let it be dyed in your color
⚠ノレアの絵の風景の場所捏造
ピンポンパンポーン。
最終下校時刻30分前です。最終下校時刻になると門が速やかに閉まります。生徒の皆さんは余裕を持って下校をしますようにしてください。
ピンポンパンポーン。
最終下校時刻のすぐ前を知らせる放送が校舎中に、もちろん僕がいた屋上にも響き渡り、中庭の木陰でスマホをイジりながら談笑していた女子グループは荷物をまとめていて、グラウンドで走り込みをしていた陸上部も、いつの間にか練習を切り上げていて、屋上から見える景色は、あっという間に何とも寂しくなっていた。
僕は「もうそんな時間か」と呟くと、塔屋の近くに置いてあった鞄にスマホを入れ、鞄を肩にかけ、ドアの方をじっと見つめた。
暫くすると、ドアはギィと軋んだ音を立てながら開き、奥からは男子二人の声が聞こえた。
「5号、今日も俺は律儀に来てやったぜ?感謝しろよ」
「毎度のことながら、そんな態度だから性格が悪いって言われるんでしょ」
「ああ、まぁ、別に俺はそれでもいいからな。性格が悪かろうと有能であれば出世できるなんて、前世でとっくのとうに思い知ってんだよ」
「なんかうるさい」
「はぁ!?」
二人は口論を繰り広げる。毎度のことだ。僕はいつもこの二人と、この時間に屋上で待ち合わせをしている。なぜか?理由は特にない。何となくだ。
そしてこの二人は、僕の三つ子の兄、4号とエラン様だ。この二人からは、僕は5号と呼ばれている。エラン様の名前はその通りエランなのだが、4号と僕は二人とも別の名前だ。けどその名前で呼び合うのは慣れなく、僕たちの間では僕を5号、4号を4号、エラン様をエラン様ということにしている。もちろん、他人の前では実の名前で呼びあう。
理由は──僕達は前世で、エラン様をオリジナルとして、エラン様の姿に整形され、エラン・ケレスを名乗った、強化人士4号と5号だからだ。
これが転生後、違う姿、それこそ元の顔だったならお互いの今の名前で呼べていただろう。僕と4号の今の名前は何故か、整形前の名前と同じだった。しかし、あいにく今の僕達の顔は、整形後のエラン様の姿だった(三つ子に生まれたのだからまぁ当然)。ということで、その顔で元の名前で呼び合っても煩わしいため、僕達はこのように呼び合っているわけである。
この転生はその名の通り、転生だ。僕達はそれぞれの場所で死に、同じ場所に生まれ変わったのだ。といってもアド・ステラより遥か前の、令和の日本だが。しかも周りには、僕達が前世でよく交流があった人間が転生、そいつに交流があった人間が転生─────と、芋づる式で転生しているようだ。地球寮のメンバーや僕達含めた御三家、その他大勢が転生している。
それはさておき、僕達は毎日のように最終下校時刻のギリギリまでここで話しており、今日もそれをしていた。正門向きの柵に手をかけ、他愛もない会話をする。
「でな、うっかり居眠りしてた時問題答えられますかって指されちまったわけよ。でもな、見た瞬間、瞬速で教師が拍手する回答を出しちまったんだよな、俺!」
「そういえば今度アイスの自販機出来るんだって」
「一緒に食べよ」
「いいよ!」
「無視すんな俺!!!!」
僕と4号はアハハ、と笑い合う。そしてふと、正門に立つ時計を見つめる。時計の針は最終下校時刻の7分前を指していた。
「やべっ、もう時間じゃん。そろそろ帰るよ」
「ん、そうだね」
「忘れ物とか無いか〜?」
「はーい」
僕達は足早に、帰ることとした。
ふと景色全体を見る。学校のすぐ周りには山がある。この学校は盆地の中にあるのだ。その先に薄っすらと湖が見える。
僕達はこの近くに住んでいるためあの湖には馴染みがあるのだが─────それとは別に僕はあの湖に複雑な、よくわからない感情をずっと抱いていた。
あの湖に、腐れ縁でもあるかのように。
「おーい、そろそろ行くぞー」
「あ────、うん」
エラン様に呼ばれる。考え込んでいたようだ。時間もそろそろ危ないし、早く行こう。僕は寝る時にまた考えようと、足を動かす。
なぜか、僕は振り返った。先にある湖から、足に重りを付けられているように、足取りは重かった─────
夜12時、就寝の時間だ。僕は個室の電気を消して、ベットに横たわり、目をつむり、考えを巡らせる。
あの湖には、不思議と───得体の知れない、懐かしさ、儚さ、虚しさ。その他の感情を記憶を思い出した幼少期からずっと、ずっとずっと、誰にも言わずに、持っていた。
今世では特にあの湖に関しての出来事が起こったわけではないはずだ。だからこの気持ちは………おそらく前世のものだろう。けど、前世の記憶はそれ以外は思い出せている。なんで、思い出せない?
……そういえば、今まで気にしていなかったけど────なんで?なんで、なんで、なんで?なんで──────────
思い出せない。
ランブルリングで対峙した相手を。自分があの部屋に監禁されていたとき部屋にいたニカ以外のもう1人を。部屋から出た時、僕は何を追ったのかを。なぜガンダムに乗ったのかを。なぜあの時パーメットスコアを上げたのかを。なぜあの時学園が壊れていたかを。最終決戦のあと何をしていたかを。
その思い出せないことの根に、何があったのかを。
それは人物なのか、事件なのか、天変地異なのかすら。
思い出せない。
僕は途端に、深い絶望感に苛まれる。
思い出せないのに、忘れちゃいけない気がした。
忘れる。このままじゃ忘れる。
絶対にいけない。本能がそう察知している。
何よりも忘れちゃいけないもの。何よりも大切なもの。
だめだ。だめだ。だめだ。わすれちゃだめだ。────
“彼女”を、忘れちゃ───────
「彼女?」
僕がそう呟いた時。僕は何故か、そこそこの深さの湖の中で溺れていた。しかし、息はできるし、水面の向こうの景色はよく見える。きっと夢なのだろう。水は、透き通って、寂しげな透明色だった。
そう思うと、水面の向こう側の崖に、誰かがいるのが見えた。多分2人組だ。
「ねぇねぇ見てよ、凄い綺麗!!ついでに来ただけど、あたり!」
「はいはい………急ぎすぎなんだってば」
会話は不思議とちゃんと聞こえる。活発な少女と、物静かな少女のようだ。
そして、僕はそのうちの片方に、聞き覚えがあった──────ソフィ。フォルドの夜明けの一員だ。じゃあ、隣にいるのは───同じくフォルドの夜明けの少女?
その物静かな少女はソフィの言葉を軽くあしらい、かがみ込む。顔はギリギリ見えないラインだ。
「うん、綺麗───色んな色が混ざり合ってるみたいで」
彼女は優しい声色で呟く。
「書いてみようかな」
その時、彼女の顔が見える。
ああ。
全て思い出した。
彼女は彼女だったのか。
ノレア。
まるで透明な水みたいに何の色もなかった今の記憶は、彼女が結びつく記憶で一気に、絵の具を入れたみたいに色づいた。
それと同時に、湖の水は黒い絵の具を入れたみたいに黒が広がっていく。
僕は必死に手を伸ばすけど、届かない。
完全に闇に包まれてから僕はため息をつき、口角を上げる。
「ったく、名前くらい、自分から言えよな」
「ということが今日の朝までにあったことなんだけど」
「なげーよ!!!そしてサラッとすげぇ壮大な物語だな!!!?」
「感動した。凄い感動した」
「うわ4号相変わらず無表情じゃんすごすぎ」
「いや眉毛が1度下がってるよ」
「分かるわけないだろ!!」
「まぁまぁ」
「はぁ…………ところで話は変わるけどよ、そのノレアってやつ、見つけにーとかいかないのか?ほら、理由は知らねぇけど転生したやつはここ周辺の学校に絶対いるじゃん」
「んー、まぁ山々ではあるからね、のんびり探していこうと思うよ」
「その風景よりはすんなり見つかるんじゃない?」
「あ、確かに!」
キィ…ガチャ!
「ん、来客か?」
「…………ねぇねぇ見てよ、凄い綺麗!!この前ついでで来たんだけど、めちゃくちゃ感動したの!」
「はいはい………急ぎすぎだって………あ、ソフィほら、先客。すいません、騒いで─────────えっ」
「─────っ」
「いや、別に大丈夫だよ」
「そうですかー?ありがとうございますー!………って、ノレア?」
「おいお前、どうした、急に固まって」
「───────っ!!」
「うわっ!?」
「おま、急になんでこの子に抱きついて───あ、まさか」
「もしかしてノレア、この前言ってた男ってこいつ?」
「…………え、えと、あの、その、うん、ち、ちょっと待って」
「…………あなた、こんなとこにいたんですか?同じく学校なんて、拍子抜けしました」
「……………こっちのセリフだ。会いたかったよ─────────────────
ノレア」