無題

無題

😊

グラドル結婚小僧はかわいい。


兄ちゃ主人公2周目ENDからの閃堂×潔成立を考えた結果。

※潔はいろいろ吹っ切れてる。バスミュン所属

※閃堂かわいい。所属は謎。たぶんユーヴァース?

※ちょこっとカイザー


真にかわいそうなのは愛空じゃないか?と思う自分がいる。


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 どれだけ忙しくとも年に一度、正月だけは実家に戻るようにしている。同じく世界で活躍する青い監獄での戦友たちもほとんどが俺と同じ。なのでこうして師走の街を歩いていると、見知った顔を見つけることもある。
 とはいえあくまで可能性があるってだけの話。偶然同じ日に出歩き、同じ時間帯に、同じ場所にいるなんて、砂粒みたいな確率だ。そのキラキラ輝く砂粒に感謝しながら、ちょっとした悪戯心を引っ提げて。

「閃堂選手、握手してください!」
「! ああ、モチ――…げえっ!」
「げえ、ってなんだよ」

 直接対面するのはいつぶりになるだろう。黙って澄ました顔をしてればかっこいいのに、どうしてこう顔がうるさいかな。そこが愛嬌なんだけど。
 握手するため意気揚々と振り返ったポーズのまま固まった閃堂の肩を叩く。「夕飯、一緒にどう?」と声を掛けると、「ぬか喜びさせんなよ…」の恨み言と共に首肯が返った。



 居酒屋の個室に入って一時間以上が過ぎた。閃堂の箸が置かれたことに気付く。スマホ片手に嬉しそうな顔だ。誰か親しい人と連絡でも着いたのか。少し気になって、対面の席から隣へ移動する。俺が隣に座ったことには気付いているはずなのに、閃堂はスマホから顔を上げない。ちょっとおもしろくないな。構えよ、の合図に肩に顎を乗せ、間近に顔を見上げる。

「何かあった?急ぎの用?」
「おあっ!?」
「閃堂、うるさい」

 金魚みたいに口をパクパクさせて、ちょっと間抜けな顔になってる。どうしたんだよ、と言いながら頬を突く。お、意外とやわらかい。
 こいつとこんなに近付くのは初めてかも。いや、肩を組んだことくらいはあったかな。いい匂いがする。香水? あ、首にほくろ見っけ。
 とりとめもないことばかり考えている俺は、たぶんちょっと酔ってる。蜂楽や千切、國神あたりとは休日が重なる度に連絡を取ったり、都合が合えば直接会ったりしてるけど、閃堂とは本当に久しぶりで、浮かれた頭がアルコールの周りを早くしてるんだ、きっと。

「お前は俺の彼女かっ!」
「んん?」

 肩を震わせ、顔を真っ赤にして閃堂が叫んだ。
 何か、主に距離感を間違えたっぽい。言われてみれば、たしかに。こんなやりとりをして嬉しそうにしてるのはカイザーくらいのものだった。『世一、キントゥバ…?とやらを買ってきてやったぞ』と言いながら俺の肩を抱き寄せたり、『お前の体質ならこっちのケア用品の方が合ってるぞ世一』と手ずからケアの方法を実践してくれたり(ネスが背後でぶっ倒れそうになってた時はさすがに笑った)、『世一ぃ』特に用もないのに俺の名前を呼んでは肩に顎を乗せ…思い返せば世一、世一ってうるせえなあいつ。お土産買って帰ってやるか
 にしても、まあ。同じ台詞でも印象っていうのは変わるものだ。遠い昔、再会した幼馴染に投げかけられた言葉は鋭いナイフみたいだったのに、閃堂が口にすると冗談や照れ隠しの類にしか聞こえなかった。

「で、何があったの?」
「お前に会ったって昔のチームのグループに送ったら、愛空から『一緒に写真でも撮って元気な顔を見せてちょーだい』って…つーか近い!」

 ぐいぐい肩を押して距離を取ろうとしている閃堂だけど、実際のところ込められた力は大したことがない。本気で嫌がってるわけじゃないってことだ。会うのが久しぶりだし、距離感がわからなくなってるのはお互い様かもしれない。だって以前なら、向こうから肩を組んだりハイタッチしたりしてきたし。
 というわけで、”閃堂も照れてるだけで実はスキンシップを喜んでる説”という俺にだけ都合のいい説を唱え、”愛空も写真を欲しがってるし”という建前のもと、無理やり引っ付いて写真を撮ることにした。

「おっし、写真撮ろ!はいチーズ!」
「あ、バカ!それ俺のスマホだっつーの!勝手に――」

 俺のスマホはちょっと離れた机の上。取りに行くのも面倒だし、愛空たちに送るなら閃堂のスマホからの方が勝手がいい。
 そう思って閃堂の手からスマホを借りれば(奪ってはない。すぐ返すつもりだし)慌てた閃堂が取り返そうと手を伸ばす。スマホを持つのと反対の手を後ろについて仰け反った俺の上体に、閃堂の体重がかかる。当然ながらアスリートの体だ。けっこう重い。何より俺は、割と酔っているのだ。
 カシャ。機械音が湿った音をかき消した。でも、俺の耳はしっかり聞いてしまった。ちゅ、なんてかわいらしいリップ音。
 バランスを崩した俺の上に閃堂が覆い被さって、つまり、まあ、そういうこと。俺たちはキスをしてしまった。びっくりした顔で瞬きを繰り返す閃堂の睫毛の長さに気付く。カイザーはもっと長かったかも。冴くんは…どうだったかな。

「…お、送る?」
「わけねーだろ!」

 ふらふら。風に揺れるともしびみたいに頼りなく起き上がった閃堂に、今しがたうっかり撮れてしまった週刊誌もびっくりのスクープ写真を見せると、ツッコミと共にスマホを奪い返された。
 肩に顎を乗せた時よりさらに赤い顔をして、まじまじとスマホの画面を見ている。無意識なんだろうけど、空いた手の指先で唇を撫でていて、そのやわらかさとか、吐息の温度とか、いろいろ思い出しちゃって、だめだった。

「俺だけの思い出にする。…い、いや、今のなし!しないから!」
「…俺たちの思い出だもんな?」
「ああああ!何なんだよお前ー!」

 何なんだと聞かれても、俺はまだ閃堂の何にもなれてないけど。でも、俺の中の気持ちはすっかり固まってしまった。
 ちょろいと笑うなら笑え。キス一つで固まる安い気持ちだと笑い飛ばしてくれ。

「俺さ、閃堂のこと好きかも」

 数秒の間を置いて、閃堂が至って真剣な顔をして口を開いた。

「…俺はたった今、潔のことが好きになった気がする」

 告白されて秒で好きになってら。ちょろいなこいつ。
 キス一つで好きになった自分を棚に上げ笑うと、真っ赤な顔で「文句あっか!」と言われた。
 ない。全然文句なんかないよ。
 好きな人が好きになってくれるのって、こんなに幸せなんだって、初めて知ることができたから。

「ところで俺、ハリウッド女優じゃないんだけど」
「いつの話してんだよ!…潔がいい」

 負けた。今ので完全にノックアウト。
 酔いと口づけで浮かれた俺の心をあっさり撃ち抜いて、照れ笑いする閃堂の袖を引く。
 こんな馬鹿みたいな始まりでも、お前となら楽しくやっていけるって思うよ。
 近づく温度に瞼を下ろし、心の中で呟いた。


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