the Ministry of Magic are Morons Group
requesting anonymityその欠片の配慮もないダンブルドアの少年時代エピソード暴露と、何より実戦的極まりない授業内容で全ての生徒から大人気を博した「闇の魔術に対する防衛術」の新任教師だったが、どうやらそれがいけなかったらしく「高等尋問官」なる肩書を名乗っているアンブリッジの査察に引っかかり教職を追われてしまったのだった。
現状を正しく認識していながら、恐怖のあまりそれと向き合うことをやめてしまったファッジ魔法大臣は「ダンブルドアが自分を追い落とすべく軍隊を作っている。ありもしないヴォルデモート復活を主張しているのはその大義名分作り」という妄想に取り憑かれており、これに基づいて件の新任教師の「実戦的極まる教育」を問題視したのだろうとハーマイオニーは推測していた。
そして、取って代わったアンブリッジの授業が「実践皆無という点を差し引いても」退屈極まるものであった事により、ハーマイオニーは「もう自分達でやろう」という結論に至り、まずハリーとロンに相談し、計画を具体化してホッグズヘッドで会合を開き「魔法省はみんなマヌケ」もとい「ダンブルドア軍団」結成となったのだった。
「同じ内容同じ教育方針でも、フリットウィックやマクゴナガルなら100倍楽しませてくれるって確信を持って言えるね」
とはロンの言だが、それはハーマイオニーも含むみんなの総意だった。
しかしハーマイオニーは気づいていなかった。ダンブルドア軍団の他のメンバーも全ての生徒も、アンブリッジも気づいていなかった。その「教職を追われた新任教師」が、まだ生徒に紛れて普通にホグワーツ内を闊歩し、果てはダンブルドアとの事前の相談により現在校長室に入る合言葉を決める権利すら委譲されている事に。
「アンブリッジ先生、ごきげんよう!」
廊下で通りがかってニッコリ挨拶してきた小さなスリザリンの1年生らしき女の子にアンブリッジは「ごきげんよう」とそっけなく返したが、1年生が首席バッジを付けている事はありえない事にも、その首席バッジがよく見ると「酒石酸」と刻印された模造品である事にも気づいていなかった。
その「スリザリンの1年生の女の子」は校長室の前まで来ると、入り口の階段を守るガーゴイルに向かってハッキリと合言葉を唱える。
「ウィーズリー」
ダンブルドアの学生時代の先輩であるその人物の気まぐれと飽きっぽさによって校長室に入る合言葉は現在、日替わりであった。昨日は「ハグリッド」その前は「お肉」という適当さだったが、結果としてコレがアンブリッジやその支持者に対するセキュリティの向上に一役買っていた。
「お前は『留守居』であって『校長』ではないと理解しているだろうな?」
校長室の壁に並ぶ歴代校長の肖像画の内の1つが、「スリザリン1年生の女の子」に厳しい口調で釘を刺した。
「わかってますよーだ。………でもブラック校長だってわかってるでしょ?僕はあのドローレス君とは違って、校長室そのものに拒否されて締め出されたりしてない。そんな機能があった事自体知らなかったけど。でもこれつまりあのドローレス君って、ブラック校長よりもこう、言ってしまえば『駄目』って事ですよね?どこが校長室の判断基準なんだろう……?ブラック校長も子供嫌いですもんね?」
自分の学生時代の校長に対して敬意も何もない物言いをするその『職を追われた新任教師』だったが、しかし『歴代で最も人望が無い』そのブラック校長ですら今は積極的な協力姿勢を示していた。
「特にお前が嫌いだが、おそらく問題はそこではない。あの不愉快な女は上に立つ事それ自体を目的にして校長の座を欲している。生徒を『支配』する為に。そんな奴は校長室に入る資格などない。もちろんお前にも校長になる資格など無い」
ブラック校長の肖像画が不機嫌そうに吐き捨てた。
「なんでそういう事言うのさ!僕子供大好きなのに!」とダンブルドアの留守を預かるその「スリザリンの1年生の女の子」が頬を膨らませて文句を言うが、ブラック校長の肖像画は露骨にイライラしながら叱責する。
「少しは片付けろと言っている。魔法生物をのさばらせるのはまあいい。食べかけの菓子を出しっぱなしにするな。衣服を脱ぎ散らかすな下着姿で歩き回るな!」
「お父さん……………」
「どうにかして呪いをかけてやろうか貴様!」
元校長の肖像画と「ダンブルドアに留守を任された先輩」のそのやりとりを眺めていた他の歴代校長の肖像画達がクスクスと笑い始めていた。
「なにが可笑しいのですか皆様方!」とブラック校長が声を荒らげる。
「ごめんなさいねフィニアス。でも随分仲がおよろしいようなんですもの………」
17世紀に校長を勤めた魔女、アントニア・クリースワーシーの肖像画がどうにかこうにか笑いを堪えながら言った。
「「仲良くない!!」」
「ダンブルドアの留守居役」とブラック校長が同時にそう言った事によってその魔女クリースワーシーはとうとう口元を袖で隠して笑い出した。
「あ、そうだ。訊きたいことがあったから来たんだった。サー・クリースワーシー。今のところ大丈夫そうだからずっとほったらかしてたんだけどさ、あの子達結局どこで集まってたの?日時はこのコインが教えてくれてたんだけど、僕場所がわかんなくて。ちょっとやりたいことがあるんだけど………」
「変幻自在術」がかかった偽物のガリオン金貨を見せながらそう訊いた「留守居役」はいつの間にやら7年生くらいの女子になっていた。その女生徒の質問に、クリースワーシー校長の肖像画はニッコリと笑って答える。
「あなたがよくご存知の場所ですわ」
そう言ったクリースワーシー校長は、青年の「ハニーデュークス?」という頓珍漢な推測に笑わされながらもキチンと報告した。
「『必要の部屋』です」
それを聞いた「7年生の女生徒」はあっという間に校長室から駆け出していき、その後ろに数匹のデミガイズが透明になったまま続く。このデミガイズ達はここのところずっと旅行かばんの外に出たままついて回っている「助手」だった。
「ねえ、これどういう事???」「私だってわからないわ!」
ハリー達3人は心底混乱していた。「ダンブルドア軍団」の会合日時を知らせる為に使っていた「変幻自在術」のかかったコインの日付が勝手に変わり、今日の20分後を示しているのだ。マリエッタ・エッジコムの密告によってアンブリッジに証拠を掴まれて以来、実質解散状態となっていたのにも関わらず。
それに本来、ハリーの持つ「親」のコインの変化に合わせて他のメンバーのコインが変化する仕掛けなので、これはありえないはずの事だった。
「行ってみるしか無いだろ?『必要の部屋』に」
そのロンの意見に結局ハーマイオニーもハリーも、ダンブルドア軍団自体は発覚してしまってもこの連絡方法はバレていないという確信を持っていた事もあって同意し、理解不能の事態に混乱し警戒しつつも「必要の部屋」に向かうのだった。
「なあ、どういう事だ?」「君たちじゃないの?」「違うわ」
ハリー達が恐る恐る入室した時「必要の部屋」には既にダンブルドア軍団のメンバー全てが集まっていた。ただ2人「密告者」マリエッタ・エッジコムとその親友であるチョウ・チャンを除いて。
「誰が招集をかけたんだ?君ら以外には不可能なんだろ?」
シェーマス・フィネガンがハリー達3人に訊くが、それはハリー達の方こそ答えを教えて貰いたい疑問だった。
「でも誰であれ、冴えてる行動って気がする」「アンブリッジじゃなきゃ、な」
フレッドとジョージが言い、それにルーナ・ラブグッドが「コレがアンブリッジの罠だったらとっくに捕まえに来てると思うな」と返す。
「冴えてるって何がさ?」と訊いたロンに、双子は同時に返答した。
「「既に何もかも終わった事件を誰がもう一度捜査するってんだ?」」
フレッドとジョージの指摘はもっともだった。
「いいか、俺たちの集まりはアンブリッジにバレた。あの世にも珍しい喋るガマガエルは、それでダンブルドアを追い出して『勝った』と思ってる」
フレッドの言にジョージが続く。
「俺達だって『D.A.は終わった』って思ってたし、お前らだって招集をかけるつもりは無かった。だろう?だから、今ここに集まってるなんて誰も思わない」
ジョージのその発言は、皆の最大の疑問を改めて浮き彫りにしていた。
「じゃあ、誰が呼び出したんだろう?」
ネビル・ロングボトムがそう言った瞬間「必要の部屋」の皆が集まっている入り口周辺の反対側、部屋の奥の空中が燃え上がる。
「やあみんな。僕も仲間に入れてほしいんだけど、いいかな?」
不死鳥を伴って炎の中から「姿現し」したのは職を追われたはずの「闇の魔術に対する防衛術」の先生だった。
「え、先生!!ホグワーツからいなくなっちゃったんだと思ってた!!」
「うそ!ホグワーツでは『姿現し』できないはずなのに!」
「フォークス?フォークスじゃない!先生その不死鳥はなんですか??」
大爆発した歓喜と同じくらいの混乱にも襲われているその場の「D.A.」メンバー達に今年の「闇の魔術に対する防衛術」の教師であった、スリザリンの制服を着た7年生の女生徒は順を追って説明する。
「僕ずっとホグワーツに居たよ?皆とも廊下ですれ違ったりしてるし、おんなじ授業受けた事もあるよ。校長室で寝泊まりしてる。けど教職を追われたのは事実だから、肩書きは『来賓』だね。『後の予定が詰まってたりしないからずっと居る来賓』それとこれはマリエッタ・エッジコムが持ってたコイン。あ、ミス・グレンジャー。勝手にイジってごめんね?皆が持ってるそのコインにも僕がやった変更が反映されてると思うけど、コインのこの、裏側のココ。なんか書いてあるでしょ?」
皆は一斉にコインを取り出し、言われた通りの部分を注視し始めた。
「『ウィーズリー』?なんです先生これ」とロンが訊ねる。
「校長室に入る合言葉だよ。今は僕が決めてるの。わりと頻繁に変えてるから気をつけてね。それとコイツは校長先生のフォークスじゃなくて僕の不死鳥。名前は内緒。あとホグワーツでは『姿現し』も『姿くらまし』もできないってのは正しいけど、何事にも例外ってあるんだよ。それと一応言っとくけど、校長先生が今どこに居るかは教えられないからね」
そのスリザリンの女生徒がそう言ったのと同時に「必要の部屋」が大きく変化し始めた。広く、天井が高くなり、壁にいくつもの肖像画が現れ、隅の方にはソファやら机やらが揃った寛ぎスペースが有り、それどころか別室に繋がっているらしき扉もいくつか出現した。
「さ、D.A.をやろうよ。皆も『実践練習』し足りないだろう?」
ハリー・ポッターは笑顔で提案を受け入れ、その場の全員が待ちきれない様子で杖を取り出した。
「ん?この集まりは君のものだろうハリー・ポッター。何をやるんだい?本来は次に何をやるつもりだった?」
女生徒のその問いに、ハリーは少し考えてから答えた。
「僕、先生から習いたいです」
そう言われた女生徒は笑いながら、もう一度同じ質問をする。
「そう言って貰える事を期待してここに来たからその申し出は嬉しいけど、それでもこの集まりは君のもので、僕が横から掠め取っていいものじゃないと思う。だから、君に決めてほしい。『今日は何をやるんだい?』」
それでもハリーは断固として譲らなかった。
「何をやるか決めていいなら『先生の指導を受けます』。そもそも先生が授業を続けていられたらこのような集まりを結成する必要はありませんでした」
女生徒はかなり難しい顔をした後「条件がある」と言い出した。
「ハリー、君も指導役だ。僕しか教えられない内容で無ければ。さ、とりあえず……ネビル・ロングボトム。僕に『武装解除呪文』を唱えてくれるかい?」
いきなり指名されたネビルはびっくりしながらも「エクスペリアームス!」と唱え、見事に女生徒が手に持った杖を弾き飛ばしてみせた。
「お見事!ネビル。そして君はいい教師だったみたいだねハリー。だけど、こういう技術があるんだ―『アクシオ』」
女生徒は床に転がった自分の杖を手元に「呼び寄せ」て見せた。
「『杖なし呪文』。カリキュラムが根本から違うワガドゥーで学んだ者を例外とするなら、これができる魔法使いは本当に少ない。時にハリー。ヴォルデモートにこれができないと思うかい?ベラトリックスはどうだい?他の死喰い人達は?」
「ヴォルデモートは間違いなくできます。できないわけがない。他の奴らにしても、できないと決めつけるべきじゃない」
ハリーは冷静に答えた。
「じゃあハリー、僕に武装解除呪文をかけてくれるかい?…………僕が君に何を期待しているか、わかる?」
女生徒が「ほらどうぞ」とばかりに示した杖を見据え、ハリーはハッキリと唱えた。
「エクスペリアームス!」
そして呪文は女生徒に命中してその手から飛んだ杖は宙を舞い、ハリーの杖を持っていないほうの手の中に収まった。
「そうだ!ハリー・ポッター。まさにそれだ!杖を飛ばしちゃうだけじゃなくて、自分の方に飛ばして、奪っちゃう。そしたら自分で使ってもいいし、予備として持っといてもいいし、なんならいっそ折っちゃえばいい。君らの疑問を先回りしてみよう。『杖なし呪文を使える奴から杖を奪う意味は?』さあ、誰か答えられるかい?」
ハリーから杖を返して貰いながらのその質問に、ハーマイオニーが手を挙げた。
「杖なしで使う呪文は、通常、杖で同じ事をする場合と比べていくらか弱くなるからです。つまり、杖なし呪文を使える魔法使いでも、杖を使うに越したことはない」
ハーマイオニーの回答を女生徒は称賛する。
「まさにその通りだハーマイオニー!ヴォルデモート相手にそんなマネができるかは置いといて、杖を奪われればその者の使う呪文はかなり弱体化する。僕の場合だと、床に転がってるならともかく、誰かがしっかり持ってたり何か重いもので抑えられてたりしたら『呼び寄せ』られない。杖でやれば余裕なのにね。だからまずコレを練習しよう。『武装解除』で杖を飛ばすんじゃなく、奪う。ちょっと難しいけど、身につけたら便利だよ」
そして2人1組になっての「武装解除術:応用編」の練習が開始され、ハリーは皆を指導して回り、女生徒はその光景を眺めながら時々助言をするが、基本的には肖像画と話し込んでいた。
「ホントに君によく似てるねえギャレス」
女生徒は壁にかかった肖像画の中の友人に話しかける。
「僕あそこまでハチャメチャだった覚えはないけどね?」
「君と同じで明るくて優しいいい子達じゃん。それにイケメンだし美人だし」
そんな風に笑い合いながら2人が眺める先では、フレッドとジョージ、ジニーとロンがそれぞれペアになって「杖を奪う」練習をしていた。
「エクスペリアームス!……ああ今のは取れてたのに!」
自分の方に飛んできたロンの杖をキャッチし損ねたジニーは悔しがるが、ハリーは「良いよジニー!上手だ」と褒めた。
「青春だねえ」と、褒められたジニーの喜びようを見て女生徒が呟く。
「先生、その人が僕らのご先祖様?」「ダンブルドアが教えてくれたんだけど」
早々に百発百中で成功するようになったフレッドとジョージが近寄ってきた。
「そうだよ。『ギャレス・ウィーズリー』。学生時代にフェリックスを作っちゃうくらい魔法薬学の天才なんだ。ギャレス、こちらフレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリー。たぶん、君の兄弟姉妹か従兄弟の誰かの、ひ孫かひひ孫だと思うよ」
「血縁がどう繋がってるのかはハッキリわからないってダンブルドアも言ってた」
フレッドがギャレスの肖像画に挨拶しながら言う。
「けどウチの一族だってのは確信を持てるね。賭けてもいい」
そう言ったジョージに、額縁の中のギャレスが問いかける。
「君たち本当に、卒業せずにホグワーツから出てっちゃうのかい?」
それに対する双子の回答は、同じ事を年度初めにダンブルドアから訊かれた時と同じだった。
「そうだよ。先生の授業はちょっと気になるけど」「僕らやりたいことがあるんだ」
それを聞いた女生徒は大いに唸り悩んだ後、決意してフレッドとジョージに言った。
「僕は君たちに教え足りない事があるから、もし君達にそのつもりがあるなら来年度以降ホグズミードに来て。そこに僕の家があって、そこでお店やってるんだ。君たちのビジネスにも助けになれると思う。材料の仕入れ先が間に合ってるなら別だけど」
双子は女生徒から差し出された「ホグズミードの地図」を受け取る。そこには1つ赤い印が打ってあった。そこがその「自宅兼店舗」なのだろう。
「あ、でも今日もう出て行くってわけじゃないよね?」
「「違う」」
双子のピッタリ揃った返事に、女生徒もギャレスも笑う。そしてその時。
「エクスペリアームス!………やった、できた!僕、できた!!」
「すごいよネビル。わたしの杖取った!」
ネビル・ロングボトムは見事に武装解除術でルーナの杖を奪い取って見せ、それを慌ててルーナに返しながら2人して大喜びしていた。それはハリーの指導が着実に成果を上げている証拠であり、この会合が大いに意義深いものである事を示していた。