request for reinforcements
requesting anonymity「つまり、遠からず起きるその『例のあの人』との決戦において助太刀してほしい、とそういう事ですな?そして手続き無しで即刻参戦できる方法を…………」
ワガドゥーの教授である老紳士との手合わせを終えたホグワーツの5年生くらいに見える青年は、助手の若い魔女や旧友たち2人、そして老紳士とワガドゥーの生徒たちも交え、皆で丸く座ってこの地を訪れた本来の目的である話し合いを行っていた。
「煙突飛行粉は駄目なの?」とワガドゥーの生徒である男の子がショナ語で言う。
「駄目だな」
老紳士は穏やかな口調で告げた。
「イギリス魔法省が煙突飛行ネットワークを監視している。そしてイギリス魔法省は現在『例のあの人』の傀儡だ。使うべきではないだろう」
その老紳士の言葉を青年に同時通訳してもらっていた若い魔女は声を上げた。
「闇祓い局のみんなは大丈夫でしょうか………………」
「不本意な任務をやらされてるか、アズカバン若しくは聖マンゴに居るかだろうね」1番に考えられる最悪の可能性をハッキリ口に出さない程度の配慮はできるらしい青年がそう言いながら己の古巣を心配する若い魔女を慰めた。
「『姿くらまし』で直接ここからイギリスに飛ぶのはできないんだっけ」
また別のワガドゥー生徒が提案するが、その生徒自身無理だとわかった上で言っているようだった。
「うん、遠すぎるからね。無理やり『姿現し』しようとすればまあ、ヨーロッパのどこかに『現れ』られれば良いほうだろう。僕がやったら『ばらけ』る自信があるよ」
アルバスならできるのかもしれないけど、と付け足した青年は、そこでダンブルドアの過去の行いを思い出し、ひとつ可能性を思いついた。
「………『ポートキー』を新しく作れば良いんじゃないか?イギリス魔法省は前から『許可なく新しいポートキー作ること』を規制しているけど、規制されてるってだけで別にできないわけじゃない。1度作ってしまえば移動は即だし、飛ぶ先は最初から決まってる。…………ホグワーツだ」
青年のその発言に、助手の若い魔女とワガドゥー講師の老紳士が次々に疑義を挟む。
「ホグワーツってポートキーで飛べませんよね?」
「何を根拠にホグワーツだ?そこで何事か起きるという推測があるのか?」
そう言われた青年は、壁にかかったダンブルドアの50歳手前くらいの姿の肖像画を真っ直ぐに見つめる。
「場所の候補はいくつかあるんだろうけど、僕に推測できるのはホグワーツだけ。で残りもたぶん全部イギリス………というかブリテン島。そうだろう?アルバス」
ダンブルドアの肖像画は、露骨に目を逸らす。
「僕に隠し事はできないよアルバス。かわいそうなトム君は『死にたくない』そして『闇の魔術が大好き』で『死ぬつもりがないから死後どうなってもいい』であるなら導き出される答えは1つ。『腐ったハーポ』だ」
ピンと来たらしい老紳士は、ダンブルドアの意図までも察して言葉を引き継ぐ。
「まっこと悪辣外道極まると言う他ありませんな『例のあの人』は。そして、察していたのであろうダンブルドアが誰にも警告しなかった理由もわかる。誰かに警告すれば、それは巡り巡って『例のあの人』の知るところとなるのだから。口外無用というわけですな………………それがホグワーツにあると?」
青年は老紳士の質問に答える。
「人が考える『最高の隠し場所』ってのはだいたい、その人が最高に親しんだ場所の中のどこかだよ。トム君が親しんだ場所ってそう多くない。そして僕が考えるに、アルバスの事だから『探して壊せ』ってハリーに……『生き残った男の子』に伝えてるはず。そしてハリーはそれを今もうやってる。そうだろうアルバス?」
どうやら観念したらしいダンブルドアの肖像画は、しかたなく会話に加わった。
「本当に他言無用に願いますよ先輩。それに皆様………本当に。教授が仰った通り、巡り巡ってトムの知るところとなりますから。私は進捗を彼に知られたくない。そして、先輩に言われてみれば、確かに………そこにある可能性は大きいでしょう。隅々まで探してみる価値はある、くらいには。そしてこの『作業』は遅かれ早かれ彼の知るところとなる。そうなったら彼は勿論『作業完了』を阻止しに来るでしょう」
ダンブルドアに若い魔女が心配そうに訊く。
「その時が決戦の時、ということですね校長先生。でも、ホグワーツで?子どもたちがいるのに?」
その質問に答えたのは彼女の雇い主である青年だった。
「ホグワーツがその地になる可能性は大きい。賭けても良い。そして、いいかい?戦いってのは場所を選んじゃくれない。備えがあろうがなかろうが、抵抗勢力が居ようが居まいが、子どもたちがどれだけ居ようが、制圧するメリットがあるなら敵は来るんだよ。たとえそこが無人の孤島だったとしても、ホグワーツだったとしても」
「でも、ホグワーツにはポートキーじゃ…………」と言った若い魔女に、青年は気軽な笑顔で返答する。
「アルバスにホグワーツの規則と保護呪文の抜け穴を教えたのは僕なんだよ?」
それを聞いて、青年の学生時代をよく知る旧友2人は声を揃って同じ事を言った。
「「ろくでもない先輩だねまったく」」
そしてしばらく後、会話を終え校内を一通り見学した青年とその助手の若い魔女は、また正門の前まで戻ってきて、ワガドゥーに別れを告げる。
「ほら、そろそろ出てきなさい。そちらの方はもう出発なさるんだから」
天文学講師の魔法使いにそう声をかけられて、若い魔女の着るゆったりしたローブ、の下に着た服の中にずっと入りっぱなしだったワガドゥーのお嬢ちゃんは、若い魔女の着る服の襟首から蛇の姿のまま顔を出し、そしてそのままスルリと出てきて小さいブラックマンバから人の姿に変わり、若い魔女に笑顔を見せた。
「暖かかったし、いい匂いしたし柔らかかった!お姉ちゃん好き!」
そのお嬢ちゃんは同級生達がよく使うショナ語ではなく、母語であるニャンコレ語でそう言ったが、笑顔を向けられた若い魔女はニャンコレ語もわからなかった。
「せんぱい通訳してください」と小声で求める若い魔女に、青年は少し逡巡してからワガドゥーのお嬢ちゃんが言ったそのままを伝える。
「ひゅぇえ?!!…………えぇ………えーと、『ありがとう。また会おうね』」
どうにか平静を保って言った別れの言葉を青年が通訳すると、ワガドゥーのお嬢ちゃんは若い魔女に抱きつき、青年にも抱きつき、そしてもう一度笑顔を見せてから他の生徒や講師たちの方に戻っていった。
「アンタ、次はどこに行くんだい?イギリスに戻るのかい?」
ワガドゥーの教授が、学生時代からの友人である青年に訊く。
「もう1箇所、援軍のあてがあるんだ。そこに行って、それから帰るよ」
「どこに行くんだい?」と天文学講師の魔法使いも訊いた。
「日本。コガワ先生の故郷だよ」
青年は2人の友人にそう言い、最後に改めて笑顔でワガドゥーに別れの挨拶をした。