part1 177氏より幼少期の糸師兄弟
弟の咥えたアイスの棒の先が不機嫌に揺れている。
隣町に新しくできた公園に2人で遊びに行く、という約束を急に覆していつもの公園にしようと言い出したから拗ねているのだろう。
冴としても意地悪をしたい訳ではない。が、あんなグロテスクな──新設の公園だというのに猟奇的な地縛霊がそこいらを恐ろしいナリで徘徊しているのを見れば、弟の手を引いて回れ右したくなるのが人情というもの。
今更ちょっと顔色が悪かったり血を流しているくらいのお化けじゃ冴は鳥肌もたてないし冷や汗もかかないが、あの公園でチラッと見かけた地縛霊はホラー映画ならまず登場するだけでR-18Gが確定する有様だったのだ。
とてもじゃないが凛には見せたくなかった。だから半ば引きずる形で最寄りのコンビニまで連れて行き、ひとまずアイスで機嫌をとりながら2人で歩いている。
「……兄ちゃんと滑り台で遊びたかった」
「いつもの公園にもあるだろ。とにかくあそこはダメだ」
「何で? またお化け? おれ平気だよ。兄ちゃんの弟だもん」
「俺の弟だからダメなんだろ。どうでもいい奴がグロいもん見たって別に構わねぇよ」
「……!!」
真っ赤な血管だか繊維だか毛髪だかわからない細いものを声の代わりに口からうじゃうじゃ吐き出して、正気を削がれそうな悍ましい動きでこちらににじり寄ろうとしてくる地縛霊の姿を思い出す。
たぶん公園を作る工事の最中に現場かその近くで殺人事件が起きて、隠蔽のために死体があそこに埋められたのだろう。その上に公園が出来上がった。だから真新しいのにえげつない地縛霊がもう住んでいる。
冴は食べているアイスのソーダ味さえ濁りそうな推測をおやつの邪魔だと頭の隅に追いやって、このアイスを食べ終わっても不機嫌なら次は弟をどう宥めようかと横目に一瞥した。
しかし弟はいつの間にやらすっかり屈託のない笑みを浮かべており、普段と変わらぬほえほえした印象に戻っていた。
……今の会話のどこで喜ぶポイントがあったのだろう。当たり前のことしか言った覚えは無いが。
愛らしくニコニコと破顔する凛に、冴は少しだけ首を傾げてから、まあいいか、とこぼしてアイスの棒をゴミ箱に捨てた。
今日もハズレだった。