the Servant-fes Shark(2)

the Servant-fes Shark(2)


「グオオオオオッ!!!」

「ギャオーンッ!」

「チギャウ…チギャウ…」

「シャシャシャシャァーッ!!怖いか人間どもよ!己の非力を嘆––––––ギャー!」

数が!多い!
なんか変な鳴き声の奴いなかった!?

「先輩、そもそも本来サメは肺を持たないため鳴き声は発しません!

 –––––見えました、入り口です!あそこまで走れば–––––」


「だ、誰ですかあ!?かわいいサメちゃんたちをこんなことにして!け、警察呼びますよッ!?」

木立がガサガサと大袈裟に音を鳴らし、中から人影がおたおたと音が鳴るような動きで転がり出してくる。

きたかと思えば–––––そのまま「ひィッ」と悲鳴をあげて近場の木の影に隠れてしまった。

静寂が(正確にはおそらくサメのものであろう胡乱な鳴き声はそこらじゅうに響いているのだが)、その場を支配する。

あひぃ、うひぃ、と奇妙な声をあげながらこちらを睥睨する姿をしばらく困ったように見つめた後、おそるおそる口火を切ったのはマシュであった。

「…あの、こちらの管理者をやっていらっしゃる方で間違いないでしょうか?確か、ペネロペイアさんというお名前だと……」

「ア、ハイ、ソデス」

蚊の鳴くような声で返事が飛んできた後、人影がまた一歩遠くへと後退する。

ホテルからの依頼を受けて来たものですよー!
怖くない、怖くない

声をかければ、今度は一歩前進。

「……おひい様からの使い……?」

「マグダレーナさんの旦那さんがこちらにいらっしゃるということで、一般開放の準備をしていただけないかということです!」

ぬるぬると近づいてきていたそれが、「あ゛?」という声とともに静止した。


「絶対嫌です死んでも嫌ですせめておひい様に直接説得されたいですサヨウナラ!!!!!!」

「ああっ、逃げました!」

追いかけよう!

思ったより遅い足で駆けていく姿を、二人が追走する。門を潜り抜け、扉を潜り抜け、薄暗い部屋に入ったあたりでようやく逃亡者の方が痺れを切らしたように振り向いた。

「……………さよならって言ったんだからさよならしてくださいよ!」

「そうはいきません。こちらも正式に依頼されて来ていますし、本来この施設は解放されているものだとも伺っています。

 第一––––––このように胡乱な生物を野放しにしておくのは危険です!管理者責任ではないかと!」

「うぐう……生命の神秘を理解しない愚か者どもめえ……ッ!かくなる上は!」

ぽち、というボタン押下音が鳴った後、建物そのものが鳴動するかの如き轟音が鳴り響く。

開いた扉の中には–––––

なにこれ
かっこいい!

「ふふふふふ!これぞ現時点での最高傑作、メガロヘプタヘッドゴーストクラーケンシャーク!この最強怪獣できみたちをぶちのめした後、あの身の程知らずも八つ裂きにしてくれるわーッ!!!!」


(中略)


「負けたー!?」

「メガロヘプタヘッドゴーストクラーケンシャーク…凄まじい強敵でした。

 霊基の強度で言えば神代の怪物にも届きうるポテンシャルを感じます…!」

大暴れしたことでいささか緊張が解けたのか、ぐんにゃりと地べたに寝転がったメガ(以下略)鮫の後ろからぬるりと顔を出したペネロペイアが「それはそうでしょ」とか細い声をあげる。

「ここの特異点、動物も植物も生態が異常だし。

 弄りやすい、というか、都合がいい?

 特にサメ、どこにでも現れるしなんでも食べるし混ぜ物も簡単だから、何かあった時のために管理しておくように言われてできたのがここ…デス、ハイ」

「なるほど。つまり、その備えのために最終兵器として最強のサメを作ろうとしていらっしゃったのですね」

「いやそれはただの趣味。完成したら浜辺に放ってリア充を片っ端から食い殺してもらう予定だったんですけどねえ」

怯える子鹿のような声音で洒落にならないことを言う。

「…ま、最有力候補がやられた以上は仕方ないです。

 癪で仕方ないけど、あん畜生が来てる間ぐらいは大人しくしますよ。坊っちゃまも来るならそっちに引っ付いてればいいし」

「では、このサメの群れをなんとかしてくださるということですね!」

「…も、もともとどこからともなくぽこじゃか溢れ出てくるものの量と発生源を絞ってるだけだから、浜辺に沸かなくなったりはしない…よ?」

本当になんなんだアレ
生命の神秘すぎでは?

「うーん、多分生命でもない…

 箱庭に書かれた落書きみたいなもの、もしかしたら白血球みたいな…」

モソモソとなにやら呟きながら歩き去る暗黒コミュ障(センターちょう)。

「(任務達成、でいいのでしょうか)」

たぶん



センターから歩み出て、山道を下る。

「…今までおかしいと思っていなかったのですが、なぜ「ふれあいサメセンター」が山中に存在しているのでしょうか」

考えたら負けだよ
実は淡水魚なのかな

頭の痛くなる考察を繰り広げていると、前方から坂を登ってくる人影が見えてきた。

けっこう険しい山道であるのだが、(なぜサメの生育施設が険しい山の中にあるのだ?)息を切らす様子ひとつ見せず登って来たのち、二人の前でぴたりと足を止める。


「……カルデアの者か。こんな所でなにをしている」

何故かやや不機嫌さの滲む声に、二人の側にもやや緊張が走った。

「ホテルからこの先にある施設でのトラブルを解決してくるよう緊急の依頼があったので、今終わらせて来たところです」

「…………………あの方が他所の者に作業を任せるとは……

 そんなに、忙しいのか」

「…ええと…確かタスクが溜まりすぎて昨日寝てないわーつらいわーと仰っていた気はしますが」

試験前の人みたいだったね
どっかの金ピカ王様みたいでした

「………………………。 

 ……そうか、もう行っていいぞ」

スタスタと歩み去っていく男の姿を見ながら、二人は首を傾げて顔を見合わせた。

「なんだったのでしょうか」

さあ…?

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