if:ラストダイス3√.II

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ウタの能力により生み出されるウタワールド。そこではウタが絶対であり、最強。

現実世界のウタが眠るまでの時間制限付きではあるが故に無法にも近いその世界で、ウタは困っていた。


「早く離しなさいよ!?」

「絶対いやだ!!というか、寝てるから出来ねえ!!」

「あ〜〜〜!!も〜〜〜〜!!!」


苛つきで踵をトントンと乱暴に鳴らす。

現在二人はウタワールドで言い争いをしている最中だった。理由は簡単である。ルフィがウタを離さないのだ。

ウタワールドではなく、現実で。

ウタが能力を発動し、眠るまでのほんの僅かな時間、ルフィは腕を伸ばしてウタを拘束した。ご丁寧に口も塞いで。

お陰で現実では寝ているルフィにぐるぐる巻きにされたウタがむーむーと暴れているのだが、防音の効いた部屋では誰も気付かないだろう。

結果として現実で距離を取れないが為にウタはルフィに離せと言っているがルフィは頑なに嫌だと拒否する。そして彼の言う通り、寝ている彼を動かす方法はウタが寝ているルフィに能力で命令する事だがその口を塞がれてはダメだった。


つまるところ、詰んでいる。

何故こうも自分の計画を壊す事に一級品の才を発揮するのだろうかと頭がいたいが…悪いのは自分である自覚もあるためそこは怒る気はない。


だがこのままではダメだとウタはウタワールド内でだけでもルフィから離れようとするがそっちでもルフィが引っ付いてくるのだから本気で困っていた。


「こっちまでくっつく事ないでしょ!離して!!」

「じゃあおれをぶっ飛ばしてみろ!!」

「っ、それが、出来たら…!」


ネズキノコで暴走している時とは違う。本来、ウタは乱暴な事は余程でない限りしたくない。それがルフィなら、大事な幼馴染なら…なおさら……


「ぅ、ッ……ねぇやめて、お願い」

「いやだ…だいたい今船は海のど真ん中だぞ。離してどうなる」

「お願いルフィ、ねぇ、いい子だから…」

「海賊がいい子なわけねえだろ。というかウタ、おれは子供じゃねえ」


子供扱いするなと言うルフィに、ウタは時折言葉が詰まる。でも離してもらわないとどうにもならない。


「ジュースで喜ぶくせに…じゃあ子供じゃない海賊に効くけど、どうするのよ逆に」

「……」

「私は確実にアンタの冒険の邪魔になる。絶対窮屈な思いをさせる…分かるんだよ、私だから」


無理矢理つくられて刻まれた恋心のせいで敵につけ込まれる可能性も、ルフィや仲間達の宝物の様な関係に泥を塗るのも…ウタは嫌だった。


「こっちだから今私こんな冷静なんだよ?現実世界の私今どうなってるか教えてあげようか?ねえ?」


現実世界でルフィが逃がさないようにと腕で巻きつかれたという事は全身がルフィに触れていると言ってよかった。

結果として現実のウタはどんどん熱がこもり始めていた。控えめ言っても最悪の気分だった。

幼馴染の近くで、幼馴染が自分を思って引き止めているのに、それで気持ちよくなってらのだから嫌悪感しかなかった。

離れたいのに、離してくれない。


「気持ち悪いでしょ?最悪でしょ?ねえ、こんなヤツ船から降ろしなよ?」

「やだね。おれはお前に近くで見せてやるんだ。おれが作る新時代を」

「私の気持ちは無視なわけ?」

「おれは海賊の船長だ。船に乗ってないお前なら支配とかはぜってえしないけど、おれの船に乗せた以上はおれの仲間だ。離すもんか」


めちゃくちゃだと、言いたくなるが…ルフィらしいと思って笑いそうになる。でも状況は全然笑えない。変わらない。だから堪える様に怒りの表情を作る。


「その仲間が、アンタにそういう感情向けてんだって言ってんでしょ!?」

「っ、お前なら別にいい!!」

「は…?何い…!?」


その言葉が理解出来ずにいて力が抜けてバランスを崩す。さっきと逆に、ルフィに押し倒される様な状態にウタは陥ってなお、混乱したままだった。


「何言ってんの?」

「お前がどんな気持ちでいたっていい!!離れられる方がおれは耐えられねえ!!」

「…そんな事言えるのも今のうちじゃない?いつか私からそんな目で見られる事に耐えきれなくなるよ」

「お前の事ならおれは全部受け止める!!おれは!おれ゛は゛…っ!!」


ウタの頬が濡れる。上から落ちてくるルフィの涙で。次第にその涙に自分のに涙も混ざってくる。


「泣かないでよ゛ぉ…!私だっで、嫌なのに゛ぃ…ッ」


大事、大切。キラキラした宝物の様な思い出ばかり彼からは貰ってきた。

それを汚すのは耐えられないの。

どこまでも、あなたを愛しているけれどそれは恋を経ることなく完成したものだから後から付け足せば歪になってしまうから。


「お願い゛…離してッ…!!」

「ぜっだい゛、いや゛だ!!」


どうしてこうなった?あの部屋で離したくないと縋り縋られた手が今はこんなにも苦しくて仕方ない。

並行線の会話に、無理矢理涙を拭いてルフィは口を開く。


「おれはお前の気持ちが、汚ねえなんて思えねえよッ」

「…無理矢理つくられた偽物の気持ちなんだよ?」

「でもお前の気持ちだろ…!?」

「こっちの私には無いんだよ…」

「っ、なら、有れば良いんだな…?」


そう言ってくるルフィの目は何か決意した様で、その何かがなんとなく分かってウタは慌てる。こちらがウタワールドなのだからどうとでも回避出来たのに、頭から抜け落ちる程に狼狽した。


「だ、めっルフィ…!!んっ、む…!」


そうして、ルフィはウタに自身の唇を重ねた。目を見開いて彼の体を押すがビクともしない。


「ふ、る、ひ…やめ…んんっ!?」


混乱する思考で、言葉で対処しようと口を開いたのも間違いだった。ぬる、と開いた隙間から無理矢理舌を押し込まれる。


「ぁ、まぁ…る、ふぃ…ひっ、ぅ」


歯列や舌の裏、上顎と、まるで一つ一つ確認する様な動きにゾワゾワする。あの部屋ではなかった誰かに与えられる感覚。

酸欠になりかけて、クラクラして、あんなにも縋りたくなかった彼以外に縋れなくてぎゅっと彼の背中の服を掴む。


「に、なぁ、れ…んぁ、っ!ふぅッ」


時折吸える酸素を吸っては、蹂躙される口でルフィを止める言葉を紡ごうとするウタだがルフィは止まらない。

しかし、流石にこれ以上は呼吸がもたなかった。バンバンと背を叩いて必死に伝えると漸く離れてくれた。ルフィの方も上手く呼吸出来てなかった様でお互い、呼吸を整えてる。先に整ったのはウタだった。


「なん、で…こんな…」

「お前が、こっちでも、おれを…好きになればいい」

「なに、言って…」

「おれは惑わされたりしねえけど、でもお前が、いなくなる位なら応える」


背中に回した手が先程から掴まれている手と共にルフィの左手一本でおさえられる。繋いだ様に絡む指にさえ、ゾクリと背筋を走る何かがあるのは、非常にマズイ状況に恐怖さえ感じるからか、現実のウタの感覚がリンクしている状態だからか。

はたまた、両方か。


「ま、って…だめ」

「わりィなウタ…本気で嫌なら、今すぐなんとかしろ。ここはお前の世界だろ」


そうだ、ここはウタの世界だ。

なんでも思い通りに出来る。この幼馴染を退かして、拘束して、ウタワールドが消えるまで耐える事も…でも、それをしたら


自分は、ルフィの前からいなくならなきゃなのか…


その理解をもう一度した瞬間、決壊した。また涙が流れてしまうウタ。なんでこうも上手くいかないのと癇癪を起こす子供の様な泣き方に近かった。


「…ッ、ずるいよォ…こんなの卑怯じゃんかァ…ッ!」

「シシ、なんだ?今回はウタの方が負け惜しみか?」

「う゛ぅ〜ッ、ルフィのバカ゛ァ…!!」

「バカでいいよ、お前がいねえ位なら世界で一番バカでいいぞ」


だからウタ、そう笑うルフィの顔にウタは「ああ、男の子だなあ」なんてどこか他人事の様に思う。


「悪いけど、そんなバカに惚れてくれ」

「…世界一、カッコ悪い告白だね」


いつか私がアンタにちゃんと惚れたらやり直してよね。

当たり前だ。


その後、能力が解除されるまで、解除した後も、二人がどうしたかはわからない。

だが次の日二人が同じ部屋から出てきた為に船員一同は目を見張るのは確定した話ではあった。

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