sailing day

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のぶ代

「これはいったいなんなのよーっ!」


 一流を自称するお嬢様ウマ娘、キングヘイローの叫び声がカフェテリアにこだまする。並々ならぬ様子に、対面に座っていたボブカットのウマ娘、セイウンスカイがマイペースにキングの顔を見やる。


「どったの〜? またスペちゃんと一緒に補習?」

「違うわよっ! これよこれ!」

「こないだ出たばっかりのレース情報誌じゃん。どれどれ?」


 キングヘイローが指差すのは、現役ウマ娘について様々な情報が記されている専門誌。スカイも情報収集がてら使う事もあるが、とある理由で普段はあまり積極的には見ない雑誌名だった。なんとなく予想が付きながらも、キングの開いているページを見てみる。


そこには、ゴシップ誌らしく派手派手しい色使いで“黄金世代”についての特集ページが組まれていた。世代の顔役であるスペシャルウィークを筆頭に、同期で華々しい活躍をするグラスワンダーやエルコンドルパサーの情報が写真付きで掲載されている。セイウンスカイもクラシックの冠を戴く者として当然記載があり。その横にキングヘイローの欄も漏れなくあった。あったのだが……


『黄金世代の悪役令嬢』

『嫉妬深くプライドが高い』

『勝つためならなんでもするという策略家』

『周囲を力でねじ伏せることも…?』

『ウマ込み嫌いで砂や雨を被るのも嫌いな潔癖我儘お嬢様』


と、なんともまあ悪評だらけだったのだ。

これにはセイウンスカイも両手をブラブラとさせながら、冗談めかして苦笑する他なく。


「あっちゃ〜、まさかキングがこんな娘だったなんて知らなかったな〜」

「そんな訳ないでしょう、まったく! キングが一流に相応しくない振る舞いなんてする訳がないわ」

「えー、でも最近宿題見せてくんないじゃん。これが悪役令嬢の策略ってやつじゃないの?」

「違うわよっ! 貴方は自分で宿題を片付けるのをもっと頑張りなさいな」


ふんっ、と苛立ちを隠せない様子のキング。

こんな記事は大嘘だと分かっているからこそ、キングをからかうスカイ。こんな雑誌にいちいち反応しなくても良いのにな、とは思うが、当の本人はそうもいかないらしい。


彼女の目指す“一流のウマ娘”は、成績や見目麗しさだけでなく立ち振る舞いや風評、内面も含めてという事はスカイも知っていたので、難儀な性格だねぇ、と内心思う他無かった。

目の前のご令嬢がどれほどの努力と研鑽を積んできたか、一流を名乗るだけの能力もそうだが、それ以上に友人として誇らしい程の人格者である事、共にクラシック戦線を駆け抜けたスカイは嫌というほど知っている。

勝利者であるスカイが言うのも野暮だが、それほどに同世代のウマ娘は群を抜いて優秀である。そこに追随出来るだけでも上澄みである事は間違いないのに、“一流”であり続けるという目標の為には路線変更さえ辞さない。

人格面についたってそうだ。トレセン学園広しとは言え、これほどの家柄であるウマ娘などそうそう居ないのに、それを笠に着て威張り散らす所など見たことが無い。自身を含む関係者達には、分け隔てない親交を持ち、それでいて面倒見の良さも時々こっちが心配になるほど高い。


「キングー! ウララちゃんが教えて欲しいことあるってー!」

「電話でも良かったけど近かったから連れて来たよ」

「キングちゃん! いまだいしょうぶ?」


 でなければ、あんな風に彼女を頼る者たちが集う事など無く。あの記事書いた人、ほんと見る目ないよねぇ、と一人思うスカイ。

その目の先には、いつものように賑やかな掛け合いが始まっていた。


「良い心掛けだわ! キングとともに一流を目指す権利をあげる!」

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