麦わらの一味 マチカネフクキタル スリラーバーク編 0~2話

麦わらの一味 マチカネフクキタル スリラーバーク編 0~2話


モリカフェの人

第0話【女優退場】


10年前 西の海、とある島

島に建てられた巨大な劇場の中で、ミュージカルが開催されていた。

中心に立つのは主演である看板女優、ビクトリア・シンドリー。

ドレス姿で、シルクハットとステッキを使い踊る姿に、観客は引き込まれ、熱狂する。

その笑顔は万人を魅了する太陽のようであった。


劇場から帰る人々は、各々の感想を話しながら帰路につく。


「いやぁ、凄かったなぁシンドリーの舞台。引き込まれるような歌と踊りだったぜ」

「まったくだ。でも、マンハッタンカフェの舞台もすげえんだぜ。シンドリーはおれ達を熱狂させるが、あっちは剣舞と歌でこっちまでヒリつくほどだ」

「へぇ、半月交代で主演が入れ替わるってのは知ってたけど、そいつは10日後が楽しみになるな」


そんな観客の後ろ姿を劇場内の窓から眺め、シンドリーは穏やかに笑う。

もちろん聞こえてはいない。ただ、ああいう背中の観客がどんな話をして帰っているのかは知っていた。

廊下を歩き、主演女優に皆が用意してくれた控室に帰ると、椅子に座る先客の姿。


「……お疲れ様です。ビクトリアさん」

「あら、カフェさん。お休みなんですから好きに過ごしていいのに」


この部屋のもう一人の女優、マンハッタンカフェ。

休日だからか、その恰好はクリーム色のシャツと黒いロングスカート姿だ。

目の前のテーブルに置かれている空になったコーヒーカップと、閉じられた本から察するに公演の途中からここに居たようだ。


「外はファンの方たちが騒がしいので……ゆっくりできるのはここくらいです」

「うふふ、人気が出てきた証拠ね。もう追いつかれちゃった」


シンドリーの笑いながら話す声に嫉妬の色は無い。

入院のため劇を休む自分の代役として主演に抜擢され、今では二枚看板とまで呼ばれるようになった彼女のことをシンドリーは気に入っていた。

薄暗闇の中で輝くような演技は、自分にはない魅力がある。

もっとも、シンドリーが嫌う人間など、滅多に居ないのだが。


そして10日後の講演。

舞台袖からシンドリーはカフェが主役の演技を見ていた。

天井のシャンデリアが、炎とガラスで奇妙な光と影を生む。

その下でマンハッタンカフェは宝石が散りばめられた黒いドレスを纏い、剣を振るう。

数十人が立てる壇上が狭く感じるほど、その足取りは機敏で大きい。

周囲の演者が振るう剣と、響きわたる音楽をリードする姿は、まるで指揮者のようだ。

そして中心に戻ってきたカフェが天を見上げる。

(?)

予定にない動きにシンドリーが疑問を抱いたのと同時に、カフェはぐるりと体を廻し、周囲の演者を蹴り飛ばす。


「えっ?」


"どうして"と思い浮かべた瞬間、シンドリーは世界がゆっくりになったように感じた。

甲高い音を鳴らすシャンデリア。

蹴り飛ばした姿勢で、見上げるカフェ。

逃げることがかなわず、頭を庇うカフェに降る巨大なシャンデリア。

カフェの姿が見えなくなり、シャンデリアのガラスが、舞台の中心に舞い上がった。

無事だった周囲の演者たちが、駆け寄る姿を見て、シンドリーの時間が戻る。

そこで初めて、自分が大声で叫んでいたことに気づいた。


「カフェさん! カフェさん!!」


飛び出そうとする自分を、後ろから素早く抱き止めたスタッフが言う。


「近づいたらダメだシンドリー! 怪我するぞ!」

「でも!!」

「……う……ぁ……」


結局自分はこの時、できることは無かった。友人の小さなうめき声が耳に届いたのにだ。

それは正しくはあっても、やりたくはないことだった。


翌々日、シンドリーはカフェの病室を訪れていた。

当然だが、舞台の修理で公演は休みだ。

ベッドに横たわり上半身を起こすカフェ。その腕と、毛布で見えない両足は包帯が巻かれている。


「カフェさん、その、うまく言えないけど気を落とさないで」

「いえ……私は別に。ウマ娘は頑丈ですので、歩くくらいならじきにできるそうです」


人間だったら助からなかった。骨と筋肉で済んだのは幸運だった。

この二日間で幾度も聞いた慰めの言葉。

カフェが自分のためにそれを言ったのが悲しかった。


「そう、それはなによりね。良かったわ」

「それよりも、劇団の方たちと舞台を見に来てくれたファンの方に申し訳が無いです」

「そんなこと気にしなくていいのよ。生きていただけでみんな、喜んでいるわ」


シンドリは毛布で隠された足に視線を向ける。カフェの足は学生時代から古傷を抱えていた。

そしてこの大怪我。医者の言うように歩くくらいはできても、それで終わりかもしれない。


「ねぇ、やっぱり私がドクトルにお願いして、」

「ダメですよ……先日、振ってしまって顔を合わせづらいと言っていたじゃないですか」

「だって私達……友達でしょ!」


カフェは首を横に振った。


「友達です。……友達だからこそ、誰かを利用するような真似はしてほしくないんです」

「……そう、わかった。もう言わないわ」


本当に、二度とシンドリーは言わなかった。友人のためにできる、代わりの方法を思いついたから。


翌日、劇場の控室でシンドリーが宣言した言葉は、スタッフを驚愕させた。


「カフェの演目をそのまま引き継ぐだって! それはシンドリーちゃんでも流石に無理だぜ」

「そうだよ! あれには人間にはできないアクションもあるんだぞ」

「それは知ってるわよ。だから協力してほしいの! ワイヤーとか、マットとか使って、私でもできる形で演目を手直しするの!」


自信満々で言うシンドリーに、座長は首を傾げる。


「でも、なんでそんな無茶なことをするんだ? シンドリーは、いつもの演目があるじゃないか」

「この舞台は今、太陽と月の二面性で売り出してるでしょう。私がどっちもできると知れば、カフェは安心して療養できるわ」

「カフェのため、か」


呟いたのは、あの時カフェに蹴り飛ばされた演者だ。彼女は仲間を助けることにためらわなかった。自分たちはどうだ。

大道具係に視線が集まる。

皆の決意と危険性を天秤にかけ、諦めるたようなため息をついた。


「たしかに、急に演目を切り替えるのも、今の演目を手直しするのもこっちの手間は同じだな」

「やってやるか、我らがの看板たちのために」


一同の熱が上がり、動き出す。公演再会まで時間は多くない。

(カフェ、あなたは自由に生きて。私たちは大丈夫だから。でも、もし脚が治ったのなら、笑って迎え入れてあげるわ。どんなことがあっても私たちは……友人よ)


そして三日後、ビクトリア・シンドリーは再開した公演で華麗な剣舞を披露し、人々の心をつかんだ。

太陽が演じる、最初で最後の月だった。


入院するカフェに、新聞が届けられる。

そこには友人だったものが、如何にして亡くなったかを告げる記事が載っていた。




これまでのあらすじ


W7を出航した麦わらの一味は、航海中に流し樽を拾い上機嫌になっていたが中身は発光弾であった。

危険が迫っているのではと気になるが、占い一つする暇もなく大嵐がサニー号を襲う。

ナミの素早い判断とサニー号のからくりで辛くも難を逃れた一行だったが……。


第1話【魔の海の待ちかね】


あたりを見渡しながらゾロが呟く。


「越えたはいいが、何だこの海。まだ夜でもねェだろうに霧が深すぎて不気味なほど暗いな」

「むぅ、先ほどの不届きな樽といい、これは凶兆なのでは」

「……もしかして、例の海域に踏み込んだってことかしら」

「お!?もう魚人島に着くのか!?」


一行の中で一人だけ話を聞いてないウソップは呑気な声をあげた。


「いや、その前にオバケが出る海だ!!」

「!」

「気ィ抜くなよ、この海域はもう…あの、有名な"魔の三角地帯" 何もかも謎に消える怪奇の海だ!」

「!!? え、オ…オバ…オババ…オバ」

「うひひひ。オバケ出るんだ、ここの海」

「ふざけんな!!! なんだみんな、知った風だな。おれァ聞いてねェぞ、そんな話!!」

「ココロおばあさんが教えてくださいました。ああナンマンダブ、ナンマンダブ」


巾着袋からお守りと十字架を取り出しながら、フクキタルが言った。


「ここにはなんと、生きたガイコツがいるんだぞ」

「そりゃお前のイメージだろ。いいかウソップ、この海では毎年100隻以上の船が、謎の消失を遂げる……さらに、死者を乗せたゴーストシップがさ迷ってるってだけの話だ」


サンジはそう言いながら、マッチの火で自分の顔を照らして恐怖を煽った。

サンジの煽りに、恐怖の声をあげるウソップ


「ギャアアアアア、いやだァ!先に言えよそんなこと!」

「言ったらどうしたんだよ」

「準備だ! 悪霊退さんグッズで身を固めなければ!!」


後ろではナミがフクキタルから厄除けと書かれた小袋を受け取っていた。


「フクキタル、おれにもかしてくれそれーー!!!」


チョッパーが怯えた様子で叫んだ。

ヨホホホ~~…♪ ヨホホホ~~…♪


「なんだ……音楽?」

(……ビンクス?)


フクキタルはその歌声にいち早く振り返り、恐れおののき固まる。

ヨホホホー… ♪

不気味な歌声とともに現れたボロボロで巨大な船に気づいた一味が叫ぶ。


「「「出た~~~~、ゴーストシップ!!!」


ビンクスへの酒を…♪

届けに…ゆくよ……♪


<次回予告>


災いが満ちた幽霊船だとフクキタルが止めるのも聞かずに乗り込むルフィ。

ブレーキ役のナミとサンジの努力もむなしく怪しいガイコツを連れ帰ってしまう。

歓談している間に巨大な島の周囲に船ごと閉じ込められた一行は、"ヨミヨミの実の能力者"ブルックの助言を無視。

買い出し用のミニメリー号で先んじて上陸してしまったナミ、ウソップ、フクキタル、チョッパーの4人が出会ったのは!

【THE・ZONBIE AND UMA・GIRL】に続く


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これまでのあらすじ


ミニメリー号で流されたナミ、チョッパー、ウソップ、フクキタル。

サニー号の戦闘要員たちは追いかけようとするが、謎の存在に阻まれてしまう。

一方、不本意ながらスリラーバークに上陸することとなった非戦闘員たちは、三本頭のケルベロスに遭遇し逃げ回るのであった。


第2話【THE・ZONBIE AND UMA・GIRL】


森の中、麦わらの一味ら4人は木の上で息をひそめていた。

犬の頭が2つに狐の頭が1つのケルベロスから逃げた彼女らは不安そうに話す。


「犬のクセに鼻は効かねぇみたいだな」

「どうしよう、だいぶ森の奥に入り込んじゃった」

「船へ戻るにもあれの相手をしなきゃいけませんね」

「あんなのが歩き回ってるなら目立つ場所で助けを待つのも大変だぞ」

「まったくでしね」


5人目の声に全員がそちらを向けば、木の枝に逆さまにぶら下がった男と一つ下の枝で素知らぬ顔でコーヒーを飲む黒髪黒服のウマ娘。


「ギャーー! 誰だ!!?」

「私は、ヒルドンと申しまし。野犬に追われていらしたのでお困りなのではと。ここらの森はこれから夜が深けて参りまし」


そう名乗った男はいつの間にか木の下にやってきた二頭立ての馬車を指し示す。


「やがてこの世のものとは思えぬほどに危険な森へと変化いたしまし……もしよろしければ私の馬車でお屋敷へいらっしゃいまし。ドクトル・ホグバック様のお屋敷へ」

「え、ホグバック!!?」


思わぬ名前にチョッパーが嬉しそうな声を出す。


「……行くのであれば急ぎましょう、ここでは落ち着けません」


黒髪のウマ娘はそう言うと枝の上をこともなげに歩き、木の幹に掴まるナミとフクキタルに近づき腰へ手を伸ばし両手で抱き、落ちた。


「「ちょっ!?」」

「ナミ! フクキタル!」


ウソップが二人の名を呼び、三人分の体重が着地した振動で揺れる木に慌ててしがみついた。

黒髪のウマ娘は膝も曲げることなく直立したまま平然と着地していた。


「すっげぇ」


曲芸を見てチョッパーは素直に称賛し、

(なんだ、あいつ?)

ウソップは疑念を抱いた。


霧深い森の中を馬車が行く。ヒルドンと名乗った男は前に備え付けられた御者席に座り、馬車内にはフクキタル、ウソップ、ナミ、黒髪のウマ娘が席に座った。人数が多いのでチョッパーはウソップの膝の上だ。

豪華な椅子とカーテンが備え付けられた馬車内をランタンの明かりが照らす。


「ねぇ、この馬車を引いてる馬だけど……なんか変じゃなかった?」

「いえ…だいぶ普通の馬ですよ?」


ナミの疑問にウマ娘が答え、胸に手を当てて言葉を続けた。


「名乗り遅れてしまいましたね。私はマンハッタンカフェ、この土地ではバリスタをしています」

「「「バリスタ?」」」


フクキタル、ウソップ、チョッパーの3人は大型のバリスタを引く男(なぜかワポル)の姿を思い描いた。


「それじゃなくて、コーヒーを淹れる専門家のこと!」


何を考えてるか察してナミが訂正する。


「とにかく助かった。危ねぇところありがとう」

「いえいえ、コーヒーをどうぞ。お気に召さないのでしたらワインと水もあります。お仲間と合流するのなら屋敷で待つのがいいでしょう」

「ドクトル・ホグバックにもあえるしな!」


期待に心を高鳴らせてるチョッパー。

他の者はその様子にピンとこないようだ。


「そんなに有名なのか?」

「医者でその名を知らない奴はいない"天才外科医"なんだぞ。世界中の医師たちから尊敬を集めてた。だけどある日突然姿を消したんだ」

「もう10年ほどになりますね、私も全てを知っているわけではありませんが医学会では大変な騒ぎになったとか、今では忘れられつつあります」

「誘拐か失踪か、もはや伝説になりかけてる名医、こんなところで会えるなんて思ってなかったよ。サインたのんでもいいのかな?」

「ええ、彼も喜びます」


二人の話にあまり興味がないのか、ナミはカーテンをどけて外を見る。しばらく眺めていたかと思えば、突然叫びだした。


「キャーー」

「「「ギャーーー」」」

「今、そ、外にライオン、人間みたいな顔のライオン!」

「いてたまるか!」

「だったら自分で見てみなさいよ!!」


ナミはそう言ってカーテンを大きく開いた。

エモノダ♪ エモノダ♪ ケケケケケ♪

樹が、動物が、ゴーストが、踊り回る光景が広がる。


「「「「………!?」」」」


ごしごしと目をこすれば、そこにはもう誰もいない。

なんだ気のせいか、そんな空気が一瞬流れた。


「なんかいた~~!!!???」

「ものすっごいなんかいましたよカフェさん!!?」

「どうかなさいましたか? 幻覚かなにか見えましたか?」

「ありゃ幻覚なんかじゃねぇ、確実にいたぞ! やっぱこの森おかしいぜ」


言われてたカフェは、コーヒーを静かに飲み干した。


「別に、ああいったものは世界中どこにでもいますよ。ただこの森は少々悪いものが近い場所でして、はっきり姿が見えてしまう方もちらほらいらっしゃいます」

「な~んだやっぱり幻覚ですか、びっくりしましたよもう」

「い、いやそれにしちゃずいぶんと鮮明だったぞ!」

(………)


カフェは周りの顔を見て、怪しげに黙った。

ナミは前方の内壁をノックし、ヒルドンに話しかける。


「ヒルドンさん、悪いんだけど引き返して海岸へ向かってくれないかしら。あとは私たちでなんとかするから」

「え、なんでし?」

「今すぐ、引き返して、海岸へ行って!」


チョッパーは涙を流し抗議。


「えーそしたらドクトル・ホグハッグに会えねぇじゃねえか」

「気持ちは察するが、こんな時こそ我々の"何かがヤベェセンサー"に問いかけろ!!!」

「そうですよ! 人間、命あっての物種ですよ!!」

「……ウマ娘とトナカイでは?」


少しの間を置いて、外から返事がくる。


「……そうでしか、では少々お待ちを」


そして、馬車が歩みを止めた。


「ごめんねチョッパー、せっかくのチャンスを」

「しょうがねぇよ、おれはルフィみたいに一人で行動できねぇんだ」

「カフェも、悪いなわざわざ引き返させちまって」

「……このくらいは別に、かまいませんよ、客人もそう多くないですので」


そして馬車が止まったまま、10分が経過した。


「変だな、逆戻りするだけ……!」


不審に思い外へ身を乗り出したウソップが叫ぶ。


「ええ~!! 誰もいないぞ!! 馬まで居ねぇ。墓地の真ん中に置き去りにされてる!」

「なんですって……何で!?」

「シラオキ様、シラオキ様、お助けぇ!」

「ヒルドン! お~い、どこに行ったんだ!!?」


ウソップの叫びに答える声は、馬車の外には無かった。


「よりによって何で墓地の真ん中だよ……」

「……これは、外に出たほうがいいですね」

「ええっ!? だって外にはあの怪物たちがいるかもしれないんですよ!?」

「危ないぞ! カフェ!」


フクキタルたちの呼び止めに反応することなく、カフェは馬車の扉を開けて外に出た。

そして、だれにも聞こえないように呟いた。


「……だから、ですよ」


馬車の後ろに歩いていき、すぐに扉の死角へと入り姿が見えなくなる。


「ちょっ、カフェさん!?」


不用心な行いにフクキタルが驚き、声をあげた、その時。

開け放たれた扉、そこから見える墓地の景色からうなり声が上がった。


「あ~」

「えっ?」


ボコり、と土が盛り上がる。見えてくるのは人の腕。


「え~~!」

「あああああ!」

「フンギャーー!」

「ウソでしょ……!」


地面から湧く、人影、人影、人影。

包帯の男、つなぎ目の目立つ男。俗にいうアレであった。


「「「「ゾンビだ~~~!!!!」」」」


甦った魔物たちは、驚きに動けない犠牲者に向かって押し寄せる。


「ギャー」

「馬車が倒れる!」

「こいつらすげえパワーだぞ!」

「うわああ」


悲鳴が上がり、馬車が転倒した。

中に入っていた者は一人残らず外へと投げ出された。

倒れたまま、まずウソップがゾンビに捕まった。


「ギャアア、噛まれた!!? チクショー噛まれた、俺までゾンビになっちまう」

「ウソップさん!」

「このやろー、ウソップを離せ!」


ゾンビが全身にしがみつき、身動きが取れない。

フクキタルは一人一人投げ飛ばし、チョッパーは大男になり振り払うが、数が多い。

その時だ、ウソップの目の前に黒い服の裾が広がった。


「……頭を下げてください」

「え!?」


周囲のゾンビの首が落ちる。

その中心に着地したウマ娘、マンハッタンカフェの手には異様な装飾の刀が抜身で握られていた。


「私が先導します……ついてきてください」

「お、おう。て、お前戦えるのかよ!?」

「……少しは。こちらへ……ここまで来たら屋敷のほうが近いです」


手足のある目を閉じた奇怪な刀を振り回し、カフェはゾンビの首を落としていく。

逃げ腰になったゾンビを、フクキタルとチョッパーが素手で、ナミが棒で殴り飛ばして突き進む。

(S・S・I?)

ナミはその刀に記された文字が気にかかったが、今はそれどころではなかった。


「よっしゃ今だ、ゾンビの弱点は火! "火薬星"」


ウソップが後ろに向かってパチンコで火の玉を放つ。


「うおおお、火だ!」

「腐れやべぇ!!!」

「おい、何しやがるこの放火魔!!!」


慌てて後ろのゾンビたちは、"一体残らず"距離をとって離れた。(首を落とされたゾンビもである)


「想像を絶するほどに効いた!!?」

「すごいですよ、ウソップさん!」

「でも今のでゾンビたちがキレたぞ!」

「……今のうちに走ってください、もうすぐ墓地を抜けます」


ゾンビたちが怯んだ隙に、一行は墓地を逃げ去る。

常識にあるまじき速さで追うゾンビたちだったが、やがてあきらめたのか姿が見えなくなっていった。


「……ハッ……結局会えるんだ、楽しみだ。ドクトル、ホグハッグ」

「塞翁の、ウマ娘ってやつですね」

「おれは……とにかく水が一杯…ほしい」

「私はこんな島にまともな住民が住んでるとは思えないわ、賭けね」←チョッパーに背負ってもらったので一人元気。

「……評価についてはノーコメントでお願いします」


一行が進むその道の先には、巨大な館がそびえたっていた。


<次回予告>

ミニメリー号組を追いかけて上陸した戦闘要員たち。

ケルベロスも怪物もゾンビも相手にならぬ賞金総額6億ベリーチーム。

一方、非戦闘要員は天才外科医と変なメイドの歓待を受ける。

屋敷の中のヒミツは、この島は一体なんなのか。

全ての謎は、大怪我した老人によって明かされる。


第3話【ドクトル・ホグバックと二人の女優】に続く


※残念ながらウマ娘の居ない戦闘要員組は尺の都合でカットします。


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