privilege

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チロル。



「なあこの書類の手配人数うわ」

バギーが部屋への扉を開けるとそこはいつものクロコダイルの部屋ではなくなっていた。

いや、内装は変わらずだったがソファに座っているのは同盟相手の兄であるキャメルがおりシンプルながらもこだわりの窺えたローテーブルには隅から隅まで四角く個包装されたチョコレートで埋め尽くされ面影は完全に消え失せていた。あのお洒落な君は何処に行ったんだい? と嘆く声さえありそうだが残念ながら今ここにツッコミはいないし俺様はなるつもりはない、とバキーは扉を閉め

「クロなら直ぐに戻ってくるから待ってて大丈夫だよ」

ようとしたが、その台詞に大きくため息を一つ吐き嫌な顔を隠そうとはせず室内に踏み込む。

向かいのソファにドサリと腰を下ろして丁寧に並べられたチョコに視線を下ろす。

バギーにはこのチョコレートに見覚えがあった。1ベリー程の大きさのそれは、安い割には種類の多さと質の高さで今でも売れてるロングセラー製品。最近周年記念で過去の限定品を復刻、ローカルな物を一纏めにしてパック販売などをしているのだ⋯⋯というのをモージがドーナツを食べながら力説していたのを何となく思い出していた。

「これってわざわ」

と指差ししようとした手はギラリと睨まれた瞳と机を覆うように広げた腕を見て下ろされた。内心よっぽど

「誰が甘味狂いモンスターから貰おうと思うかよハデアホがァ!!」

と叫びたかったがバギーは死にたくなかったし大人なのでする事はなかった。反応が予測不能すぎるのでそれ以上に会話をするのが嫌になったのも大きいだろうが。

以前もホールケーキを2つ並べて食べていたので“そのケーキ邪魔なんでどかしますね”の「そのケ」まで言った時点で能力を発動していないのにバラバラにされ本人は黙々と食べ続けるという事があった。

クロコダイルは兄のそれらの行動を受け入れてしまっているしミホークはそういった事に対して何かしようという姿勢が全くないし部下にやらせてその度に斬られて減っては困る。必然的にバギーがバラバラになる事態が多く、つい最近やっと

「何か食べるのならクロち⋯⋯⋯⋯クロコダイル君の部屋が一番居心地良いと思うなぁボカァ!!!!! 好きな物を好きな部屋で食べるってハデに最高だなぁ!!!!!」

という説得というかごり押しの誘導が成功したのである。バギーは泣いて良い。というか泣いた。

と、そこに扉を開けて戻って来たクロコダイルに空気が和らぐのが分かる。──この男の存在で和らぐ空気なんてあるのか? という疑問はこの部屋にいれば実感できるはずである。

「なんだ? わざわざ部屋まで来るとは珍しいな」

「まあな⋯⋯」

ふと彼が戻って来る前との明らかな机の上の変化に気づいたのか眉をひそめる。

「わざわざ馬鹿丁寧に並べてなんのつもりだ」

「全種類一個ずつ買って並べてみたくてね! 凄いでしょう机埋まる位出てたんだよ。これとか懐かしいよく食べてたよねキャラメルチョコチップ! 今はもう出てないのが残念だなあ」

「そうかよ。一つ貰うぞ」

いいよ、という軽い言葉と共に懐かしいと言われていた味を受け取ってデスクに座ると無言でバギーに話の進行を促してくる。

『この兄弟は⋯⋯』

というそこから先の愚痴はやはり出すことは無かった。

死にたく無かったし大人なのもあるが、指摘するのも馬鹿馬鹿しかったからに他ならないからだ。

バギーはやはり嫌な顔を隠そうとせず、話を始めた。



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