麦わらの一味 マチカネフクキタル スリラーバーク編 5~6話

麦わらの一味 マチカネフクキタル スリラーバーク編 5~6話


モリカフェの人

これまでのあらすじ

見えない何か、屋敷のゾンビ、そして甦った人間。

様々な怪異に遭遇したナミ、ウソップ、フクキタル、チョッパーの4人は屋敷を逃げ回っていた。

一方、暴れまわるルフィたち高額賞金首一行は森で大けがした年寄りから頼まれモリアをぶっ飛ばすことを決めるのであった。


第5話【サムライ・リューマ】


屋敷を彷徨うフクキタルたちは、フォスフォスと笑い声が響く部屋をこっそりとのぞき込んでいた。


「何? この妙な部屋は」(ひそひそ)

「ドクトルの研究所だ」(ひそひそ)

「なんだか妙な気配がするような」(ひそひそ)


寝台のような大きな机に横たわる人体を前に、ドクトル・ホグバックは上機嫌に笑っていた。


「見ろよシンドリーちゃん! もうすぐ完成するぞ、究極の"没人形(マリオ)"まさに天才の所業!」

「あと一息のところで失敗すればいい」

「なにいってるのシンドリーちゃん! まったく、おめぇの暴言にはいつも度肝を抜かれるぜ」


そんなやり取りの後、スープスパゲティを机にぶちまけた。

こっそりのぞき込んでいる一同はひそひそと話す。


「シンドリーちゃんもいますね」

「本当に事故死したあの娘なのかしら、なんだか信じられない」

「……あの台に乗ってるのはなんだ?」

「よく見えないけど、たぶんウマ娘の死体だ。……あの血色じゃ生きてはいないよ」


扉の隙間から見える死体の腕に899の数字が彫られている


「墓にいたゾンビと同じように番号がついてる……」

「もうすぐ完成といっていたわね、これで決まりよ。この島のゾンビたちはホグバックが甦がえらせたんだわ」

「だけど、医学で救えるのは生きた人間だけだ。死者の体をどれだけ強靭に作り直しても命までは戻ってくるわけないぞ」

「考えてもわかるわけねぇよ。ただ、ここでのぞいていればその秘密もわかるはずだぜ」


その時、カランとゲタが鳴らす高い音が響き、彼らの後ろに一人の影が姿を現した。

刀を佩いたそれは、陽気に話しかける。


「ヨホホホホ、ごきげんよう。知りたいのなら、中に入ればよろしいのに!」

「ヨホホ!?」

「その笑い声は!!?」

「ブルック!?」

「……!?」


一閃、斬撃がすり抜けた。

扉が斬られ、ナミ達は室内に放り出される。

中にいたホグバックは驚き、声をあげた。


「誰だ! って貴様ら、なぜここへ!!」


とっさにウソップは顔の前で手を振って弁明する。


「な、なにも見てねぇ。作りかけのゾンビも見てねぇ!」


ウソである。


「まぁ、よかろう。もう"夜討ち"が始まる。何を知ろうと手遅れだ!」


壁に掛けられた時計の針が深夜0時ちょうどを指した。


―墓場にて、虎の口を持つ男が号令をあげる―


「さぁ起きろゾンビども、顔を殴られようが首を斬られようが平気な不死身の兵士ゾンビたち! 海賊たちを追いこめ!」


―兵士ゾンビ・将軍ゾンビ指揮官 "墓場"のアブサロム―


―城の一室で女の体に多くのゴーストが入っていき、立ち上がる―


「さて、私達も本気でいくぞ。ホロホロホロ、ここから逃げられると思うなよ!」


―動物ゾンビ・びっくりゾンビ指揮官 "ゴーストプリンセス"ペローナ―


―屋敷の屋根の上、"妙に頭部のシルエットが大きい誰か"と刀で切り結ぶウマ娘が呟く―


「鐘が鳴ってしまいましたね……遅刻してしまいそうです」


―給仕兼情報員 "漆黒の幻影"マンハッタンカフェ―



―ドクトル・ホグバックの研究室―


0時の鐘が響くなか、ホグバックは揶揄うように弁明する。


「作りかけとは人聞きが悪い、こいつは島のゾンビでおれは研究のために捕まえただけ……」

「なにが研究よ! この島のゾンビはみんな、あんたが生み出してるんでしょ!!」


この島に住むゾンビたちの元凶に対し、ナミが叫んだ。


「フォスフォスフォス、今更お前たちが何を怪しもうと自由だが、何を根拠にそんなことを言う」


ナミはシンドリーを指さす。


「その女の死亡記事を読んだわ! ビクトリア・シンドリー、10年前に死んだ女!」


"記事を読んだ"ことにホグバックは体を震わせ、怒った。


「あの部屋に入ったのか! ……許さんぞ貴様ら! サムライ・リューマ! こいつらを二度と光の刺さぬ影の世界へ叩き落してやれ!」

カランと下駄の音が鳴り、ナミたちに声をかけた存在が姿を見せる。肉と皮がある和装のゾンビだ。


「オヤオヤ、よく見れば素敵なお嬢さんたち。……パンツ見せてもらってもよろしいですか?」

「「見せるか(ません)!!!」」


ナミとフクキタルの声が重なる。


「はっ、このやりとり……完璧なまでにアイツだ!?」

「でもあきらかに別人、いえ別死体ですよ! 一体なぜ!?」

「フォスフォス、そいつは将軍ゾンビ。"新世界"ワノ国から来た伝説の男、サムライ・リューマだ。お前たちが相手してきたゾンビとは格が違うぞ」

「……ヤベェ」


大ぶりの剣を鞘から抜き放つリューマ、4人の間を通り抜け反対側に立ち、吹き飛んだフクキタルが壁際の棺桶に叩きつけられた。


「え!?」

「な、なに? フクキタルが突然」

「と、とにかく扉ががら空きだ。アイツを拾って逃げるぞ!」


2人は扉へ、チョッパーはフクキタルを拾うべく駆け寄ろうとし、


「「「うっ!」」」


白目をむいて気絶した。


「フォスフォス、見事。達人に斬られた者は三丁歩いて初めて斬られたことに気づくという」

「"鼻歌三丁、矢筈斬り"」


リューマは刀を鞘に納めようとし、思い直してフクキタルへと向き直った。


「さて、そちらの不思議なお嬢さん。見えても居ないでしょうに、いち早く動き私の剣を防御していた。……あなたは気絶していませんね?」

「なに? そいつはどういう話だ!? 未来でも見えたんじゃあるまいし」


腕の痛みをこらえ、フクキタルは一人立ち上がった。その顔には笑みを浮かべている。


「その答えは、神様のお導きです」

「…………なんだと、神?」


フクキタルのいつもの妄言である。本来は笑い飛ばされてしかるべきものだろう。

だが、今この場に心当たりがあったホグバックは、無意識に寝かされたゾンビのウマ娘へと視線を向けた。

つられて目線を向けたフクキタルはウマ娘を見た。そして気づいた。


「あ、お、ね……え!」


驚愕に歪む顔、言葉が出てこない。

まだ亡くなって間もないのだろうその遺体は墓場のゾンビと比べればきれいなものだった。

顔や胸元の縫い目があってもわかる、穏やかな顔立ち。そして、フクキタルと同じ色の髪をしていた。


「お姉ちゃんを、盗んだのはあなただったんですね!!」

「フォスフォス、この"補修素材"の妹か? 素晴らしい、そいつは好都合だ」

「なにが、好都合ですか! あなたたち全員!! 水晶玉の錆にしてさしあげます!!!」


頭上の耳を後ろに絞ったフクキタルは、フンギャロっと叫びホグバック目掛けてとびかかった。


「うっ、お前ら! おれを守れ!」


フクキタルの叩きつけた水晶玉を、割って入ったシンドリーが手に持った大量の皿で受けた。

粉々に砕ける皿、後ろからリューマの斬撃。


「コンニャロ!」


身体を捻り、そのままの勢いで廻し蹴りを放つフクキタル。避けられたが拳で追い打ちをかける。


「やれやれ、怒りで詰められる差など……ちっぽけなものですよ!」


突きの一撃を横跳びで躱し、空振りの隙に迫る。


「いまです、きっか、」

「"眠り歌・フラン"!」

「!?」


追撃よりも早い横薙ぎ。フクキタルはブリッジで回避し、動きを止めた。


「終わったのか?」

「ええ、なかなか愉快なお嬢さんでした」


サムライ・リューマの放った技で泡を吹き、意識を刈り取られていた。

この"影"には刃が当たらずとも有効な技は多い。


「まったく、怒ってるのはこっちのほうだぞ侵入者め。おい、こいつらまとめてモリア様のところに……他の三人はどうした?」


床に転がっていた侵入者の姿はいつの間にか消えており、小動物系の動物ゾンビが扉の破片を片付けている。


「もう運び出しました~」

「えぇ~、おれがまだ何にも言ってないのに……」


ドクトル・ホグバックはこの屋敷の主であり、それでもヒエラルキーは低かった。


「リスキー兄弟が行っちまったんじゃ仕方ない、こいつは別で送れ。好条件の影だ、しっかりな」

「了解」


動物ゾンビはフクキタルを棺桶に入れ、運び出していった。

麦わらの一味非戦闘員VSサムライ・リューマ、勝者-サムライ・リューマ‐


<次回予告>

捕えられたウソップたち3人は、偶然屋敷と城を結ぶ通路に放り出される。

そこに襲い掛かるは動物ゾンビとアブサロム、そして将軍ゾンビのローラ。

一方戦闘員組は、いつの間にかロビンとフランキーしかいない。なんで!?

捕えられたルフィは檻に入れられ、この島の主と幹部たちの前に引っ立てられる。

第6話【ゲッコーモリアと三怪人】に続く


--------------


これまでのあらすじ

リューマに敗れ囚われるも、偶然逃げだすことができたウソップたち3人。

追ってくるローラを騙して逃げ出した先の部屋で、クマシーの中に隠れるのだった。

一方でルフィ、ゾロ、サンジが捕まったフランキーとロビンは空から降ってきたブルックの協力で、ゾンビ巨大クモのタラランを打倒す。

そんな中、ルフィが捕まったことでとっておきのゾンビを目覚めさせることにしたモリアは、ヒルドンに命じて怪人たちを呼び集める。


第6話【ゲッコーモリアと三怪人】


ゲッコーモリアは、目の前に立つ黒いウマ娘、マンハッタンカフェを見ながら感心したような声をだした。


「キシシ、とうとう膝もつかなくなったな。とんでもねぇ奴だぜ」

「……さすがに慣れました」


言いながら、カフェは手に持った黒い物体を刀の柄に差し出す。

すると物体はひとりでに刀へと入り込んでいった。


「慣れるようなもんじゃねぇぞ。まったく、イかれた女め」

「……召集をかけたんでしたね。コーヒーを淹れてきます。あなたも、飲みますね?」

「一杯だけだぞ」

『いっぱい、ですね』

「一杯だ!」

「わかっていますよ」


部屋を出ていくカフェ。腰に差した刀の柄飾りが片手で口を押えて笑い、カフェが軽く小突いた。

森の中でずっと閉じていたその目は、大きく開いている。

カフェと入れ替わりに、小さなゾンビが3人走って入室する。モリアの世話を担当するゾンビたちだ。


「ご主人様~~!! 三怪人様、お揃いです!」

「早いな、入れ!」

「どうぞ中へ!」


促され、入室する5人。

ホグバック、シンドリー、ペローナ、クマシー、アブサロム。

この島の三怪人と恐れられる者たちとその手下だ。


「きたかおめぇら! キシシシシ、早くおれを海賊王にならせろ!!」


ゲッコーモリアは頬杖をつき、尊大な態度で手下たちを出迎えた。


「なにが海賊王だ! 海賊王になるのは、おれだ!!」


それに対し、声を張り上げ否定する男が一人いた。


「おいこのヒモほどけ! でからっきょ!! 他の仲間を全員返せ!! どこへやった!!」


モンキー・D・ルフィ、3億ベリーの賞金首。その姿に麦わら帽子は無く、この城で見つけた鎧を着こんでいる。

腹部にクモの糸を巻かれ腕を後ろに縛られたルフィは、それでも啖呵を切った。


「全員返せっつっても、捕まえたのはお前でまだ4人目だぞ。"海賊狩りのゾロ"、"開運マチカネフクキタル"、あと一人は手配書になかった金髪の男」

「んん? 金髪ってサンジしかいねぇけどなぁ」

「フォスフォス、なんとも威勢のいい男だな。これが"麦わら"のルフィか」

「七武海のクロコダイルを倒した男ですよ。むしろ、おとなしすぎるくらいでしょう」


コーヒーカップを乗せたカートを押して入室したカフェが、ホグバックの言葉に答えた。


「任せた3人はどうしましたか、ドクトル。もしかして、取り逃がしましたか?」

「いや、確かにリスキー三兄弟が連れて行ったぜ」


話題の3人はというと、すぐそこに立つクマシーの中にいるのだった。


(あの女も現れたわよ)

(やっぱりコイツら全員仲間だったんだ)

(おれをウソにかけるとは、なんて奴だ)

「口を開くなと言ってるだろ!」

「お…」


ペローナの怒りに、自分じゃないですと示すようにクマシーは体を横に振った。


「ペローナさん、大声は喉に悪いですよ……ココアをどうぞ、砂糖がたっぷり入ってますよ」

「わーい、ありがとなカフェ」

「お前はクマシーにきびしーし、カフェは大甘だな」


アブサロムの頬には湯気を立てるコーヒーを押し付けるカフェ。


「あなたもどうぞ、無糖ブラックのホットです」

「ひどい! 差別だ! おいらは猫舌なんだぞ!!」


それを眺めるモリアは、キシシと笑いながら、直径30㎝ほどのカップを手に取った。


「普段の行いが悪いんじゃねぇのか? って……でけぇな、おい!」

「……特注品です」


檻の中とはいえ敵がすぐそばにいる状況で談笑する一行に、上から降りてきたクモとネズミの混ざったゾンビが声をかける。


「報告! つい先ほど"スパイダーモンキー"タララン隊長が"やられました」


報告を受け、ゾンビ将軍を統括するアブサロムは訝しむ。


「やられた? なにも影を抜かれたわけではあるまい」

「影を抜かれたんです~!」

「!?」


ホグバックは冷や汗をかいた。


「アブサロム、そういうマネをできるのはアイツしか……」

「"鼻唄"か」

「そういえば、屋敷の上から突き落としましたね。"つい先ほど"」


カフェの何気ない一言に、全員の視線が集まる。


「なぜ報告しない、いや……そもそもなぜ追撃しなかった!?」

「コーヒーが冷めてしまうので。それと、コーヒーが嫌いな方は苦手です」

「いや、だからカフェちゃん……あいつがコーヒーだめなのは体質だからしょうがないんだってば!」


※クモは少量のカフェインで酔う性質があります。


「……冗談です。サムライ・リューマに任せてきましたので、もうこちらですることは無いという話です」

「そうか、ならば十分足止めできる」


モリアは長々と続く部下の話にため息をついた。


「まったく、ごちゃごちゃとめんどくせぇ。海賊が逃げただの入っただの、お前らが後でなんとかしやがれ。今は記念すべき大戦力の誕生を、共に祝おうってんじゃねぇか」


そう言ってモリアは、再び捕まえた侵入者に視線を向ける。

檻の中は空だった。


「ご主人様! こいつ、檻を食い破って逃げてます!!」

「檻を、食い破った!?」


縛られたまま焦り、走るルフィ。


「おれが捕まって、どうするんだ!!」

「フォスフォスフォス、頼もしい限りだぜ!」


その背に向けて、アブサロムが静かに手を向けた。

カフェがその横を走り抜けながら制止する。


「やめてください、室内ですよ。……行きなさい、"摩天楼"!」


鞘から刀を抜き放ち、勢いのまま投げつける。

風切り音で背後からくる気配を感じ、ルフィは素早く前のめりに身を沈めた。

そして身をあげて、兜飾りを掴んだ刀の刃が目の前に迫るのを見た。


「ぐわっ!?」


怯んだ一瞬で追いついたカフェが、後ろから飛びつき両肩を掴んで地面へ押し倒す。


「やりなさい!」

「後で文句言うなよな! "ネガティブ・ホロウ"!!」


ペローナから飛ぶゴーストが、カフェとルフィの体をすり抜ける。

二人は地面に倒れこみ、痙攣。


「……もし、生まれ変われるのなら、ナマコになりたい」

「……胃が弱いのに、コーヒー好きでごめんなさい」


それを眺めながらペローナとアブサロムは呟く。


「意外と気にしてたんだな、自分ではあんまり飲めないの」

「ムゴイな、よく自分から当たりに行くものだ」


騒動が落ち着き、ゾンビたちは改めてルフィを上から吊るし、立たせた。


「光を当てろ!」


立たせた後ろから巨大な照明の光を当てる。


「なにすんだチキショー、おめぇら覚えてろ!」


床に伸びる影。

それにモリアは手を出し"掴んだ"。そして影は床から伸び、モリアの手の中に捕まった。


「えっ、何だあれ!? おれの、影!!?」


逆の手で大ばさみを取り出すと、ルフィと影の間で伸びてつながる部分を、切り離す。

途端に意識を失うルフィ、地面に力なく横たわった。


「キシシシシ、手に入れたぞ! 3億の戦闘力!! これで史上最強のスペシャルゾンビが誕生する!!」


モリアの笑い声が部屋に響いた。


<次回予告>

ルフィの影が入り、目覚めた特別ゾンビ"オーズ"は島を暴れる。

一方、クマシーの中に居たことがばれたウソップら3人は逃げ出すが、花嫁を狙うアブサロムにナミが捕まってしまう。

残った2人だけがフランキーとロビンに助けられ、サニー号へ帰還。

ウソップの「開運グッズつけた美女の剣豪が肉もってやってきたぞ!」というウソによって目覚める影を取られた4人。

ナミ以外が合流した一行は、情報とブルックの話を共有し反撃に移るのであった。

第7話【海賊たちVS怪人たち】に続く。



※わかりずらい部分の補足

本編ではブルックを突き落としたのはリューマですが、フクキタルの相手をしたため僅かに不在が長引いたことと、

カフェが横やりを入れた結果、対戦カードがリューマ対フクキタル、ブルック対カフェに変化しています。


Report Page