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年末進行はクソ、と俺様──ゴールドシップは心の中だけでボヤく。
何が悲しくてむさ苦しい男共で書類を片付けねばならんのか、それは書類仕事が──不本意ではあるが──得意なのが自分達男性組なのがふたつあるうちの理由のひとつだった。
常々「書類仕事とかパソコンとか無理」と公言するブエナさんに頼もうものなら後で七勝会にいる皇帝様にチクチク言われるであろうことが目に見えている。……いや、面倒を見てもらった大恩人にいう言葉ではないと理解はしているのだが、如何せんあの皇帝陛下は小言が長いのが欠点なのだ。
そしてこの場にいない年少組の二人──グランちゃんとイクイノ──は週末に予定されているイクイノの引退式に備えて美浦に移動していたというのもある。
「ひさしぶりにえびなせんせいのところにかおをだしてきたいんですけど!」
「僕も、最後だしジオとキムテツ先生に挨拶しに行こうかなって」
そう声を揃えて出掛けて行ったのは昨日だったように思う。思う、というのは……もう日付感覚も無くなりかけているからで。
そんな訳で、今ここにいるのは書類に追われる四人のデカい成人男性なのだった。
そして、年末進行はクソだと痛感するもうひとつの理由が眼前の龍王の姿である。
「……何やってんだ、なんも無いところでふわふわ触るマネして」
パントマイムかと続けて吐き捨てたが、実際にパントマイムにしか見えない光景が目の前に拡がっている。
コタツに各々ノートパソコンを持ち込んで、かたやこたつテーブルの上に広げ、かたやコタツで寝転んで持ち込み仕事をしているわけだが……肩が固まったように感じてストレッチでもしようとパソコンから視線を上げたのが拙かった。
視線に飛び込んだのは、何かもふもふしたもので頭を撫でてもらおうとしている仕草を繰り返すロードカナロアの姿だった。
そしてその彼から発せられた言葉もとんでもなかった。
「イマジナリーどきゅーとカレンチャンに撫でてもらってる」
「いまじなりーどきゅーとかれんちゃん」
思わず復唱してしまったが、言葉にすることでその発言の狂気を思い知った、気がする。
当の本人は至極純粋な瞳で真っ当なことを言っているような口ぶりなので、どう見ても正気の沙汰ではない発言内容が際立っている。
どきゅーととやらの話自体はつい最近聞いたことがある。それもこのとち狂った世界の龍王の口からではなく、同期の三冠女王の口からだが。
なんでもとある作品の姿のキタサンブラックとサトノダイヤモンドのどきゅーとが出るので、とりあえずダイヤのものだけでも押さえないと、という話だった気がする。
「うっわ……」
「聞かなきゃよかった……」
心からの本音をこぼすと同時に、この場にいる最年少であるモーリスの心からの軽蔑を込めた一言が聞こえてきた。
ちらりと視線をやると、『何言ってんだこのカレンさん限定万年思春期』とでも言いたげな顔をしていた。
「……『なんで現実に存在しねえんだ』とか言い出して暴れるよりはよっぽどマシ」
下の方からため息混じりに聞こえてきたのは、その龍王様の同期であるひとつ上の世代の三冠王ことオルフェーヴルだった。その言葉に遠い目をしたモーリスの顔を見ると、たまに仕事を持ち込まれすぎて職場で荒れるという噂は本当なんだなあ、と変に感心してしまう。
「どきゅーとは費用も掛かるだろうし、メディア展開に合わせたコンセプトになるのは当然の話だろ?それには何も言わない」
それに答えたカナロアの言葉は至極真っ当で、ただ仕事で心が荒んで奇行に走っただけかと納得しかけた。
「俺はただ、この世に生まれたどきゅーとカレンチャンという概念を愛するだ…」
「……悪い、ゴルシ。やっぱこいつ死ぬほど気持ち悪い」
それは続く言葉によって否定されたが。
「そういやこの人三徹目とかでしたっけ」
そりゃおかしくなるはずだ、と続けるモーリスの目の下にもしっかりくっきりと大きな隈が出来ている。
そんな彼も、勿論自分もだが……三徹以上の徹夜をしようものなら可愛い後輩が先輩を引き連れて「正座なんですけど」と無に近い顔でやってくるので三徹を超えないように睡眠時間を確保している。
後輩の場合は理詰めになると圧が凄いという意味で避けたいのだが、先輩の場合は心配してくれてるのがわかるので良心が痛むという意味でご勘弁願いたいのだ。
それで思い出した。
『年少の二人の前でコレをやられたら困る』と。
「おっまえマジでグランちゃんとイクイノがいないタイミングだからよかったけどよ、まだ若いあの二人の前でやったら流石に事だぞ?」
そうなのだ、まだカレンさんの話をするだけならいいのだ。今回みたいなのは流石にライン越えだし、悪影響でしかない。
なので強めに言ったのだが……。
「は?俺があの二人にまで迷惑かける訳ないじゃん。常識はなくとも、カレンチャンとの日々の中で培った道徳倫理だけは遵守する男だぞ?」
「ねえ怖いんだけど今日のこいつ!!!」
言動が確実におかしいのに思考も目つきもまともなのだ。まともに狂っているのだ。これが怖くなくてなんというのか。
部屋を見回してみたが──ほれみろ、オルフェの兄さんが「俺、最狂の三冠王の二つ名に自信が無くなってきた……」って遠い目してるじゃねえか。
静かに狂うカナロア、遠い目をして現実逃避に入ったオルフェーヴルを横目に途方に暮れていれば……ガン、と何かを叩きつける音がして全員の視線がそちらに向く。
この場における最年少で、この中で誰よりもワーカホリックなモーリスが、ステンレスタンブラーをこたつテーブルの天板に叩きつけてからじとり、とカナロアを睨めつけて口を開いた。
「……もういっそ、イマジナリーどきゅーと抱き締めながら黙って寝ててくれません?あの隅っこあたりで、静かに」
有無を言わさぬ口調と恐ろしく地を這うような声で部屋の隅を指さし、静かなる狂人に告げた。
この状態のモーリスに遭遇した普通の彼なら土下座体勢に入るところである。
だが、待って欲しい。
ここにいるのは龍王・ロードカナロアではなくただただ静かに狂ったカレンチャンオタクなのだ。
そんなカレンチャンオタクはポン、と手を打ってこう宣ったのだ。
「……お前、天才か?」
いそいそと何かを抱き上げて運ぶ様にリビングの隅に移動し──そのまま抱き着いて眠る体勢を取り始めた。
「……くそ、最後まで何かに負けた気分だ……」
「去り際までこんな気持ちにさせられたの、無惨様以来だわ」
珍しく敬語も何もかなぐり捨てて吐き捨てたモーリスの心労を慮って、ブエナさん直伝のビターココアでも入れてやろうと更に伸びをした所に、オルフェの兄さんが訳の分からない感想を述べていた。なんでそれに譬えた。
「まあとりあえず、しばらくは仕事の配分しておこうか」
そう呟いて席を立った。
またアレが壊れた時にブエナさんや年少組がいたらとか考えたくない。
「あ、ゴルシー、俺エスプレッソー。砂糖ジャリジャリなー」
「何杯目だよ、胃を壊すからみんなビターココアだよ。兄さんの分はエスプレッソと半々でいれてやるから。モーリスは?」
「僕もそれにしてください。あとマシュマロ二個お願いします」
「あいよ」
ブエナさん直伝のココアは、最近遊びに来るアイちゃんやリバティちゃんもお気に入りだ。純ココアを三十秒程軽く炒ってから砂糖と水で練るのがコツで、豆乳かアーモンドミルクかオーツミルクで伸ばすのが六勝会の味。
ビターになると通常のものよりもキビ砂糖の量を半分に減らした上でお湯で伸ばす。
今回は眠気飛ばしだから甘くないものが良い、でもエスプレッソで割る以上は胃を痛めたら元も子もない。となるとオーツミルクか豆乳だろう。そう考えながらリビングを出る時に静かになったカナロアを見たら、器用に頭を浮かせて膝枕してもらう体勢になっていた。
無駄に器用だなあの馬鹿。
あ、すげえ音した。寝落ちたな。
というかそれでも起きないとか気絶したんじゃないか?知らねえけど。
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「なあ、なんで俺床で寝てんの?つか側頭部と首がすっっげぇ痛いんだけど。こんな寝違えることある?」
「さあ?僕達が気づいた時には既に寝てましたよ。起こしたくなかったのでそのままにしてましたけど、ダメでした?」
──翌日の朝、側頭部にたんこぶを作ったカナロアがこう宣い、モーリスがすっとぼけて返事を返すのはまた別の話である。