麦わらの一味 マチカネフクキタル スリラーバーク編 幕間+第13話(完結)

麦わらの一味 マチカネフクキタル スリラーバーク編 幕間+第13話(完結)

モリカフェの人


幕間【"怪物狩り"ナリタブライアン】

メインマストの屋敷、モリアのダンスホール


フクキタルたちとホグバックたちの戦いが終わってしばらく。床に穴が開き、壁は砕けたダンスホールに、ゲッコーモリアは立っていた。

外への廊下を走る途中、首尾よく"影法師(ドッペルマン)"と入れ替わり、ルフィを森へと誘ったところだ。


「キシシシシ」


その手には、何気なく拾った"摩天楼"が収まっている。

穴の淵に立ち、一つ下の階を眺めたモリアは、瓦礫に埋まるマンハッタンカフェを見つけ、ひと際大きく笑い、摩天楼を階下へと投げ捨てた。


「キシシシシ……ずいぶんと、面白くなってきたじゃねぇか!」

「なにがだ?」


独り言に対し、言葉が返った。

意外、とは思っていない。飢えた獣の気配は階段を上り始めたときからずっと感じ取っている。


「そうだな、とりあえずおれにさんざん泣かされて、姉に泣きつきまでした弱虫が姿を見せたことだな。また泣かされにでも来たか?」


振り向けばそこには、鼻に絆創膏を貼った黒髪のウマ娘、ナリタブライアン。

サラシときわどい服の上には、背中に正義と刺繍された白いマントを羽織っている。(Tボーン大佐と同じもの)


「何年前の話をしている。チッ、仕事でなければ誰が好き好んでここにくるか」


イラついた様子のブライアンに、モリアは機嫌よく笑った。


「仕事か! つまり、お前が、おれの、首を獲りに来たってことか!!」

「あいにく、そういう愉快な内容じゃない。今回は退屈なやつだ」

「えぇ~!?」


露骨に嫌そうな声が、損壊したダンスホールに響いた。

そこで二人は、何かに感づいたのか話を止めた。


「……遅い!」

「最初から時間は決めていない、合流も承服したつもりはない」


ブライアンが文句をついた一瞬後、その場に巨大で奇妙な体系の大男が出現した。


「こいつは、珍客中の珍客だな"暴君"くま!!! 政府の言いなりで動く元七武海!!」

「旅行するなら、どこへ行きたい」

「やめとけ……てめぇの能力くらいわかってる。貴様がおれと戦いに来たのか? ……ここへ何をしに来た」

「まず報告事項がある。王下七武海クロコダイル降任の後、その後釜が決まった」

「キシシシ、情報が遅いぜ。黒ひげとかいう男だろ」


寝起きにマンハッタンカフェが告げた内容を思い起こす。聞かない名だが、賞金が0ベリーで七武海入りした未知の男。


(あのお人よしな女が、"逮捕するべき"でなく"早々に消すべき"と評した男、か)

考えながらモリアは、バルコニーに向かって歩いていく。

外では、麦わらの一味とオーズの戦いが繰り広げられていた。

※ルフィは森に誘導されてしまっていたが

「そんな伝言一つをよこすために、監査役までつけたのか? キシシシ、政府ってのは病的な臆病者だな」

「いや、監査役までつけたのは別件だろう」

「別件?」

「政府は世界の均衡の維持を指針としている、おまえが"どちらにも"転ぶことなく、現状が保たれるためにおれが監査役と共に派遣された」

(……そこまで口にするのか)


壁によりかかり、二人の会話を聞いていたブライアンは、この暴君が噂に反して従順でないという印象を覚えた。

モリアは振り返り、血走った眼をし、笑みを浮かべて尋ねる。


「一方はおれとお前が結託して、政府に反逆することだな。で、もう一方はなんだ? 言ってみろよ」

「また一人、七武海が麦わらの手で落とされることだ」


くまの胸倉をつかみ上げ、モリアは怒鳴り散らす。

世話役のゾンビたちが跳ね上がり、ブライアンは右手で顔を覆った。


「ふざけんじゃねぇ!! おれがあの少数で経験も浅い雑魚どもに負けると思ってんのか!!!」

「ロブ・ルッチが敗北したように、勝負に100%はない。それでもおれと怪物狩りが加勢すれば、限りなく100%に近づく」」

「誰に口をきいてやがるんだてめぇ!! あんな連中、おれ一人でも負けるわけがねぇだろうが!!!」


室内の空気を震わせて、怒り狂う言葉が響き渡る。

ゾンビたちはただただ震えて涙を流した。

モリアは外へと向かいなおし、くまとブライアンに叫ぶ。


「いいか! お前たちはひっこんでろ!! もし手を出したら、麦わらどもの前にお前たちから潰すぞ!!」


そしてモリアは外での戦いに参加するため、バルコニーから外へと飛び出した。

残されたくまに、ブライアンが近寄り呆れた様子で話しかける。


「わざわざ煽るとは思ってなかった」

「どうせ最初からこうなる、わかりきっていたことだ」

「……まあいい、ああまで言われたんだ。私は眺めているとする。……だから嫌だったんだ」


そう言い残し、ブライアンは床が崩れた場所から階下へと飛び降りた。

くまは、ブライアンが埋まっている何者かに近づくのを横目で見た後、外の戦いへと意識を向けた。


幕間【怪物狩り・ナリタブライアン】完


これまでのあらすじ


熾烈な争いの後、オーズを打倒し続いてモリアとの激闘を制した麦わらの一味。そこに政府の指令を受けた"暴君"くまが襲い掛かる。

暴君との戦いの末、麦わらのルフィ一人と引き換えに他全員を見逃すという提案を拒否した一行は、"熊の衝撃(ウルススショック)"を受け敗北。

トレセン諸島での借りがあるため、ルフィの命は可能な限り保証するというくまの言葉に対し、ゾロは自らが身代わりになると宣言した。

そして、一行が目を覚ました時には、"暴君"くまの姿はなく。血だらけのゾロと妙に元気なルフィの姿が残っていた。

夜通し戦い続けた者たちが眠りにつく、その裏で動き出すものたち。


第13話【カーテンコール】


固い木の板の上で、アブサロムは目を覚ました。目の前には、青い空! 霧の海域ではありえない風景!!


「!?……おいら、一体どうなったんだ?」

「ようやく目を覚ましやがったか、ずいぶん長く眠りやがって」


身体を起こし、周囲を見渡せばそこは島のそばに停泊する船の上。

そして隣に座り込むのは十年来の仲間、ホグバック。


「ホグバック! あんたがここへ?」

「知らねえよ。おれも目を覚ましたら船の上だった。ゾンビ達も消滅しちまったし、なんだってんだ」


状況に首を傾げる二人の耳に、ずしん、と重厚な足音が桟橋から鳴り響いた。

視線を向ければ、そこには寝転んだままスライド移動して船に乗り込むモリアの姿。

いや、よく見れば下に黒い髪のウマ娘が居た。自分の数倍はある巨体を、片手で持ち上げて歩いている。


「起きたのか。なら早く出航の準備をしろ」

「モリア様! というか誰だ!?」


ホグバックは謎の存在に疑問の声をこぼした。一方でアブサロムは、その姿に背筋が凍り付いた。


「ナリタブライアン……ずっと前にモリア様とやりあった……カフェと同じ七武海監査の女!」

「七武海監査、だと? ……というか、え? カフェちゃんと同じって、あいつ海兵なの!? 聞いてねぇぞ!!」

「モリア様が、めんどうだから黙ってろって言ったんだよ」

「ええ~~~!」


船と空気を震わせて、モリアの体が床板に放り置かれる。

大きな音に思わずそちらを見れば、二人をにらみつける"怪物狩り"。


「聞こえなかったのか? 出航だ」


静かな殺意に、二人は黙って頷いた。



スケスケの能力で船を丸ごと隠し、首尾よくスリラーバークの外へと出た一行。

甲板に横たわったモリアは、ダメージが大きいのか未だに目を覚まさない。


「脱出成功、フォスフォスフォス!!」

「全く、キモを冷やした。それにしてもモリア様が麦わらにやられたとは」

「こうなったのは残念だ。……だがおれァ、このまま敗北者として終わるつもりはねぇぜ!! おめぇもだろ」

「同意見だがモリア様が目を覚まさないことには、なぁ……ペローナもどこ行っちまったんだか。あと、嫁が欲しい、生きた女の」

「なら、起こすか」

((……!?))


不穏なことを口にしたブライアンは船室の屋根に上がり、モリアの巨体へと飛んだ。

右の拳に力がこもり、殺意が周囲の空間を飲み込んでいく。それはナリタブライアンが持つ、極めて攻撃的な領域技。


「"シャドウブレイク"!!」


拳が心臓を打ち貫く、0.5秒前。モリアの瞳が見開かれた。


「ふんっ!!」


反射的に翳された両手が攻撃を防ぎ、モリアとブライアンの間の空間が歪み、周囲に衝撃を散らす。

跳び起きたモリアは、影を手の中に集めると、ブライアンに向かって槍へと変えて投げつけた。


「"角刀影(つのとかげ)"!」

「"皐月衝・漆黒"!」


ブライアンの拳が黒く変色し、三冠技最速の一撃が影を触れることなく正面から砕いてみせる。


「いきなり、なにしやがる!」

「気付けだ。いつまでも寝ているオマエが悪い」

「ああ!!?」

「ちょっ、やめてくれ。船が壊れちまう。おいらは泳げないんだぞ」


必死に懇願するアブサロムに、二人はそっと臨戦態勢を解いた。

次の攻撃を受けまいと、意識だけは互いに向けている。


「で……なんだこの状況は?」

「あいつの頼みだ。近くの島まで面倒を見てやる」

「はぁっ!? なんでおれが、おまえに面倒を見てもらうんだ。余計な世話焼きやがって、奴はどうした!」


ブライアンは黙って船の後ろを、その先のスリラーバークを顎で示す。

マンハッタンカフェは、今もまだ島に残っていた。




―翌日―


くまが去った後、一昼夜の間眠っていた麦わらの一味とローリング海賊団の一行。

食料を持ち出すためサニー号へと戻ったルフィ達は(ナミ、ウソップ、サンジ、ローラが同行した)

そこで、財宝をローラに渡すナミの姿を目撃する。ルフィとウソップはあまりの事態に嵐が来るぞと叫ぶ。

一方、サニー号の前ではフクキタルとフランキーの二人が、フクキタルの姉の遺体を前に相談していた。


「さて、お前の姉ちゃんをどうするかだな」

「私としては、故郷の島に帰してあげたいのですが」

「ここまで来て引き返すのか。事情が事情だし納得してもらえるとは思うが、ちと手間なんじゃねぇか?」

「あら、だったら私たちが引き受けるわよ」


横から口を挟んだのはローリング海賊団船長のローラ。

ナミと一緒に桟橋を歩いてくる二人。後ろには食料を担いだルフィ、少し離れてウソップ、サンジが続いた。


「いいんですか!?」

「恩人だもの、それくらい軽いわ。トレセン諸島ってのにも一度行ってみたかったのよ」

「でしたら、トレセン諸島へのエターナルポースをお渡ししますね!」


自分の部屋へ向かおうとするフクキタルを、ナミが止める。


「ちょっと待ちなさいよ。それ渡したらあんたが帰るときどうするのよ」

「それは、その時になったらと言いますか……」

「ナミゾウの言う通りよ。故郷に帰れないっていうのは、けっこうしんどいわよ」

「じゃあ、エターナルポースを仕入れるとこから頼むってことになるのか? そいつはスーパー時間がかかるぜ」

「……なにやら悩んでいるようですが、それをあなたたちが気にする必要はありませんよ」


サニー号の影から進み出てきた一艘の小舟。その舳先からかけられた声に一同は視線を向ける。

声の主は漆黒の衣装を纏ってそこに立っていた。

左腕には包帯が巻かれ、右手には不気味な装飾の刀が握られている。


「その遺体は私が押収します」


ルフィとウソップの間を遮るように桟橋に飛び乗ったのは昨日戦った相手、マンハッタンカフェ。

操舵輪を操っていた黄色い髪のウマ娘、リボンカプリチオもその後に続いた。

げんなりした様子でフクキタルは落ち込む。


「ま、まだやる気なんですかこの人!?」

「インターバルは可能な限り頂きました。最低限、首を獲るべきでしたね」


既知の敵に、ローラは二本の刀を抜いて構えた。踏み込めば刃が届く距離、横に避ければ海に落ちる場所である。


「あんた、まだ残っていたのね。モリア達に言われて遺体を回収しに来たってわけ?」

「いいえ、全然違います。そもそも、私は彼らの指示を受ける身ではありませんよ」


真っ向から否定する言葉に、フクキタル以外は首を傾げる。


「あっ、そうです! この人海兵なんですよ! 七武海なんちゃらという!」

「七武海監査、です。詳細は私なんかより、ニコ・ロビンから聞くほうがいいでしょう」


困惑する中で、最も早く状況を割り切ったサンジが、マンハッタンカフェを問いただす。


「それで? お嬢さんはフクちゃんのお姉ちゃんの遺体を押収してどうする気なんだ?」

「当然、トレセン諸島へ返却します。エクリプスの遺体は国宝。手を加えられていますが、私の一存でどうこうできるものではありません」

「随分都合のいい話ね。モリアと長く組んでいたあなたの言葉を信用できると思って?」

「なぜ過去形で語るんですか? まだ彼とは通じていますよ。横流しはしたことがありませんが」


言葉を一旦区切り、"摩天楼"の柄を口元へと持っていく。


「まぁ、最初から信用してもらうつもりはありません。……リボンさん、私はお孫さんを仕留めます。残りをお願いします」


大きく口を開き、刀を咥えるカフェ。その後ろでは目を見開いたリボンカプリチオが、首と手の平を横に振って必死に止めている。

マンハッタンカフェはリボンカプリチオというウマ娘を、とても、信用していた。

ウソップが慌てて輪ゴムを取り出す横で、ルフィは表情を変えずにじっとマンハッタンカフェを見ていた。

再び戦いが幕開けようという一触即発の空気の中で、フクキタルが大きく裏返った声を上げる。


「わ、私は預けてもいいと思います!」

「えっ!?」

「そうね……ローラ達に苦労させるよりはいいのかしら」

「ナミゾウも!? ちょっと、いいの!? 知らないかもしれないけど、こいつけっこう嘘つきよ!」

「それは知ってるわ。ただ、私ってちょっと海兵には詳しいのよ。……こいつが、海軍の正義を利用して金儲けするクズなのか、自分の正義を曲げられないバカな人なのかの区別はつくわ。今回は信じていいと思う」

「じーちゃんの知り合いみたいだしな。いいんじゃねぇか?」


ルフィは疑念を抱くローラに対し、どうでもよさそうな風に言った。


「……あんたたちがそういうなら、外野の私が止めるのは野暮ってものね」

ルフィの言葉を受け、衝突が回避された判断したマンハッタンカフェは、咥えた刀を離し、腰からぶら下げた。

「少々、意外でしたね。もっと狂犬めいた方々だと思っていたのですが」


フクキタルは姉の遺体の首と膝の部分に横から手を差し入れ、抱き上げる。

サンジが自分がやろうと名乗り出たが、フクキタルは首を横に振り、静かに断った。


「お姉ちゃんを、お願いします!!」


フクキタルは慎重に遺体をカフェに手渡すと、深々と頭を下げてみせる。

カフェは右肩に遺体を担ぎ上げ言う。


「…………海賊の頼み事は聞き入れられません。ですが、トレセン諸島で犠牲になった市民を故郷へ届けることは、責任をもって行います」


カフェは後ろへ振りかえり船へと飛び乗ると、青ざめながら額の汗をぬぐうリボンに遺体を渡した。

そして一度フクキタルたちのほうへ向き直り―――頭を下げることも敬礼することもなく、無言で背中を向ける。

そのまま、海軍の旗を掲げた船がスリラーバークを出ていくまで、彼女が顔を見せることはなかった。



ところどころが壊れたモリアの屋敷では、ローリング海賊団の一同と残る麦わらの一味がビンクスの酒という歌を熱唱していた。

入口脇に食料を下したルフィは、ピアノを演奏するブルックの前に置かれた、音を出す貝殻を見て興味深そうに言った。


「おお、空島のやつか? なんだこれ」

「"音貝(トーンダイヤル)"というものです。音を蓄え、再生できるという珍しい貝です」

「なにが録音してあるんだ?」


横から入ってきたウソップが尋ねる。


「"唄"です。死んだ仲間たちの生前の歌声。我々は楽しく旅を終えたという、ラブーンへのメッセージ」

「「ラブーン!」」

「あぁ、フランキーさんから聞きましたか。そうです、ある岬に―――」


ブルックの説明を遮って、ルフィが口を挟む。


「知ってるよ、双子岬だろ? おれ達、そこでラブーンに会ってるんだ」

「……え?」


話に意識が向き、演奏するブルックの指が遅くなる。


「あそこで50年、ラブーンが仲間の帰りを待っているのは知ってた。だから驚いたよ、あいつの待ってる仲間の生き残りが、お前だって知った時は」

「ちょ、ちょっと……待ってくださいよ! ……ヨホホ、びっくりした唐突で。あなたたちが、ラブーンに? 会ったって!? 今もまだ、ラブーンはあの岬で待っていてくれているんですか!!?」


ブルックは顎を大きく開け、喜びの声を上げた。


「うん」


サンジ、ウソップ、フクキタルも続いた。


「おれ達も証人だ、確かにあったぞ」

「おれもだ」

「いやぁ、あの時は怖かったですねぇ」

「………元気でしたか?」

「元気だった」

「大きくなっていましたか?」

「山のように大きくなっていたぜ」

「立派になっていましたか?」

「ご利益がありそうなお体でしたよ」

「ヨホホ……見てみたい。私達が別れたときなんて、小舟ほどの大きさで、かわいかった。音楽好きで、いい子でねぇ」


ブルックの指が、ピアノから離れた。指が、目を覆い、隙間から涙が流れていく。


「そうですか……!! 彼は……元気ですか!!!」


その涙は、しばらくの間流れ続けた。

酒の入ったローリング海賊団の面々が、ブルックに話しかける。


「おう、どうしたガイコツ もう歌わねえのか?」

「かつて、暗い海域を彷徨う中、この"音貝"は寂しさを紛らわすものでした」


ブルックは"音貝"を拾い上げる。


「でもこれは、ラブーンが生きていると知った今、届けるものに変わった。ですので、今日限りで私はこれを、封印します」


ブルックの頭が開き、中に"音貝"が放り込まれる。


「封印~~~!!」

「えぇ!? そうなってんのか!!?」


サンジとウソップとフクキタルが驚愕の表情を浮かべる。


「この50年、辛くない日々などなかった。希望なんか正直、見えなかった。でもね、ルフィさん」


両手を広げ、上を見上げ叫ぶブルック。鼻からは水が垂れる。


「私! 生きててよかったァ!! 本当に、生きててよかったァ!!!」

「当たり前だ」

「生きていれば、それで大吉ですよ!」

にこにこと笑うサンジとフクキタル。

「あ……私、仲間になっていいですか?」

「おう、いいぞ!」

「……………!」


一瞬、静寂が部屋を通り過ぎた。


「「「「ええええええぇぇぇ!?」」」」

「さらっと」「入ったァ!!?」

「でも音楽家歓迎!」


寝入ったままのゾロを除く男衆とフクキタルは、ブルックを胴上げし始める。


「念願の音楽家! 骨だけの音楽家!!」

「「「わっしょい、わっしょい」」」


ロビンたち女衆は、呆れた様子である。


「賑やかになるわね」

「まったく、なんでこういうの集まるのうちって」

「なんだかわからないけど、景気いいわねナミゾウ!」

「まーね、ありがと」


天井知らずに盛り上がる一同の宴は、それから二日間続いた。



グランドラインの海を、一隻の海軍船が逆走する。舵をとるのは黄色い髪のウマ娘。

船室には氷を敷き詰めた棺桶が一つ、中身は二人。

もの言わぬ刀を携えて、黒髪のウマ娘は歌を紡ぐ。

脳裏に浮かぶのは、西の海で誓った、入院のために休演する友人との約束。


「ねえ、あの夜 追い越して、いつか辿りつく♪」

(カフェ、あなたならできるわ。私が居ない間、劇団をお願い)


「ねえ、夢はいつもどうして 儚く色褪せてく♪」

(信じてみます。私を信じてくれた、あなたのことを)


次に浮かぶのは、海軍本部で交わした古い友人との言葉。


「目を覚まして、ねえ私を見て♪ ゴールはまだ ここじゃない、連れ去ってよyour fantay♪」

(気長に待つとは言ったが、いつか困った時、必ず助けになる……って、キミは私のことをなんだと思ってるんだい?)


「果てなく駆け抜けて あの場所へ♪ 幾銭の風が光へと、散った♪」

(いつまでも夢を追い続ける、とても諦めの悪い人です)


最後に浮かぶのは、"自分自身"との対話。


「射抜くほどに速く、あの楽園へ♪ 連れて行って、逃さないで♪」

(なぜ、"私"を選んだのですか。他に影はいくらでもあったのに)


「ねえ私を見ていて This is my love song♪」

(受け入れることを決めたからです。結局のところ、立っていたのは私だった。栄光も、不幸も、誰かが代わってはくれない。だから"私"の力で進むんです)


船は進む。迷いは無く、後悔も無く。彼女の故郷へと向かって。

大切な過去を乗せて。未練はあれど、それでも進む、明日へと。


麦わらの一味 マチカネフクキタル スリラーバーク編 完

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