lie? down

lie? down


「いや全ッッ然気持ちよくないからね!」

「こっちは痛いばっかだし、気遣って演技しなきゃいけないってのに…」

「なぁんも知らないで男側は勝手に腰振って気持ちよくなってんだよ?…子供つくるって理由がないならヤりたくもないよ」


「うわぁ…そうなんだ」と、ウタは上記の言葉を聞く度に頬を引き攣らせた。基本的素直で疑うより先に信じる事から始めるウタだが、成長すれば一応自分でも多少調べてから判断するくらいはしている。

だがあまりにも「気持ちよかった」という女性の声を聞かない。周りだけか?と思って一応、ネットでも調べる。するとまぁサジェストに容赦なく並ぶ「演技」「痛い」「怖い」「リスク」と言った行為に関する否定的な言葉の数々……じゃあもうせめてなんとか相手が気持ち良くなれる様な方法とか…と、恥を忍んで男の人が見る様な…そういう映像なんかも見てみた。クッションで時折顔を隠しつつチラ見してはうひゃーとかきゃーとか言いながらだ。

でも…


「これ、結局は演技だしなあ…」


つまるところ、参考には出来ない。ルフィに隠れて何をしたんだと頭を抱えて終わっただけだった。

しかし、そんな風に忌避しても、結婚して幾分か経つ、子供やらなんなら、そういう事を考えて、やらねばならない。覚悟を決めるか…まぁルフィならば酷い事はしないだろう。「嫌だ」と自分が拒否した事ならば止めてくれるだろう。


信頼がカンストしている幼馴染…今は夫の彼を信じる。女は度胸と愛嬌が武器だと、よーく知っているウタはそうしてルフィを初夜に誘った。

ウタは先に身を清めて、今シャワーを浴びているルフィをベッドで待っていようとした。だが「え、これ…もしかして裸で待つものなの?」と悩み始める。


「…むり」


抱かれる覚悟はあってもそこに至るまでは割とまだ恥ずかしいし不安だった。結局、普通に下着をつけて───念の為、可愛いヤツにして───脱ぎやすいオーバーサイズのシャツを上から羽織る事にした。

…ん?おや?


「もしかして、わざわざ脱ぎやすいのを着た方が恥ずかしかったり?」

「何がだ?」

「あぁぁあああ!!?」

「!?!!?」

「はいっ、は、背後にいるなら言って!!?あ、違う!!背後に立たれてたら遅い!シャワー出たなら言って!!!!」

「ご、ごめん…」


余裕がなかった為に急に現れた様に話しかけてきたルフィに思いっきり叫んで文句を言うウタ。これからする事を想像するよりも先に心臓がバクバクと鳴り始めた。ホラーは苦手なのだ。だがルフィが素直に謝る為にウタの方もクールダウンは早かった。


「い、いやこっちこそ大声でごめん。えっと…も、もう大丈夫?」

「お、う…お待たせ……えと、するか?」

「そ、だね……ベッド、いこっか」


冷静になった結果、とうとうその時が始まろうとしていた。なんだか不思議だ。はしゃいだり、バカな事したり、喧嘩なんかもした相手だが、こういうギクシャクした空気はなかった気がする。


「え、と、とりあえず…こういう時ってキスするんだよね?」

「まあ、するな…その、舌を入れたり」

「舌、舌かあ………よし!覚悟した!ばっちこい!!」

「お、おう!じゃ、じゃあ……」


んむ、と口が塞がって咄嗟に色気のない声が漏れたが、とりあえずそのまま数回、お互いを確認する様に普通のキスを繰り返してみる。

とはいえ、唇をくっつけて離しているという感覚がまだ強くて、なんだかムズムズする…というのがウタの素直な感想だった。


「(そう、いえば私達って、ファーストキスが結婚式の誓いのキスだし…それからしたっけ?)」


そうして思い返すが、ないかもしれない。だって恋ではなく、絆というか…ずっと一緒にいたいな。いるか。という軽めのノリで一瞬になったんだから。

まさかファーストが誓いのキスで、セカンドが初夜とは…なんだか逆に自分達らしいとも思うウタだったが途端、自分の肩にあった筈のルフィの腕が背中に周り、思わず思考が行為の方に戻る。


「え、ちょ…んんっ」


急にどうしたの?と聞く間もなくまた口を塞がれる。背中に回された腕に、ぎゅうぎゅうとルフィの身体の方へと引き寄せられて逃げられない。こんなに力が強かったかと驚くと共に、ズボンだけ履いて上半身は裸だったルフィの胸板や鎖骨等の感触が薄いシャツ越しに火傷するのではという熱さで伝わる。そして、ちょん、と舌先で唇をつつかれてウタは肩が跳ねた。


「ふ、ぅ…ぁ」


誘ったのは、自分だ。意を決して薄く口を開くととうとうルフィの舌が入ってくる。

…だが及び腰というか、入れたはいいが、どう舌でやればいいのか分からないと言いたげな動きだった。実際自分も分からない…が、そういえば【参考資料】はあったな…と、ウタはルフィの舌を一度押し返し、歯の羅列をなぞったり、上顎や、舌の裏を刺激したり、少し吸ってみたりと見て覚えた事を色々試してみせた。すると背中に回っていた手がポンポンと叩いてくるので口を離した。

何故か、少し寂しく思った。


「る…ルフィ?」

「わ、悪い、ケホっ…ちょっと、息が…」

「あ、あー…ごめんっ」


息、で思いつくのは…ウタの肺活量。歌に踊りにと「息」というか「呼吸」というかその手に関しては割と自信があった。

だがまさかこうなるとは…とウタはしょんぼりしながらルフィの背中を摩る。


「大丈夫?ごめんね?」

「平気だ、とりあえず今ウタに教えてもらったから…次はちゃんとおれがする」

「あ、う、うん。…お、お願いします?」

「おう!」


別にどっちが、なんて気にしないのだが、なんだか健気なルフィに思わず頬が緩む。そして…


「…?」


一瞬、心臓の奥が熱くなる様な、締めつけられる様な不思議な感覚がしたが…それを気にするより先にルフィがまたキスをし、舌を入れ始めたのでそそくさと思考の隅にいってしまった。出来れば余裕が欲しい今別の考え事には戻ってきて欲しかったが、一生懸命なルフィに失礼かと反省して向き合っていた。


「ふ、ん…あ」

「う…はぁ…ちゅ…ッ」


時間をかけ、時折ルフィの呼吸の為に少し離れてはくっつく事をしているからか隙間から混ざった唾液が溢れる。それ以外だと恐らくルフィより背が低い為か、自分の方に多く流れてくるソレを窒息しない為に、コク…と飲み下すウタ。

不思議と嫌ではないがこの感覚をどう説明すればいいかは分からない。

ただ、嫌ではない。この気持ちは大事だろうと、ウタもまた、少しずつ慣れて色々試してくるルフィに負けじと応戦してみる。そんな時、プツプツと何か音がして下に視線を向けるとルフィの指が、ウタのシャツのボタンを外していっていた。

ああ、そろそろ本格的にそうなるのだなと何処か他人事に思いながらも、少しだけ背筋にピリピリしたものが走る。シャツのボタンが全て外れるとルフィは、シャツの内側に手を滑り込ませて背中へと回す。熱い手が肌に掠って小さく体が跳ねる。

…少しして


「う、ん?…はっ…うぅ?」

「?」


何やらルフィが背中…の、ブラジャーのところに手を回して色々と指を動かしているが上手くいかないと言いたげな顔と声をだす…もしや、とウタはルフィの肩に手を置いて一度離れた。最初より長くしていた為に二人の間に数瞬銀の橋がかかっていたがそれも気にせずウタは話した。


「もしかしてルフィ、ブラ外せない?」

「う…」

「…あ、いや……そっか。普通は背中に留め具があるイメージかな?普段の洗濯物見てれば…これは前に留め具があるんだよ」

「え!?そうなのか!?」


やっぱり自分達は中々雰囲気を保てないなとクスクス笑うウタに、笑わないでくれと頬を掻いてそっぽを向いたルフィだが、すぐにウタのブラジャーに目を向ける。


「でもここ、リボンしかねえぞ」

「うん、だから解いて?」

「……え!?」

「こっちの方が簡単だと思って選んだんだけどなあ…フフ」


金具の留め具なんてもんじゃない、リボンなんてすぐ解ける。なのにそれだけで今ウタの胸は隠れているのかと、ルフィは思わず顔を赤くした。


「ほら、どうぞ?」

「っ…」

「うわ…!」


何かが切れたか、ルフィはウタの身体をベッドに押し倒す。左右に彼女の綺麗な紅白が広がった。右手にルフィの左手が重なってギュと握り込まれる。指が絡まってるところから、掌、全部が熱い。そんな手に顔を向けてから、視線だけルフィに戻したらまあ見たこともない必死な顔をしていた。


「もう絶対カッコ悪いところ見せねえからな。覚悟しろよ」

「あら……」


そう言う言い方が既に可愛いと思うのはやっぱりどこかウタがルフィに幼馴染の枠の中で弟の様に思ってた部分がどこかにあるからだろう。バカにするつもりはない。

ルフィなりには興奮してもらえた様で、ウタはホッとしてさえいるのだ。顔も向き直して、笑いかける。


「ん、じゃあ、ルフィの好きにしてみて」

「ッ!!ほんと、お前は…!」


ルフィとは反対にウタは冷静だったし、どこか冷えていた。決して部屋の室温のせいではないだろう。

ああ、これから色々演技とか頑張んなきゃなんだよな…とか、隠し事なんて殆どなかった夫に対してせねばならない事が少し嫌だというだけだ。だがルフィならば、自分を想った行動をとってくれる信頼がある。最悪な事にはならないだろうと、繋いだ手の親指で、ルフィの手の甲を撫でた。


───その後

「んぁッ!?まっ…!るひっ、あんっ!」

「ごめっ、おれも…くっ、余裕がねえ…!」

「ひょ、んな…アッ!やら、やらっ、変なのくぅ、くるぅッ…!!」


演技なんてものサッサと粉砕された。なんだこれは話と違う。想定と違う。ルフィが触るところが全部溶けるほど熱いし、痛いどころか声がふやける程気持ちいい。気遣いなんて多分両方したいけど出来てない部分だらけなほど止められない。

というかルフィが余裕が無い為にさっきからヤダヤダと首を振るのにやめてくれない意地悪をする為に逆に気持ちいいのを止めてもらえないが正しい。ルフィこんなところあるの!?なんて驚いたけど、不思議とこの感じは嫌ではない…気がする。

怖い程気持ちいいから、やっぱり口からは嫌だと否定が出てしまうけど…


というかなんで皆嘘を言うんだ。お陰で今自分は大変な事になってるのに…多分本当の事を聞いても同じだったかもだけど、絶対混乱はしなかった。変な声が出たりするのだってちゃんとおさえられた筈…きっと


「(ああ、もう…ひどい嘘つかれた)」


「はあぁっ…あっ、るふぃ、またっ」

「ああっ、お、れも…ッ」


これ絶対ハマっちゃうやつじゃん、とルフィと共に果てて遠のく意識でウタは思った


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「お前らウソつきやがったな…」

「ええ…なんの話だよ」


机に肘をついて明らかに「不機嫌です」とでも言いたげな顔でルフィは周りの友人達に文句を垂れた。


「いや、この前の……やっぱ良い…許さんけど、いい」

「なんだよ!?何が許されねえんだよおれら!!」

「怖いだろうが!!」


ごちゃごちゃ騒ぐ友人達を横目に、ルフィは初夜の事を思い出す。面倒見のいい幼馴染と思っていた嫁ととうとう迎えたあの夜までルフィは周りにそりゃもう色々言われていたのだ。


「女って割と反応悪い」

「すぐ痛がるし、こっちも怖い」

「演技だなと分かった時こころが折れる」


あの優しいウタが、冷めた目で自分を見る想像をしたり、自分のやり方で痛くなって泣いたり…自分だけが気持ちよかったりした想像をしてはルフィは不安を募らせた。

しかしどうだ?あの日の彼女と来たら、待機していた服から始まり、キスの方法を教えてきたり、下着のリボンにルフィの手を導いてみせたり…その後も……最後まで死ぬほど可愛かったし…恐らく、演技では、ないと思う。

というか両方気遣いやら演技やらの余裕なんてすぐ吹き飛んだ。なんなら普段、きっと自分でも気付かなかった理性の枷まで彼方へ吹き飛んだと思う。

お陰で最近はウタのする動き一つ一つがエ…可愛い。そう、可愛い。


「あ〜〜〜…」


これはもう我慢出来る気がしない。とルフィは頭を抱えた。

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