麦わらの一味 マチカネフクキタル スリラーバーク編 第11~12話
モリカフェの人これまでのあらすじ
ダンスホールで戦いを続けるフクキタルたちとマンハッタンカフェ。
ゾンビが全て行動不能になり、ロビンは海楼石の手錠をかけられた。
残るはフクキタル、チョッパー、マンハッタンカフェの三人。
非人間同士の潜在能力が今、ぶつかり合う。
第11話【情報員・マンハッタンカフェ 後編】
マンハッタンカフェは、頭の中で現状を確認する。
(状況は、首の皮一枚といったところ。領域と菊花掌は使った。天皇衝は"海賊狩り"に温存が必須)
耳だけを後方に向け、ホグバックたちに意識を向ける。
(あの調子では撤退は不可能、シンドリーさんに暴走欲求がなかったのは幸いですが、命令以降動きを止めている。抱えて逃げるのは無理ですね)
そして前方、フクキタル、チョッパー、ロビンの三人を見据えた。
(ロビンの能力を封じれたのは僥倖。三人相手となれば"一人は殺すはめになった"でしょう。残る二人を退けて撤収するのが現状のベストな結末ですか)
二人に向けて、カフェは声を張り上げた。
「一応、聞いておきます。私の目的はニコ・ロビンだけ。ここで手仕舞いにもできますが、どうしますか?」
「お断りです!!」
「ロビンを見捨てたりしねぇぞ」
「……でしょうね」
『今の質問、必要でした?』
摩天楼の頭にデコピンをし、カフェは左手に刀を握りしめた。
蹄に丸薬、ランブルボールを掴み、チョッパーは覚悟を決めて叫ぶ。
「三分で決めるぞ! フクキタル!!」
フクキタルは頷き、わずかに腰を落とした。
「おまかせください、得意分野です!」
「ランブル! "角強化(ホーンポイント)"!」
チョッパーの角が巨大化し、カフェの視界からフクキタルの姿を隠す。
そのままチョッパーは駆けだし、カフェは大きく弧を描いて刀を振り下ろし迎撃した。
「"桜並木(ロゼオコロネード)"!!」
「"宵猫(よいやみのねこ)"!」
刀と角が競り合い、相手に向かって押し付けあう形となる。
一瞬姿を消したフクキタルは、その隙に右回りに走ってカフェの背後へかけぬけ、殴りつけた。
「開運パンチ!」
「"指銃"!」
フクキタルの拳に、体を開いて後ろへ振り向いたカフェの右手人差し指が合わせられ、止められる。
左の逆手持ちになった刀を押し、あるいは弾き飛ばそうと首を振るチョッパー。
だが、顔をフクキタルに向けたままで刃を押し付けてくるカフェに力の向きを捌かれ、角と刃が離れない。
一方でフクキタルは連続で殴り、蹴るが指銃で迎撃され止められる。
(逃げれば追いかけられ、こちらが不利。このまま時間切れまで耐える)
「なんて奴だ、おれとフクキタルを片手でしのぐなんて」
「わかったわ、その刀よ」
異様に息のあった連携、見ていないのに正確な攻撃、ゾンビ刀がなぜ六式を使えるのか。
戦いを見ていたロビンが、答えに気づいた。
「よく見ないと気づけないけど、彼女には影がないわ。おそらく刀に自分の影を入れているの。本人が右手を、刀が左手を動かせば実質一対一が二つになる計算。片手のハンデはウマ娘の身体能力で補えばいい」
「なんだって!」
「私の戦い方に気づいた海賊は初めてですね」
カフェはロビンの推理を暗に肯定する。視線はフクキタルに向けたままだ。代わりにチョッパーを、カフェの握る人差し指と親指の上、摩天楼の柄に作られた顔がじっと見つめていた。
ロビンの脳裏に、マリンフォードでの生涯忘れることのない記憶が浮かぶ。
「最近似たような奴を見たばかりなの。意思を持った刀を使うって点がね」
あの日見た、スパンダムの持っていた象と一体化した剣。大雑把に分ければ、それは摩天楼と似ている。
「……あの七光りの無能と一緒にされるのは不本意です」
「あら、奇遇ね。私もよ」
作戦が裏目に出たことに気づいたチョッパーは、焦り陣形を立て直す。
「くっ、挟み撃ちは効かないってことか。ジャンピン……、」
『"暗器・鍵礫"』
飛び上がろうとする直前に、摩天楼の口から吐き出された鍵が顔面に直撃した。
怯んだところをカフェの後ろ蹴りが追撃する。
「ぐわっ!」
(……踵?)
蹴りを受けながら、チョッパーの頭脳は、あることを閃く。
吐き出された鍵は摩天楼の舌と結ばれており、再び口の中へ戻る。
「チョッパーさん! このっ!!」
前のめりに体勢を崩しているカフェの頭に、フクキタルの左拳が入った。
頭が揺れ、カフェの目がフクキタルの目を見つめ。
『"鉄塊"』
「"虹星・鉄(にじいろのほし・くろがね)"」
身体で隠した死角で、逆手に持った摩天楼を放り、切っ先を指で挟み加速して突く。
鉄になった摩天楼の体で相手を殴打する技だ。
カフェの顎の下から隠れて飛び出した柄がフクキタルの顔面を打つ。
「フンギャッ!」
「よいや……いえ」
追撃を狙ったカフェだが、背後の気配に両手を使った攻撃の続行を断念する。
代わりにカフェは、一度壁まで下がった。三分を耐えるのが目的なのだから、仕切り直しはこちらも得だ。
横目でエクリプスの姿を見れば、表面上は動きを見せていないが、内では静かに力を込めているのがわかった。
(念のため、三分経過した瞬間に決着をつけるべきですね)
チョッパーがフクキタルに近寄り、身体を起こす。
「大丈夫かフクキタル」
「へ、へっちゃらですよ!」
「時間が残ってない、おれが行ったら一気に突っ込んでくれ"脚力強化(ウォークポイント)"」
獣形態に戻ったチョッパーは体を沈め、息を整える。
「いつでもいけます!!」
「よし、いくぞ!!」
前方に駆けだすチョッパーとフクキタル。
「"嵐脚"!」
(ウマ娘は、常に前へ!)
カフェは一度嵐脚を放ち、進路を妨害し前へと飛び出す。
カウンターで二人まとめて叩き伏せる狙いだ。
「"腕力強化(アームポイント)"!!」
「"指銃"!」
横へと飛び嵐脚を躱したチョッパーを、カフェの人差し指が貫く。
チョッパーの毛皮を貫いた指が、刺さった状態で止まった。
(違う、これは"毛皮強化"!)
「なんか、おれの能力を知ってるみたいだからな、ひっかかると思った。改めて、"腕力強化(アームポイント)"」
(つま先を怪我してるのか、前蹴りも来ないみたいだしな)
毛皮の塊が消えた視界には、チョッパーに続いてかけてくるフクキタル。
「はぁぁっ!」
「刻蹄」
(避けられない!)
チョッパーの蹄がフクキタルの拳に添えられ、カフェの体を打つ。
「「桜星王(サクラスターオー)」」
咄嗟に差し込んだ左腕に、星型の衝撃がはしる。
鉄塊の余裕もなく受けたそこから、鈍い痛みが全身に広がった。
吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるカフェ。チョッパーは時間制限により小柄な人獣形態に戻った。
「三分、です。私のか……」
朦朧とする意識の中、目の前には飛び掛かるフクキタル。
「追撃の、ハンマー!」
両手を組んで、カフェの後頭部に思い切り、振り下ろす。
「がっ!」
壁に続いて再びの衝撃を受け、マンハッタンカフェの意識は闇に墜ちていった。
マチカネフクキタル、最も強いウマ娘が勝つとされるレース菊花賞。
その時にだしたタイムは三分と"七秒"であった。
「ぜぇぜぇ。や、やったなフクキタル」
「はい! 大勝利です!!」
気絶したカフェの手から摩天楼はこぼれおち、床へと転がる。
「フ、フクキタル。その刀の口に、鍵が、ぜぇ」
「なるほど、少々お待ちを」
フクキタルが摩天楼を拾い上げると、摩天楼は口を手で塞ぎガードする構えを見せた。
「ふっふっふ、無駄ですよ。ウソップさん特性の"ゾンビ昇天塩玉(ゾンビしょうてんソルトボール)"の前には浄化間違いなしです」
ポケットから取り出した塩玉を突っ込もうと、押し付けるフクキタル。
その時、室内にとんでもなく大きな衝撃が走った。
「な、なんですか! まさか例の巨人!?」
驚き、摩天楼と塩玉を取りこぼすフクキタル。
ロビンは冷静に前を見て言った。
「いいえ、そっちよ二人とも」
「「そっち?」」
ロビンの視線の先を追えば、床に立つエクリプスの姿。
縫い付けられていた壁は、跡形もなく砕け散っている。
『はい、オマタセいたしました!! きっちりオカエシいたしますよ!!』
身体に刺さった三本の刀を抜き、投げ捨てたエクリプス。
笑みを浮かべて話すその言葉には、怒気がこもっていた。
霧の海域近くの海を、一隻の小船が進む。
「いいですか、もう一度今回の任務を確認しますよブライアンさん」
操舵輪を握る海軍制服を着たウマ娘は、横で寝転ぶ黒髪のウマ娘に声をかけた。
―海軍本部・情報部門 リボンカプリチオ伍長―
「麦わらがモリア海賊団と交戦した報告がマンハッタンカフェ中佐からきたのが三時間前。で、麦わらへの懸念から"暴君"の派遣が決まり、状況をコントロールするために一番早く到着できる私達の派遣が決まりました」
急いだ調子でリボンカプリチオは状況確認を進めた。
眼前には、予想外なことに霧の海域を抜けてしまったスリラーバーグが見えている。
「今回の任務は、七武海の結託を抑止することと、麦わらの撃退です。いいですか、"このあと"のためにも無茶な争い、余計な被害は絶対に避けてくださいね」
寝転んでいるウマ娘、ナリタブライアンは口にくわえた枝を吹き出し、答えた。
「ああ、要するに隙を見計らって全員喰ってしまえばいいんだろう」
「全然わかってない!?」(ガーン!!)
自分の話が聞き流されていたことにショックを受けるリボン。
「現場を見ていない頭でっかちの言うことなぞ、いちいち聞いたところで、姉貴が昇進するくらいしかわからん」
達観した調子で、ブライアンは目線をスリラーバーグに向けて続けた。
「どうせ世界は、あいつらの思った通りには動いていない」
スリラーバーグが霧の海域の外にでてきている。少なくともマンハッタンカフェの報告が続くここ六年、一度も出たことがないのにだ。
それを見てなお予定通りに進めようとするリボンカプリチオに対し、のんきな奴だ、と感じるブライアンだった。
第12話【レジェンドウマ娘・エクリプス 後編】へ続く
これまでのあらすじ
ダンスホールでのフクキタル&チョッパーVSマンハッタンカフェの戦いは、フクキタルたちに軍配が上がった。
だが、戦っている間に壁に縫い止められていたエクリプスが復帰してしまう。
今、戦えるのはフクキタルただ一人。レジェンドウマ娘との決着の時が迫る。
第12話【レジェンドウマ娘・エクリプス 後編】
壁が一つ崩れ落ちたダンスホール、エクリプスは怒りのこもった笑みを浮かべて立つ。
『むっふっふ、さぁここから私の逆転が始まりますよ!』
「だめだ、動けねぇ。逃げろフクキタル……」
チョッパーは小さな体でうつ伏せに倒れこんで言った。ランブルボールの時間切れだけでなく、先ほどマンハッタンカフェに叩き込んだ一撃にかなりの力をつぎ込んだばかりだ。
室内で立つもう一人、マチカネフクキタルは静かに口角を上げた。
「ご安心ください」
フクキタルの言葉に、怪訝な顔をするエクリプス。
『安心? どこに安心できる理由が?』
「私が、あなたを倒します。それが理由です」
言いながら、フクキタルは前へと歩を進めた。
足元では、床へ斜めに刺さった摩天楼が、フクキタルの落とした塩玉に手を伸ばし、ギリギリで届かず苦戦している。
『ふっふっふっ、冗談ならもっと面白い話をしてください。神がかった力を得た私に、無様で駄目駄目なウマ娘のあなたが勝てるとでも?』
「勝てますとも。確かに私はあなたの言う通り、役立たずで臆病なウマ娘です。ですが、私は、それだけではありません!」
頭に浮かぶのは、トレセン諸島でレースに出ていたころ。
菊花賞を制し、もっとも強いウマ娘と言われた時の話。忘れもしない、自分に酔って堕落した金鯱賞。
その後の海賊による襲撃、姉との別れ、逃走。
「私は、力を得たら、さらに駄目になってしまう!! どうしようもないウマ娘なんです!!!」
((ええ~~))
チョッパーとロビンは心の中で、ツッコミを入れた。
「教えてさしあげましょう、力に溺れた愚か者の末路というものを!」
言いながらフクキタルは飛び込み、エクリプスの胸元に拳を叩き込んだ。
パチン、と軽い音が鳴る。
避けも受けも不要な威力。息をつくこともできない連戦の負担は、フクキタルにも重く伸し掛かっていた。
『どうやら、先ほどまでの戦いで限界みたいですねぇ。これでどうやって教えていただけるのでしょうかっ!!』
「うひぃ、あぶなっ!」
拳に対し、前蹴りを返すエクリプス。蹴り上げられた瓦礫のカケラが天井にぶつかり砕け散る。
次いで右、左と拳を矢継ぎ早に繰り出され、風切り音が響き渡る。
それをフクキタルは情けない声を出しながら体をかがめ、あるいはステップを刻み躱していく。
「……フクキタル?」
チョッパーが怪訝に思う。フクキタルの顔に、怯えはあっても焦りはなかった。
(こうして向き合うとよくわかります。やはり、力を得たせいで、考えなしに振り回していますね。しかも一撃当たれば倒れる私。ならば攻撃は単純、しかも自分の拳。ギリギリ問題なしです!)
いつまでも躱し続けるフクキタルに、イラついた様子を見せるエクリプス。
『逃げてばっかりで、どうにかなるとでも!?』
脚を止める、エクリプス。その拳に、この状況全てを終わらせる力が収束していく。
だが、それは待ち続けたチャンスである。フクキタルは取り出した水晶玉を全力で投げつけた。
「ふんっ!!」
『菊花……!?』
菊花掌を放つために腕を引いたエクリプスの手に、水晶玉が飛び込む。
当然、水晶玉は粉々に砕け散る。だが同時に、G1奥義の破壊力も消失した。
どん!
「私は、臆病です。だから、一人で戦うなんてできません」
『言ってることとやってることが違うでしょう!!』
胸を張り、不敵に笑うフクキタルは自分に向けて幸運を見せつける。
「これが最後に残した脚です。見せてさしあげます。皆さんが居る私の、とっておきを!!」
砕けた右の拳を左手で押さえるエクリプスの首に、舌足らずな言葉を発しながらフクキタルの蹴りが叩き込まれる。
「こりえっ!」
ウマ娘の脚力で放たれた蹴りを受け、身体がよろめき、その場に踏みとどまるエクリプス。
フクキタルは、軸足の脚力を使い飛びあがり、次なる蹴り技を放つ。
「えぽぉる! こぉとれっと! せる!」
「あれは、フクキタルがこっそり練習してたサンジのマネ!」
エクリプスの体をずらしながら、肩、背中、腰へ次々と蹴りを叩き込んでいく。
ウマ娘の本領は"脚"である。脚力だけは並みの人間を凌駕するのだ。
必然、足技への再現能力も本能的に高い。
「ぽわとりぃぬ! じごぉ!!」
胸、太ももへの蹴りをくらう。レジェンドウマ娘であるエクリプスは、続けざまに攻撃を受けようとも、並外れた耐久力でその場に立っていた。
体に刻まれた経験から、腕を胸の前で交差させ、とどめとなる正面からの蹴りを受けにいく。
『ここで止めて、反撃を……』
初めて受けに回ったエクリプス。その前には、上下逆になった靴下が見えていた。
疑問に感じ、視線を上に向けると、振り上げられたフクキタルの脚がある。
今のフクキタルは、影を落とさない。ゆえに、目の前を遮るそれに反応が遅れてしまった。
「斧!!!」
エクリプスの左こめかみに、踵が振り下ろされる。
頭蓋骨にある、後から埋められた銃弾の穴が広がり、衝撃が脳を直接叩く。
脳は頭蓋骨内で上下に揺さぶられ、エクリプスの意思を無視して体が後ろへと倒れこんだ。
動きを止めるため、即座に胸の上に座り込んだフクキタルは、ポケットから白い丸薬を取り出した。
「おねぇちゃんの身体から! 出てきなさい、私!!!」
『こんな、バ鹿な話が!?』
「塩玉クラッシュ!!」
拳を叩きつけるように口へと押し込まれた塩の塊。
フクキタルによく似た顔は、白目をむいて意識を失った。
「ぜぇ、はぁ、はぁ、や、やりましたか?」
「そういうの、言わないほうがいいんじゃないかしら?」
ロビンがツッコミを入れると同時に、エクリプスの体から影が漏れ出ていく。
それをじっと見つめていた摩天楼は、諦めたように鍵を口から吐き出し、床に転がる塩玉を跳ね飛ばし、自らの口へと入れた。
エクリプスと同様に、摩天楼の装飾からも影が漏れ出始める。
エクリプスから飛び出した影は、そのまま目の前へと向かって突撃し、フクキタルの足元に定着した。
「わ、わ、って……も、もどりました!!?」
「やったなフクキタル!」
「これでようやく一つね。おめでとう」
「ハイ! いやぁ普段は意識していませんが、いつもあるものがあるっていうのは気持ちがいいですねぇ。なんだか元気が湧いてきた気がします」
喜びに笑い、手を広げて体を揺らすフクキタル。
その光景に、遠くから大声で叫ぶ男の声。
「おおお~~、なんだこれは! ゾンビたちが、シンドリー以外全滅!!? おれをなぐりとばしやがった……くそっ……エクリプスまで!!」
「目を覚ましたのね、残念」
「ホグバック! お前の負けだ!!」
チョッパーの怒りに満ちた声を受け、ホグバックはたじろぎ後ろに一歩下がる。
「どうなってやがる、おれのエクリプスは無敵だったはずだぞ」
「そのエクリプスがゾンビを仕留めたんです……彼女が倒されるのは私も想像してませんでしたが」
答える声は、気絶していたはずのウマ娘、マンハッタンカフェ。
視線を向ければ黒いコートを脱ぎ、左腕に巻いて首から吊るしている。
「もう意識を取り戻したのか!」
「か、怪物なんですか、この人は」
「さぁ? ……怪物狩りでしたら仕事ですが」
(一回限りの切り札、ということは教える必要はありませんね)
ちらりと視線を向けた先では、影が抜けた摩天楼が突き刺さっている。
影にはエネルギーがある。ゆえに、影が戻れば肉体のほうが影に合わせ、ある程度は復活するのだ。
カフェは、無事な右腕を構えフクキタルたちと向き合った。
「ドクトル、目が覚めたのなら都合がいいです。シンドリーさんを連れて退いてください。ここは私が食い止めます」
「無茶だ! お前、腕が折れてるし、そもそも立ってるだけでやっとのはずだ。死ぬまで戦う気か!!」
「フォスフォスフォス、カフェちゃんはおれが大好きだからな! ここで倒れても本望ってことさ!!」
「はっ?」
その言葉にすっとんきょうな声を出したのはマンハッタンカフェ。
ホグバックはゆっくりと首を向け、表情をこわばらせた。
「「「「……………」」」」
一同の間を気まずい沈黙が横切った。
首を傾げ、ロビンはホグバックに語り掛ける。
「彼女の反応を見た限りでは、違うみたいだけど?」
「……えっ? ちょっとまて、あんだけ尽くしてくれてるのは、好き好んでるからだろ。違うのか!?」
「……ふぅ、そんなわけないでしょう。私は、生前にシンドリーさんが残した言葉を尊重しているだけです」
「シンドリーちゃんが、おれに、言葉を?」
神妙な顔で、一度頷くカフェ。
「はい、振ってしまった手前、顔を合わせたくないそうです」
「そんな言葉!!?(ガーーン)」
うろたえた様子で、ホグバックはなおもマンハッタンカフェに食い下がる。
一方でカフェの様子は冷ややかなものだ。この問答をしている暇があったら、さっさと逃げてほしいとすら思っていた。
「じゃ、じゃあ……カフェちゃんはおれのことをどう思ってるんだ?」
「……ただの共犯者ですよ。最初から、今までずっと」
「共犯、者……?」
三文字の言葉が脳内を反響した。これまでのことが頭によぎり、呆然とうつむく。
「……そうか。……そうか! ならお前はもういらん! シンドリー! このボロボロな連中を全員ぶっころせ。まずはカフェからだ! 全員"没人形"にしてやる!!」
顔を上げたホグバックの表情には、チョッパーを上回るほどの怒りがこもっている。
命令を受けたシンドリーはゆっくりとカフェに近づき、首を両手でつかんだ。
「…………カフェを殺します」
「やめろ! そんな奴の言うことを聞かなくていい!」
チョッパーの制止する声を聞き流しながら、カフェはシンドリーを真っすぐ見据えてから、目を閉じて言った。
首元の親指に力が込められていくことなど、まるで気にしない様子だ。
「……聞くも聞かないも、あなたの、好きにすればいい。ヴィクトリアでもマーガレットでもない、ただのシンドリーとして」
「………」
シンドリーの手に入っていた力が抜け、カフェの呼吸が自由になる。
遠目から様子を見ていたホグバックが妙な状況に気づき、声を荒げた。
「……? ……どうした! なぜ止まる! 主人の命令だぞ!!」
「……体が、動きません」
シンドリーの目から涙がこぼれる。その腕はカフェの首を離れ、だらりとたれさがった。
困惑し、ホグバックはシンドリーを怒鳴りつける。
「おいおい! どうしたシンドリーちゃん!! 体が動かねぇ!? その嘘くせぇ涙も止めろ!!」
「涙は勝手に……体が……動かない」
フクキタルたちは呆然と、この奇妙な事態を眺めていた。
「……まるで、身体の持ち主が抵抗しているみたいね」
「本人は死んでるのに。魂のない身体にも"遺志"ってあるのかな」
「ありますよ、きっと。私もこの島で聞こえました」
くだらないことを言っていると感じながら、カフェは三人の言葉に答えた。
「"意思"なら、ずっとあるでしょう。他の方と違って、ドクトルは理解していないようですけど……えい!」
カフェは言いながらシンドリーを掴み、脚を払って身体を前に引き倒した。
胸元のネクタイをほどき、シンドリーを手際よく後ろ手に拘束していく。
「満足したのなら、早く逃げてください。あまり時間はなさそうです」
悲しみと哀れみのこもった視線をホグバックに向けた。
自分を殺そうとした相手にしては冷ややかで、同時に、なにかを気にしている様子だった。
「くそっ、だったらせいぜい時間をかせげ! おれが逃げ切れるようにな!!」
「あっ、こいつ! 逃がすか!!」
チョッパーが追いかけようとするのを、カフェが蹴り止めようとした。
が、上に顔を向け、走るのをやめて叫ぶ。
「頭を守って!!!」
"ゴ~~ム~~ゴ~~ム~~の~~(のびないけど)、鐘ぇぇ~~!!"
のんびりした掛け声とともに、天井をぶち抜き、上から巨大なゾンビが落ちて姿を現した。
咄嗟に頭を守ったホグバックは、その正体を叫ぶ。
圧倒的な重量に、床へ巨大な亀裂が入る。
「オーズ!!」
「床が崩れる、チョッパー! こっちへ!!」
「ハッ、ロビンさんの鍵!!」
エクリプス――否、フクキタルの姉の遺体を背負ったフクキタルは、
床に突き刺さる摩天楼の下に落ちる鍵を見つけ、走りながら拾い上げた。
カフェもシンドリーを抱え、離脱しようとし、間に合わなかった。
「げっ!」
「………くっ!」
ホグバックは揺れる床に翻弄され、そのまま瓦礫となった床と共に、下の階へと落ちていった。
カフェは咄嗟にシンドリーの体を抱え込み、逆さになって落ちていく。
フクキタルたちは間一髪で入口付近まで退避し、ルフィのゾンビを見て、部屋から逃げ出した。
「ウオオオオオオォォォ!!」
オーズは逃げていった一向に気づくことなく、壁を殴り、蹴り、外へと飛び出す。
「おい、カフェ! おれを助けやがれ!! シンドリーちゃんの頼みなんだろ!!!」
下の階の瓦礫の山から、そんな声が聞こえていたが、さらに上から瓦礫が降り注いでいき、やがて静かになった。
幕間【"怪物狩り"ナリタブライアン】と
第13話【カーテンコール】に続く