なんちゃって後宮パロ3
彼女は呆れた様子だったけれど、夜はしっかりと私を綺麗にしてくれた。着物を着せようとしてくれたが、これを着せてほしい、と自分が用意したものを見せ、着付けと薄い化粧を施してくれた。肌もなんだか良い香りがする。彼女は私に一言だけ応援の言葉をかけ、自身の部屋に戻って行った。いつもお礼は言っているつもりだが、今度改めて言わなければ。
何度も何度も鏡の前で自分の姿を確認して、いつもの窓辺に座った。今晩の月も明るい。逆に心が落ち着いてきて、エランのことを考えていると自然と笑みを浮かべていた。まだかな、なんて勝手に口から声が漏れて、それにすら笑ってしまって。彼が来るのをいつだって楽しみに待っていたけれど、今日は格別だ。
すると、とんとんとん、といつもの音が聞こえた。
「ど、どうぞ!」
「失礼する」
扉が開かれる。私のいる方へと足早に寄ってくれた。彼の瞳が見開かれたあと、柔らかく三日月になって、やはり彼が好きだと、そう思った。
「すごく、綺麗」
「あ、ありがとうございます……」
彼は一段下の間から、私を見上げてそう言ってくれた。それだけで、もう幸せだった。
とん、と彼が上がって、私の手を取る。
「君の国の?」
「はい。お姉ちゃんが、私にくれたものです。酷い、ですかね。私は国を恨んでいるのに……」
「すべてを嫌いにならなくても、いいと思うよ。姉と、人が作る物は好き。それで、いいんじゃないかな」
「……はい!」
「でも、汚したらいけないから、すぐ脱がすよ。残念だけど」
「はいっ!……え!?あっ」
一歩後ろに下がったが、エランがすかさず腰をぐっと引き寄せる。少しかがんで、耳元で言われた。
「また着てるところ、見せて」
しゅるり、とあっけなく布が落ちてゆく。この国のものより柔らかい素材でできた服。白地に金の繊細な装飾がされた薄い布は、月に照らされて美しい。ヴェールのような大きな布を、彼はめくって、私に口付けてくれた。この国の作法は分からないが、憧れていた婚礼の儀のようで、こっそり喜んだ。
せっかく着た衣装はもう床に落ちてあとは下着だけ、そんな格好になった時に、彼は口を開いた。
「ねえ、ここでするのと、あっちでするの、どっちがいい?」
「えっ、ここ……?」
ここはお気に入りの場所だが、てっきり寝台でするものだと思っていたので素っ頓狂な声が出た。
「ここで君を抱いて、僕のことをここに来る度、思い出させてやろうと思って。まあそれは、あちらでも同じだけど」
ななななんかすごいことを言われてる気がします……!!
気圧されて固まっていると、ふわりと身体が浮いた。彼に抱えられている。
「でも、身体を痛めてはいけないから、やはりあっちだね」
「はひ」
昨日から思っていたことだが、エランはかなり、態度も言葉もつよくないだろうか。皇帝だから、ということでは無い。妙に責められている心地になって、怖くはないのに、逃げられずに震えて怯えて待つしかない動物の気持ちがなぜかよく分かるのだ。エランの瞳は優しいけれど、鋭い。あの瞳に見つめられると、身体が動かなくなる。
今も運ぶ時は優しかったのに、寝台に腕を押し付ける手は強い。
「あの、に、逃げませんから……そんなに強く抑えなくても……」
「うん。でも僕も、どうなるか分からないから。絶対に君を逃がしたくない」
「〜〜〜〜っ、えええ、えらん、さ、んぅっ」
薄く口が開かれ、唇が重なる。何度も角度が変わったり、舌を吸われたり、どんどん力が入らなくなってくる。初めて口付けをした時に、もう私の気持ちいいと思うこと全てを理解されてしまったのだろうか。
「ぁん……、えらん、さ」
ちゅぷ、と水音を鳴らしながら口を離した時、彼の頬も赤く染まっていた。
「かわいい」
「え……」
「かわいい。すき」
「ぁう、」
ぎゅっと抱きしめられて、顔中に口付けられる。くすぐったくて、何より嬉しくて、同じように抱きしめ返した。
「わたしも、好き。エランさん……」
「うん。好きだよ、スレッタ」
「エランさん……!すき、だいすきぃ」
ぎゅうぎゅう抱きしめ合っていると、ごり、と股の間に固いものが当たって、はっと顔を上げた。名を呼ぼうとすると、下の方の下着をあっけなく取られた。恥ずかしい、と制止の声をかける前に、熱い息が頬にかかる。
「ごめん。先に、一度出させて。君のをほぐすとき、集中出来そうになくて……」
「さ、さきにって、ひぁあっ」
にゅる、と割れ目を熱いものがこする。両膝をぐっと開かれて、目が回りそうになった。着物の前がはだけて、真っ白な肌が月明かりに照らされている。
「きみも、濡れてるね」
「あっ、やっ、ぁあっ」
頬を染め、眉を寄せながら腰を振る彼の姿だけでも目に毒だというのに、芯に擦れる度に気持ちが良くて、じんじんと痺れてくる。脚をこんなに広げられて、いきなり覚悟もなく一番恥ずかしい所まで見せてしまっている。
「だめぇっ、えらん、さん……っ、やぁあっ、あっ、こんな、」
「ん……、ごめん、もう少し……ッ」
「あぅ、まってぇ、あっ、あっ……」
ずるずると固いものが行き来して、息が上がる。自分でも滑りが良くなっているのが分かって、蜜を漏らしているのが、どうしようもなく恥ずかしい。けれどそれが余計に、きもちがよかった。
「っあぁ……、あ……!」
「ん゙……、」
ぴくぴくと少し震えていると、苦しそうな声が聞こえた。はあ、と熱い息がまたかかり、エランが顔を上げる。腹に熱いものがかかったと思えば、すぐに布で拭き取られてしまった。
見たかったのに。
「もう、大丈夫。ごめんね」
「そんな、いい、のに……んんっ」
唇を塞がれながら、胸を柔く掴まれた。むにゅむにゅと揉まれたあとは、きゅっと先端をつままれ、指の腹で弄られる。胸当てが鎖骨の下に溜まって、脱がされずに中途半端なのが余計に恥ずかしい。
「あ、あ……!」
「ん……、」
「ひっ、ぁ……」
かりかりと先端を爪で引っかかれて、腰が跳ねる。そのままちゅうっと吸い付かれ、下腹部が甘くうずいた。太ももを擦り合わせていると、ぬるりとエランの指が間に差し込まれる。秘部を硬い指が上下して、余計にぎゅっと挟み込んでしまった。けれど片膝を持ち上げられ、だらだらと蜜を垂らすそこをエランの前に晒される。耐えられそうになくて、膝を戻そうとしても力が強くて敵わない。中心の突起をふにふにと優しく押し込まれて、今までで一番媚びた声が出た。
「きもちいい?」
「やぁっ、あっ……、あっ」
「きもちよくない?」
「き、もち……です、んんッ、ぁあっ」
良かった、と淡々とした声の後に、指で花芯を押しつぶされた。指で挟んで弄られたり、くるくると周りをなぞるようにして刺激を与えられる度に腰が浮く。彼のもので擦られた時もよかったけれど、直接触れられるとほんの少し痛くて、きもちがいい。
「あ、あぅっ……、あっ、あぁあ……」
「すごいね。たくさん溢れてきた」
「やだぁ、いわな……で……っ!ひぅっ」
濡れそぼったそこに、つぷりと指が入ってくる。自分でも中に入れたことは無くて、そんな所にエランが初めて入れるのは、怖くて、同時に胸が高鳴った。ゆっくりと進む感覚に背筋が震える。
「痛くない?」
「んっ……だいじょぶ、です」
「うん……でも、怖くないよう、僕を見てて」
指の根元まで入った瞬間、口付けられる。そのまま上も下もぐちゅぐちゅと音を立ててゆっくりとかき回されて、頭の奥まで溶けそうだった。ぬるぬると入れられ、ゆっくり抜かれる度に腰が痺れる。
「ぁ、……んむ、んん……っ」
「はぁ……、スレッタ」
彼の指を締め付けたのが自分でもわかった。
「えら、さ……もっとぉ……」
「……」
少し、圧迫感が増した。エランが二本目の指を滑り込ませている。少しきつかったけれど、それよりも快感の方が強くて、もっともっととせがんだ。舌が絡まる水音が耳に響いて、どんどん腰が重くなってゆく。お腹側を優しく指で押された瞬間、身体が大袈裟に揺れた。
「あぁっ、あっ!あっ、それぇっ、やぁっ!へん、へんですっ」
「変じゃないよ。ここが、君の気持ち良いところ」
「あ……、んっ、わかり、ましたぁ……あっ、ぁん」
エランがそう言うならそうなのだろう。身体と頭、どちらがさきに受け入れているのか分からない。エランの首に腕を回して、口付けをせがむ。
とんとん、とお腹側を何度も何度も叩かれて、腰から頭の先まで甘い痺れが走る。気持ちが良いのに物足りなくて、指をぎゅうぎゅうと締め付け、抱きつく。
「あ〜っ……あっ、あっ、えらん、さん……えらんさん……」
「ん……?」
「もっとしてぇ、も、エランさん、のいれて……っ」
「駄目。君……全く我慢出来ないんだ?」
エランの嘲笑の混じったような加虐的な笑みにきゅん、と締め付けてしまう。
我慢が出来ない。私はそんな人間だっただろうか、と少しだけ残った思考回路で考える。
ずっとずっと人にお願いが出来なかった。甘えられなかった。我慢強さだけはある、と言われてきた。なのにエランには甘えてしまう。鬱陶しく付き纏って、行かないでと駄々を捏ねている。エランの前で我慢強い、良い子だった時の方が少ない。
「何を考えているの?」
「あぅ、んっ、ごめ、なさ……っ」
「謝らなくていいよ。ねえ、何を考えているの」
容赦なく花芯を押しつぶされ、ガクガクと腰や足が震える。
そんな時に答えられる訳が無いのに。
「ひ、ぅ、〜〜〜ッッ……わ、わたし、エランさん、に、だけは、……っ、がま、ぁっ、できなくて」
「だろうね。普段の君は、どんな扱いを受けても耐えていたのを知ってる」
知っているなら、どうして。
「だから僕には、たくさん甘えていいよ。何でも言って。あとで、君のお望み通りのことをしてあげる。……ぜんぶ」
ずるい。彼は本当にずるい。
そんな事を言われたら、歯止めが効かなくなる。たくさん甘えて、甘やかされて、前の自分には二度と戻れなくなる。怖い。困る。彼がいなくなったら私はどうなってしまうの。
私も彼に何かできないのかな。
「ふ、かわいい」
「ひっ、ぁ、あ、〜〜〜〜〜ッッ……」
中がひくひくして、止まらない。なんだろう。視界がまっしろになって、頭もふわふわして、きもちがいい。こんな感覚は知らない。
「今、いれるね」
「へ……?」
「いれてって、言ってたでしょう」
「まってくらさ、いまは、」
「いれてって言ったり、待ってって言ったり、我儘だね」
ずぶずぶと熱いものが入ってくる。
散々弄られて解されたそこは簡単にエランのものを受け入れてしまって、自分の身体が信じられなかった。痛いどころか、自分から吸い付くような動きをして、混乱する。頭と身体が反対になっているみたい。
「んん、ぅ、〜〜〜〜っ、ぁ、はぁ……」
甘い痺れで半分身体が浮いていたような感覚だったのに。そんな時にこんなに決定的な刺激を受けたら、もう。
「ん……、大丈夫?」
「あ、う、えらん、しゃ」
「君が痛くないか心配だったけど……、よさそうだね」
頬を撫でられた。下をそっと見れば腹がくっついている。こんなに奥まで入ってしまうんだ。だって、さっき見たの、すごく大きかったのに。
大好きな彼のものが私の身体の、こんなに奥にあるなんて。彼に心も身体も支配されているようで、心地が良い。
「く……っ、締め、すぎ……ゆるめて、すぐ、出るから……」
「むい、むりです。だって、エランさんの、ふかくて、うれしくて……、ん……、エランさん、だいすき、すき、すきなんです……」
「煽るな……ッ」
眉間に皺を寄せて荒い息を吐いている。こんなに苦しそうなエランは見たことが無い。どうにかしてあげたい。自分も今、彼が動いてしまったら大変なことになる、そうぼんやりとだが頭の片隅ではわかっている。だって、ずっと中が痺れて、びくびくと肩が跳ねている。
なのに口は、反対のことを言っていた。
「えら、さ……もううごいてぇ……いっぱい、おく、わたしの、おく、あっ、ぁあっ」
「……ッ、本当に」
「あッ、あっ、あぅっ、こえ、だめ、らめ、やっぱ、りっ、だめっ、!」
「知らないよ。さっき君が言ったんだろ」
両膝を持ち上げられ、じゅぶじゅぶと抜き差しをされる。ああ、こんなにも私は濡らしていたのか。恥ずかしい。でもその羞恥さえ快楽に変わってしまう。
背中が弓なりになって、はしたなくつま先をぴん、と伸ばしていた。
「あぁああ……、あぁ……、」
「気持ちいい?」
「きもちぃ、きもちいよぉ……、えらんさん、もっとぉ……」
「いいよ」
ゆるゆるとゆっくり出し入れされるのがたまらなく気持ちがいい。だらしなく口を半開きにしていたから、よだれが敷布に垂れてしまった。
「ん、んん、えらんさん、くちもして……」
「うん」
舌を絡めながら揺すられると、エランのものがお腹側の良いところを掠める度に腰が浮く。
「あぅ……っ、んんっ……んぅっ」
「はぁ……、ん」
「ふ、ん……、んん、ん……」
夢みたい。ただただ気持ちが良くて、幸せで、あたたかくて……。
ぎゅうう、と中が締まって達したのだとわかった。花芯をいじられていた時とも違う感覚に、うっとりと息を吐いて余韻に浸る。薄い着物から覗く白い肌に手を滑らせて、するするとなぜた。
「すっごく……きもちよかったです……えへ、エランさんだいす、きゃあっ」
「じゃあ、今度は僕の番ね」
「ひっ、んぁっ、あっ、あっ、ぁん!」
ぱんっ、ぱんっ、と肌のぶつかる音が聞こえる。突かれるたびにそのまま声が漏れ出て、抑えることなど出来そうにない。
激しくなった動きについていけず、頭がおかしくなりそうだった。
あるところを突かれた瞬間、びくん!と身体が大きく揺れた。目の前がチカチカして、呼吸の仕方がわからなくなる。
「あっ……?」
「ん……、ここ?」
「あ゙……っ、だ、だえっ、えりゃ、さ、」
「どうして?」
「あぁああ〜〜〜っっ、あぁああ、あぁあ……」
一番気持ちいいそこを容赦なくぐりぐりと抉られる。逃げようとしても身体を押さえつけられて動けなくて、ひたすら快感を受け入れるしかない。こんな強い快楽は知らない。こんなに暴力的な快楽は知らない。
「やだぁ……、こわ、こわいぃ……やだ、たすけて……」
「きみがもっと、って言ったんだよ」
「もぉ言わな、んぁああっ!あぁ、いわな、いぃ……、えら、さ、!」
「そう」
もう無理だと言っているのに。ちっとも優しくない。
こんなに意地悪な人はきっと私の大好きなエランさんじゃない。
「あぁああ……ッ、えらんしゃ、えらんさんすきぃ……すき……っ、すき、すきってゆってぇ」
「大好きだよ。スレッタ」
「ぁ、あ、〜〜〜〜〜〜っっっ……」
「ゔ……ッ」
奥の奥に、熱いものが広がる。びゅくびゅくと出される度に胎が収縮して、最後の一滴まで搾り取ろうとしているみたいだった。
エランの身体にしがみついて、肩口に顔を埋めた。しっとりと汗ばんでいる。いつもより彼のにおいが感じられて、肩をはむ、と噛んだ。しばらく二人で、ぐったりと重なったまま息を整えた。
「は……、ぁ……」
「大丈夫?辛かったでしょう」
「んむ……、えらんさんのいじわる……」
「ごめんね」
意地悪だなんて本当は思っていない。彼も本気で私がそう言っている訳では無いことを分かっているのだろう。全てを彼に知られているみたいで、恥ずかしくて、うれしくて、頬を擦り合わせた。
「エランさんだぁいすき」
「ふふ、かわいいね」
頭を優しく撫でられる。胸がきゅっとなって、つい口から本音がこぼれてしまった。
「エランさん……なんでもお願い聞いてくれるって……本当ですか……?」
「うん、言って」
「……ほかの女の人のとこ、行ってほしくない……」
数秒間を置いて、ハッと口を抑えた。さあ、と今までの甘い温度が一瞬で冷えたような心地がした。
「な、な、なんでも無い、です!」
彼は皇帝だ。影武者であっても、仕事は彼も担っているのは重々分かっていたというのに。皇帝が様々な宮に通うのは義務なのだ。仕事なのだ。お願いどうこうという話では無い。むしろ、私の意思をここまで尊重してくれたことに感謝をしなければならないのに。あまりにも彼が優しくて、図に乗ってしまったのだ。
「いいよ」
「えっ……?」
だから、あっさりと頷かれて瞠目した。
「で、でも他の女の人のとこ、行かないと色々まずいんじゃ……」
「うん、まずい。でもそれは、アイツに押し付ければいいかなって。それに今までも僕は全く通っていない。面倒だったし。君が来る以前も今も、本物が適当に通ってるんだ。君のところに僕が通ったのはアイツが僕に行けって言ったから。でも今は、僕にそう押し付けたアイツにすごく感謝してる」
ぎゅっとエランに抱きしめられた。頬をスリスリと寄せてくる。
私に都合の良すぎることばかり言われているからか、イマイチ理解ができない。
「じゃ、じゃあ……前も今も、ずっとエランさんは私のとこにだけ、来てたんですか?」
「そう。アイツがどれくらいの頻度でどこの宮に行っているのかは一応僕も把握してるけどね。でも、きみも知っている通り、頻繁じゃないとはいえ通ってはいるのに子どもがまだ誰もいないんだ。案外アイツも適当に通って喋って終わり……とかなのかも。まあ、どうでもいいけど」
段々理解し始めた頭とともに、にへ、と頬が上がる。
彼は私だけ。こんなに都合が良すぎていいのだろうか。だってここは一応敵国で、私はただの駒で……。たとえ母国にいたままだとしても、姫という身分だから好きではない相手に嫁ぐのだと思って生きてきたのに。
好きな人と結ばれて、しかも互いに互いだけなんて。
内心でものすごくはしゃいでいると、エランがむくりと起き上がった。しかしその表情はどこかしゅんとしていて、どうしたのかと慌てて自分も起き上がって座る。
「どうしたん、ですか……?」
「君と子どもができても……表向きは勿論、アイツの子どもになるんだ」
ぼわ、と一瞬で顔が熱くなった。先程中に出されたのを鮮明に思い出してしまった。いけない、真面目な話なのだ。
「は、はい。そう、ですね!」
「多分、僕が死なない限りアイツはあんまり表に出て来る気がない。だから……殺されないように気をつける。長生きを目指すよ。君との子どもを僕が育てたいから。僕の子どもは君とだけだから。それでもいい?って聞きたいけど、ごめん、事後報告だね……」
「じゅうぶん、です!」
「そう……?君の国は一夫一婦制だと聞いたし、ただでさえ後宮という仕組みに嫌悪を覚えてるだろうに、すまない」
「ほんとに、エランさんは優しいです……あ、あの。たしかに一夫一婦制ですけど、辰星国でも政略結婚をすると思ってたので。会ったこともない方に嫁ぐという部分は辰星でもペイルに行くのもどっちも変わらないな、って思ってたんです。後宮で恐ろしい目に遭わないかという心配は大きかったです、けど……」
なおも眉を少し下げている彼に、でも!と抱きついた。
「ここに来て貴方と出会えて、こうして結ばれて、本当に嬉しいんです。それなのに、複雑な立場なのに、私だけって言ってくれて……もう、幸せで夢みたい、なんです。なのに私は、エランさんに何もしてあげられないのが悲しいです……」
小さな国から、ほぼ売られるように、捨てられるように来たのだ。ペイルにとっても、エランにとっても、改めて大した利益は無いなあ、と落ち込む。
そっと、背中に同じように腕が回された。
「何も要らない。君がいれば、じゅうぶん」
「エランさん……お、おそろい、ですね」
「うん、一緒だね」
えへ、えへへ、と笑い合う。
ぼふ、と肩を押されて目をぱちぱちと瞬かせていると、エランの顔が近づいてきた。
「え、えらんさ……」
「さっきのお願い、聞いてあげるね」
「さ、さっきの……?」
「もっと、って言ってた」
「ああああれは……っ、なんというか……!」
「うん、冗談。僕がしたいだけ。……嫌?」
「ぜ、ぜんぜん……嬉しい、です……」
うう、またあっさりと彼のものを受け入れてしまった。なのにそれに反して背中は反り返ってしまう。
いつの間にそうなってたんですかエランさん。真顔だから分かんないです。
「君こそ、初めてじゃないと思ってたよ。だってそんなに、よさそうだから」
「っぁ、う……はじめて、です……こんなに、きもちい、なんて……ひぁっ」
身体をひっくり返され、後ろから腰を持たれた。中が擦れて腰が砕けそうになったのに、ぐり、と奥に押し付けられ、上半身が沈んで力が入らない。震える手で、枕を抱きこんだ。
ずる、と抜かれたかと思うと、すぐに最奥まで突かれる。獣みたいな格好だ。でも、二人で息を荒げて快楽に溺れて腰を揺らすなんて、動物と何も変わらない。
「ぅあ、あッ、〜〜っ……!!」
「は……、かわいい……」
耳元で囁かれてびくんと跳ねる。その拍子に中のものを締め付けてしまい、更に質量が増して、敏感になっている内壁をゴリゴリと刺激される。そのまま耳にも舌を差し込まれ、くちゅりと水音が脳内に響いた。
「あっ、あ……だめ、みみやら……っ」
「気持ちいいね?」
「んっ、や……!」
「はは、すごく締まってる」
意地悪だ。なのにもっといじめてほしいだなんて考えている自分がいる。
「あっ、あっ、あぁんっ、あぁ、」
腰を打ち付けられ続け、力が何にも入らなくなってきた。ずるずると膝が敷布を滑り、ぺたん、とうつ伏せになって息を整えようとしていると、エランが上から思い切りのしかかってくる。
まずい。そう思った時にはそのまま犯された。
「ん゙んん〜〜〜っっ、んッ、んぅうっ」
エランは細く見える。けれども、着物からのぞく胸は厚くて、今も、こんなにも重い。ずぷ、ぬちゃ、と粘着質な音を立てながら、何度も激しく出し入れされて、頭が真っ白になる。
「あっ、あっ、ああ……!」
「大丈夫?」
「ひっ、ぃ……!こえ、ずっと、いってぇ……、あっ、あ゙あっ」
はあはあ、と息をなんとか整えようとしていたとき、違和感を覚えて、サッと熱が引くような心地がした。
「あぅ、あっ、えら、さ……っ、抜いて、くらさ、」
「どうして?」
嫌だ。言いたくない。幻滅されたくない。けれど、ここで粗相をしたら、本当に幻滅される。
「んぁあっ、ぬいて、ぬいて……っ、で、でちゃ、ぉ、おしっこ、……おねが、い……」
耳まで熱くなっているのがわかる。恥ずかしくて、惨めでたまらない。こんなことを、言いたくはなかった。最中に、彼の耳に、こんな言葉を入れたくはなかった。
ぴた、と彼が動きを止めてくれた。
心から安堵の息をついて、彼が起き上がるのを待っていると、片手で、私の腰だけをぐい、と持ち上げられた。
「え……?」
「……ここ?」
「ひぁっ!?、あっ、や……!」
指、が。
少し右往左往した後、ある一点をぐりぐりと容赦なく押される。
「だめだめだめ……っ、え、えらんさぁ……っ、ほんとに、ほんとにだえっ!」
「……」
「『待って』!ほんと、に、あぁぁ……っ」
「ん……さっき、なんて言ったの?君の国の言葉?」
「ま、あぅ、待って……って……ぅぅう」
「……聞いといて悪いけど、そのお願いは聞けない」
相変わらず指でぐりぐりと繋がっているところの近くをいじられ、ゆるゆると腰を動かされる。
きもちがいいのと、そのせいで背筋に寒いのがはしって、このままでは本当に人間ではなくなってしまう気がした。
「だめぇっ、だめ、おねがい、おねがい、はなして、ほんと、に、でちゃうぅっ」
いよいよ、何かがせり上がってくる感覚がして、慌てて下腹部に力を入れるも、間に合わなかった。
待って。待って。いや。嫌!
「あ、あ……っ、あああ……!」
「……やっぱり、おもらしじゃなかったね」
「あ……あ……」
ぽろ、と涙が出た。
エランが覆いかぶさってきて、そのまま抱きしめられる。けれど、また腰を突かれて、その度にぴゅ、ぴゅ、と情けなく何かが漏れているのがわかる。
「んうぅっ、んっ……、ぐす、」
「ごめんね?いじめすぎたね?」
「もぉやらあぁ……っ、あっ、んッ、んっ」
わんわんと泣いているのに、全然止めてくれない。それどころか、ぐるりと私の身体をひっくり返して、正面から再び犯される。
「あぅ、あ……っ、う……、ふぅ、ん……」
「はあ……泣いてるの、すごくかわいい……」
ちゅっ、と唇を吸われる。口の中を舐められて舌を絡められて、唾液を流し込まれる。
ふ、と瞳が三日月のように歪む加虐的な笑みを間近で見てしまって、ぎゅうう、と締め付けて、喜んでいるのはきっと彼にばれてしまった。それすらも、恥ずかしくて嬉しくてきもちいい。
「『好き』」
「あっ……、えらん、しゃ」
「発音、合ってた?」
「合って、ます、」
私の国の言葉でそう告げてくれる。
すごくすごく意地悪なのに、すごくすごく私を大事にしてくれる。
「君の国の言葉、後で全部教えて。今から言う君のやめて、ってお願いはもう聞く気、無いから」
──この国の言葉で言っても、聞かないけどね。
やっぱり彼は、意地悪だ。
温くて心地よいばかりの日々が続いていた、そんなある日。
「……君に、提案があるんだ」
エランがいつにも増して真剣な面持ちでそう告げてきた。いや、言い淀んでいる、と言った方が正しいかもしれない。
今日も……するのだろうかとソワソワしっぱなしだったが、敷布の上で正座をしてきちっと彼に向き直った。
「後宮から……出られるとしたら出てみたいと思う?」
「え?」
ぽかん、と我ながら間抜けな顔になっていたと思う。
後宮を出たい、と思うか……。ここに来る前は、正直に言うと後宮などに入りたくはなかった。辰星で政略結婚をするか、ペイルで後宮入りするかの二択だった。どちらにせよ、相手が自分と合わないだけだったらマシな方で、暴力を振るわれたり……なんてことも考えていた。辰星は一夫一妻制だ。唯一の夫に嫌われれば終わりだといえる。姫という身分なので離婚も容易には出来ないだろう。だから、ペイル帝国で、皇帝に放置されるのが一番身の安全は確保できるのではないか、という思いも実はあった。皇后になる、と自身を奮い立たせてはいたが、皇后になれるとは本当に、はなから考えていなかったのだ。しかし結局は、皇帝だけど皇帝ではない不思議な立場の彼を好きになってしまい、彼も私を好きになってくれたという奇跡に今は甘んじて、後宮に喜んで住んでいる、ともいえる。
国や母からは怒られそうだが、正直いってこの甘くて優しくて温い日々を手離したくはない。
辰星でも、後宮でも、公の私の立ち位置は皇帝に放っておかれ、端っこで寂しく暮らす姫のままのはずだ。
「前は、後宮なんて行きたくない……って思ってました。けど、今は出たくない、です。あなたが、いるから……」
えへへ、と少し照れながらそう告げた。ついでに、彼の手に自分の手を重ねたりなんかして。
「じゃあ……僕がここを出る、と言ったら、君は僕と一緒に来てくれる?」
「えっ?」
エランさんと、外に。
頭の中に、彼と手を繋いで歩く光景が一瞬で広がった。
そしてそれは、それは。
外を見たい。歩きたい。友達を作りたい。
好きな人と……いつか自由にデートをしてみたい。
私の、小さい頃からの夢の全てだった。叶うはずがないと諦めて、押し込んでいた夢。
「行きます!行きたい、ですっ」
食い気味に、そう答えていた。
エランは少しだけ驚きながら、待って、と静止をかける。
いけない。つい暴走しそうになっていた。
「ごめん。ぬか喜びさせるかもしれないから、先に言うべきだったんだけれど……君の立場と引き換えに、外に出ないか、という意味なんだ」
「私の、立場……?」
「うん。君を後宮から追放扱いにすることで、君を外に連れ出せる」
「つ、ついほう」
「そして僕は……、都から遠く離れたところに行くか、結局宮廷務めになるかのどちらかだ。癪だけどアイツに相談しなきゃいけない。この顔だから」
ばくばくと心臓が大きな音を立てている。
神妙そうな表情をしている彼には申し訳ないが、期待ではち切れそうな胸を抑えるのに必死だった。
「えっと……私を追放して、エランさんも皇帝のお仕事をホンモノさんに全部任せて駆け落ちをするか……エランさんは宮廷のお仕事を手伝うけど、おうちは私と一緒のとこになる……ってことですか!?」
「う、うん。よく分かったね。どちらにせよ、君はヘマをやらかしたとか何か適当な罪をでっち上げて追放扱いになるんだ。だから、辰星のお姫様じゃなくなる。僕も、皇帝ではなくなる。元々そうだけれど。君は、皇帝という価値の無い僕と……一緒になってくれる?」
そんなの、そんなの。
いつの間にかぼろぼろと涙が出ていた。
こんなに嬉しいことは無い。嬉しすぎて、都合がよすぎて、怖くて泣いているのだと思う。
「あなたと一緒になりたいです。あなたと一緒なら、どこへでも行きたいです」
「いや、駆け落ちしてドウゾ!なんて俺が言うと思ったか?」
エランさんと本当にそっくりな顔の彼は、表情豊かで、なんだか雰囲気も全く違った。
エランに連れられた部屋に、だらしのない格好をして寝そべる''ホンモノ''のエランがいた。今日は影武者にお仕事を任せている休日だそうなので。
よっこらせ、と声を出して頭をガシガシとかきながら敷布から上体を起こす彼と、隣に無表情で座るエランとをつい見比べてしまう。
なんというか、根本的に何かが違う。当たり前だけれど、本当に別人なのだなあ、と感心していた。
「相談に来ただけ感謝してほしい」
「なんで俺が脅されてる側なの?まあたしかにお前のことだから、何も言わずにいきなりその姫と駆け落ちする可能性の方が高かったから良しとする……が!」
ぴょいん、と跳ねた髪の毛が、彼が顔を上げたと同時にみょいん、と動く。
「やっぱり駆け落ちはやめろ!俺の仕事を手伝え!」
「…………」
「だいたい姫を追放するって言ったってな。辰星との交流を切ることになんの。それは困る。小さい国だけど技術は素晴らしいし、揉め事は面倒だから起こしたくないし」
びしぃ、と指を私たちに向けてきた。
「姫はこっそり追放!公にはそのまま後宮にいることにする!辰星に送る書状は適当に書いといて交流は続ける!今までも姫を介することなくやってたし追放バレはしないだろ、多分。辰星の姫を気にしているヤツはここにはほぼいないから変に辰星にチクるヤツも居ないだろうし。そしてお前はそのまま宮廷務め!まー、その顔だからな……二人同時にこの際出て、異母兄弟が偶然見つかったのでお仕事手伝ってもらうことにしました〜とか言えばいいか。実際そうだし。今まで隠してたことを言うだけだな」
彼は一気にまくし立てると、ハア、と大きく息をついた。ぼそぼそと、さよなら引きこもり生活……と呟いている。とても口数の多い人だ。いや、エランが少ないのだろうか?分からない。
「えーっと、政務は俺とお前で分ける、のは変わらないでしょ……後宮関連は、ほぼ俺だけが管理するってことか……面倒だなぁ。女減らすか……?いや、でもなぁ……おっさん達が黙ってないだろうし……ハア。ねえ、やっぱこのままにしない?」
「嫌。彼女を外に連れ出すのが第一優先だ。外に行けない場合、駆け落ちする。エランの顔なんて知られていない遠くの地に行く」
「あ〜〜!わかったわかった。それだけは本当に勘弁。流石に二人で分担してたのを今すぐ全部俺、はキツすぎる。それ以外なら許す許す。全部何とかする」
「これから、毒を飲まされて記憶を飛ばさないようにね」
「え……?」
「………………お前、やっぱ良い性格してるよな」
彼が記憶が無い、と言っていたのはそういうことだったのか。記憶が飛ぶ、だなんて生死の境をさまようほどひどく毒で苦しんだのでは……とゾッとしていると、エランが立ち上がって私の手を取った。
「じゃあ」
「ハイハイ」
ホンモノさんがひらひらと手を振っている。ぺこりと頭を下げて、部屋を後にした。
あてがわれていた宮の池に浮かぶ東屋で、エランがぽつぽつと口を開く。
お昼に、明るい場所で彼と話すことは初対面を抜いて今まで無かったので、なんだか新鮮でソワソワしてしまう。今日はずっと心が浮き足立っていたが、これからはもっと彼と一緒にいられるのだ。広い世界で。そう思うと口がムズムズして、笑みを我慢するなんて出来なかった。
「本当に、いいんだね」
「もちろんです!むしろ、私に都合が良すぎて……」
「……君は、本当に僕を見ていてくれてたんだね」
「え……?」
「皇帝じゃなくても、自分が姫でなくなっても、僕と一緒にいたい、と……そう思ってくれた」
「もう!今更わかったんですか?」
「生活は……辰星にいた時より、大変になるかもしれないよ。食事も今ほど豪勢じゃなくなるどころか、自分たちで作らなくてはいけない。家事は……君の負担が大きくなるはずだ。侍女なんていない、二人だけの生活……」
またエランが神妙な顔つきになっているが、私は二人だけ、という言葉の甘い響きに頭を支配されていた。
エランにぐっと、身体を寄せると、ぎし、と座っている箇所の木が軋んだ。
「だ、旦那様……を、支えるのはお嫁さんのつとめ、です!反対でもいいです!えええ、エランさんと結婚……一緒になれる、なら、私が働きに出て、エランさんがおうちに待ってるのも、素敵だと、思うんです!」
ゆるり、目尻がほころんだ。
月明かりに照らされた笑みも綺麗だったけれど、明るい日の下で見る彼の笑顔も、何よりも特別だった。
「そうだね……素敵だね」
唇が触れる。そっと目を閉じれば、今度は深い口付けをされる。
何度も角度を変えて、舌を絡められて、呼吸をするのを忘れるほど夢中になった。
ふわふわとした心地のまま、抱き締めあって、お互いの体温を感じ合う。
幸せ過ぎて、なぜだか逃げ出したくなって、ペラペラと口をまわす。
「じ、侍女さんに、宮を出るって……い、言わないと……すごく、私を心配してくれてた人だから……私が追放されたなんて知ったら、気に病んじゃいます」
「そう。じゃあ、説明してあげて」
「は、はいっ。あと、お姉ちゃん、も心配させたままなの、つらくて。いつか、お母さんにバレないように、こっそり手紙を……送る手段、探さないと」
「うん」
「ああああ、あのっ、エランさんっ」
「ん?」
視線を太ももに落とす。
私の着物の裾に、エランが手を突っ込んでするすると太ももを撫でている。
「いや?」
「こ、ここ!外、ですし……!」
「誰も来ないよ。君の身体を痛めないように気をつけはするけど」
「ひぁっ、あ、明るい、し……」
「君との未来を考えるだけで、胸がいっぱいになって……今すぐ、君をどうにかしたい。ごめんね。部屋に行くのも億劫なんだ。我慢出来ない」
「え、エランさん……っ」
東屋から池に落ちそうになったのは秘密です。