if:犬化√
グンッと思ったより強い力…否、まるで体重を全てかけた様な勢いでウタがルフィにのしかかる。
「うわッ!?」
べちゃりと2人で床に落ちる。ルフィはウタの下敷きになっていた。折角ベッドの上に移動したのにこれでは意味がない。
「ウタ!危ねえぞ……?」
「……」
自分の上にまたがる様に座るウタの表情は下を向いていて見えない。それが、もう一度ルフィが声をかけることでゆっくりと顔を上げる…そして
「…ワンッ」
「は?」
「わんっ!くぅん、きゅー…」
うっそりと笑ったかと思えば、そのまま急に犬の鳴き声の様な声をあげ、ルフィにじゃれつき始めた。鼻先を擦り付けたり、ルフィの肩に頭をグリグリと押し付けてきたり…
先程までルフィに近寄るな触るなと接触を避けていた彼女だとは思えない態度にルフィはひどく混乱する。
「ウ、ウタ?急になんだ?」
「へっ、へっ…わふっ」
遂にはルフィの顔を甘噛みし始めたのでルフィは驚愕する。
「?!ま、待て!ふざけるのはいい加減に…!」
そうして彼女の肩を押してもう一度顔を見た時、絶句した。
その桔梗色の瞳に光はなく、昏い熱を持っていた。絶対に、ふざけてなどいない。
「ウタ…?おい、おれが分かるか?」
「?」
真剣な顔をしているルフィの言葉にカクリッと首を傾けるウタ…彼の言葉を理解してる様には到底見えなかった。
「おいしっかりしろ!!」
「キャウッ…クゥ…」
「ッ!」
ゾッとしたルフィはウタの肩をもう一度掴み、しっかりとその目を見て話す、が…まるで叱られた。とでも言いたげに怯えた様な様子を見せてしまう。瞳に光は戻らないままだ。
壊れている。狂ってしまっている。
「…ごめんな、ウタ」
「?…キュウン?」
大きな声を出して、お前に任せきりにして、聞かないでくれという頼みを聞かないで…
恐らく今の彼女に届かない為にただ一言、ごめんと謝罪するしかない。
既に壊れてる彼女にこれ以上の負担を強いたいわけではなかったが、これ以上はルフィ自身も壊れそうで彼女を抱きしめる。
「ここ出て、チョッパーに診てもらえば…ッきっと大丈夫だから゛…!ぜってェ、元気にな゛っから゛ッ!」
「…クゥン」
ポロポロと泣いているルフィ。そんな彼を抱きしめられながら見るウタは彼の頬を伝う涙を、まるでキスでもする様に、元気出してとでも言うように、ペロと舐めた。
例え、この泣いている男の子が誰なのかさえ、今は忘れていても。
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(犬化√後、エンディング)↓
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あの不思議な部屋から生還したウタは、チョッパーの健診とカウンセリングを受けながらずっと疑問であった。
そういえば途中記憶がないのだ。ルフィに聞いても自分は壁を見ていたからと知らないフリをされている。多分知っているのだろうが、彼が話したくないなら話さなくて良い。
だが気になるのは事実で……どうしたものかと頭を悩ませていると
「ウタ、今日の検診は終わりだ、おつかれさま!」
「ありがとう、チョッパー」
「ただ、あと一個だけ付き合ってくれないか?すぐに終わるから」
別に急いでもいないからコクリと頷いた。するとタイミングでもはかった様にルフィが医務室に入る。
「よ、ウタ」
「ルフィ?私に用事?」
「おう…ちょっとごめんな」
そう一言謝られたと思えば急に抱きしめられて思わずトレードマークの髪が動いた。
「えっ、ちょっと、急にどうし…「おすわり」……ワン」
一瞬だったルフィからその言葉を聞いた瞬間、瞳から光が消え失せ、ダラリと腕が下がり、そのまま床に座ろうとするウタを、慌ててチョッパーが止める。
「まってくれ!ちゃんと椅子に座らないと…って椅子もまだ分からなそうか…?」
「…うん、みてえだ」
深刻な顔になる2人の視線の先には、床に手をつき、ぼんやりとした瞳で、舌を出しながら、まるで主人公の次の指示を待つかの様にしているウタだ。
あれ以来、どうもルフィに抱きしめられながら犬を連想させる様なワードをルフィから聞く度にスイッチが切り替わる様にこの状態になってしまう。
何度か矯正しようとしたがまだ、進展は少ないと言っていい。
不幸中の幸いは、条件が割と難しい為に日常生活では殆ど事故でも起きないということ。
だが、仲間の心に、ウタの心に、この様な傷がある事が苦しいのだ。
「ごめんな、ちゃんと、ちゃんと治すからよ…おれも最後まで、手伝うから」
そうして苦い笑顔を浮かべるルフィは泣いてなどいないというのに、ウタはまた、彼の頬をキスでもする様に、ペロと舐めた。