interlude
いまが食べごろのおみかん、八朔や金柑でもいいかもしれないわ。この時間帯の電車内は、窓から夕陽が差し込んで、まるでオレンジピールみたいな色であふれている。
日々のおしごとを終えたひとたちの帰宅時間よりはすこし早くて、学生さんたちがお家に帰るよりほんのすこし遅いからなのかしら、車内はゆったり空いていてね。
あたしたちを含め、ぽつぽつと思い思いの席に座るお客さんは、車窓から見える夕映えに目を細めながら、それぞれ金色をまとっているの。
「むにゃ……」
電車の走行音を縫って右耳のすぐ近くで聞こえてくるのは、ジョーダンちゃんのかわいらしいねごと。
あたしたちウマ娘はみんなそれぞれ体力に自信はあるけれど、レース以外──たとえば、授業の一環で訪れることになったボランティアだとかだと、またちょっと違ってくるんじゃよね。
キラキラで可愛いお姉ちゃんとして、子どもたちとたくさん遊んでいたジョーダンちゃんも、ちょっぴりつかれてしまったみたい。すうすう、すやすや、やさしい寝息が、あたしの右耳をくすぐるの。
左隣には、おなじくおねむのナカヤマちゃん。
おしゃまな女の子たちと遊んでいたジョーダンちゃんと違って、ナカヤマちゃんはやんちゃな男の子たちと遊んでいる方が多くてねぇ。
お家に幼い弟さんがいるからかしら、かけっこ、ケイドロ、鬼ごっこ。幼稚園の小さな園庭を(いかにもしかたがない、みたいな顔をしながら)駆け回っていたんだもの。
両腕を組んでうつむいて、あたしにもたれかからないようにとばかりにしてたけど、とうとうそうもいかなくなったみたい。ほんのすこしあたしに体重をあずけてくれたのは、あきらめかしら、無意識かしら。
「……楽しかったねぇ」
左右の肩口にあたたかさと重みを感じながら、あたしはそうっと、かばんの中に入れていたシールを取り出すの。ピンクいろのシールに、ハートをかたどったポーズをした三人が、それぞれの表情で笑ってる。ジョーダンちゃんはにこにこ、ナカヤマちゃんはほんのりと、あたしは、自分で思っていたよりもずっと、ずうっと子どもみたいな顔をして。
停車駅をつげるアナウンスのすこしあと、電車はスピードをゆるめ、いくつもの駅にすべりこむ。
目的地にたどりつくひと。目的地へ向かうひと。たくさんのひとを乗せて、たくさんのひとを見送って、夕暮れ色をした電車はレールを走るのよ。
そんなたくさんの、行き先のちがうひとたちの中で、あたしたちの帰り道のその先は、おんなじ場所。
帰り道もその先も、あたりまえのはずなのに。
「なんだかふしぎねぇ」
ときどきふっと思うのよ。
とおいとおいむかしむかし、生まれる前のことかしら。それともべつの世界のことなのかもしれないけれど。
あたしたちはね、おなじ時代に生まれて、砂に、芝に、国内に、海外に、それぞれの道を、それぞれの速さで、それぞれに輝きながら、走っていたような気がするの。
それは、交わりそうで交わらない旅路。
ターフでも、ダートでも、つよく交わることはなく、あたしたちは生きていた。……ううん、生きている、が、正解なのかもしれないわ。
けど、あたしたちは、ここにいる。
あたしたちは出会って、おなじ時間をすごしてる。
ねえ、それは、奇跡のようなことじゃない?
ジョーダンちゃんは『そーゆーのちょっとハズくね?』って照れちゃうかしら。ナカヤマちゃんはいつものように肩をすくめてみせるかも。
でもね、あたしには。
それがとってもうれしくて、なんだかとってもくすぐったい。
とっても愛おしいことのように、思えてしようがないんじゃよ。
https://twitter.com/nukarinashi201/status/1612725498978893824