男が姿を現す。
「こっちは私のサーヴァントのセイバーだ」
「紹介に預かった、セイバーだ」
そしてトーマスはこちらにある提案をしてきた。
「セイバーの宝具ならばあの大妖蛇を確実に消し飛ばすことが出来る。手伝ってくれるかな?」
「巫山戯ないで!あの大妖蛇を一撃で消し飛ばす宝具ですって?少なくとも対軍クラスの宝具でないと───」
「私のセイバーの真名はジークフリート、それでいいかね?」
今、この男はなんといった…!?自分のサーヴァントの真名を即明かしたのか!?
「竜殺しを行った大英雄にして宝具は対軍宝具、これならば異論は無いかな?」
「───」
美作は絶句していた。初対面でいきなり真名を明かしましてや宝具の詳細をも明かしたのだ。聖杯戦争という状況において明らかに異常と言ってもいい。
「何、今は非常事態なのは見ればわかる。少し様子見をさせていただいたがアーチャーの宝具では無理だったのだろう?」
「──わかった、なら何をすればいい」
「ちょっ、隼人クン!?いきなり何を!」
「今の俺たちじゃアレを倒せない、やれることなら全部やるべきだろ」
感情論的には後からでてきたトーマスに持っていかれるのは癪だ、だがアレを俺たちだけで倒すことはまず不可能だ。
「…わかったわ、バーサーカーとライダーに何をさせればいい?」
「至って簡単だ、宝具に巻き込まれないよう離れているよう伝えたまえ」
「わかった、ライダー!バーサーカーと退避しろ!」
「!?…畏まりました!」
その言葉と共にバーサーカーの首根っこを引っ掴んだライダーは此方へと退避する。
「セイバー、校舎を巻き込まないように宝具を解放しろ」
「了解した、───邪悪なる竜は失墜し、世界は今、洛陽へと至る。」
セイバーが大剣を、伝説に語られる竜を殺した剣(つるぎ)バルムンクを体の正面に構える。
剣の柄からは凄まじい魔力が迸り(後に教えてもらったがアレは真エーテルという神代の魔力らしい)剣から直上へと登っていく。
「…綺麗」
美作はその剣に見惚れている、確かにアレはある種の美しさを称えている、だが俺にはそれ以上に恐ろしく感じた。何れはあの剣と相対しなければならないのだ。
セイバーは1本右足を後ろに下げ大地を踏みしめる。
「撃ち落とす、幻想大剣・天魔失墜『バルムンク』!!!」
黄昏の剣が大妖蛇へと振り下ろされた。
その輝きは黄昏時のようで───
光が晴れた時、そこには巨大な剣が振り下ろされた跡のみが残っていた。
神代 side out