remember
そう聞かれてみればあの船のコックが毎年そんな事を言っては甘味を一つ、くれた様な気がする。海賊というのは何かと無理やり理由をつけては酒を飲むので自分の誕生日もその中に入っていたのだろう。
「でもそれ知ってどうするの」
「どうするじゃねェよおれの誕生日にはしつこい位祝ってケーキ買ってくる癖に」
何故か不機嫌そうに睨むクロにそれは当たり前でしょ、と返す。大切な家族の誕生日はお祝いしたいし嬉しいものなのだから。
「それで? いつなんだよ」
「5月5日」
言った途端に銃を磨いていた布を取り落として目を見張る。
「それ今日だよな」
「⋯⋯そうなの?」
そう言えば宿帳の日付がそうだったかも。
「じゃあ。ハッピーバースデー私」
そう笑って趣味の続きに没頭しようと鋏を手に取るとった瞬間銃を叩きつける音に驚くとクロが立ち上がっていた。
「クロ、武器は丁寧に扱いなさいっていつも」
「待ってろ」
部屋を出ようとするクロに鋏を動かしながら声をかける。
「こんな夜中にどこ行くの」
「それは⋯⋯どっか店⋯」
「もうとっくに閉まってるよ」
「この島裏市あったろ」
「あそこであった事もう忘れたの? 行っちゃ駄目」
「でも」
「クロ」
扉から離れて無言で向かいに座り直すクロは全く納得してない顔で困ってしまう。突然の行動に疑問しかないが私の為に何かしようとしてくれてるのは理解してるつもりだ。
「良いでしょ別に。去年も一昨年も、これまで別に何もしなかったじゃない」
そう諭そうとすると睨まれて困ってしまう。
「じゃあ明日。明日一緒に買い物に行こう?」
「明日は誕生日じゃない」
珍しく拗ねてる。分からない何がそんなに不満なんだろうか?
次の言葉に迷っているとクロは一つ舌打ちをして、私の前に置いてあった布を端にどかして部屋を照らしていたランプを持って中から楼台を取り出すと私の前に差し出してくる。クロの不機嫌そうな顔が蝋燭の灯りでぼんやりと浮かんでいた。
「ケーキは来年買う、から⋯⋯⋯絶対。先にろうそくだけ消せ」
「クロが私に?」
「言っておくけど借りっぱなしが嫌なだけだからな。倍にして返してチャラにするからそのつもりでいろよ」
言われた言葉を理解して私の中にも蝋燭の火が灯ったような錯覚に陥った。
なんだか凄く嬉しくてきっとこんな夜更けじゃなかったら大騒ぎしてしまったかもしれない。
年に一度しか聴かないうろ覚えのハッピーバースデイを小さく歌う声に私はどんどん浮かれていって、終わると同時に吹き消すとクロに思い切り抱きついた。