hawk like cat
大股を広げてソファに座り、今日の世界経済新聞に目を通す。
めずらしく誰もいないのかあたりはしんと静かで、クロコダイルの好ましい空気だ。
しばらくするとコツンと足音が聞こえて、人が近づく気配があった。
紙面から顔を上げずとも分かる。ミホークである。
今はこれといって用事もないので、活字に目を向けたまま、四皇、海軍、革命軍の最新情報を整理しながら、己の道筋に役立つものはどれかと組み立てて取捨選択していく。
――くまは革命軍に戻ったのか……。二年前の戦争での奴は、おれの知る奴ではなかった……。ベガパンクはどこまで……。なんにせよSSGが差し向けてくる"モノ"には十分に警戒を――
ぽすん。
膝に軽い衝撃を感じ、一瞬思考が止まる。
新聞を上げるとそこには。
「……なにしてやがる鷹の目」
ソファの空きスペースに体を横たえ、クロコダイルの膝を枕にして目を瞑るミホークがいた。
その顔の端には薄く泥がついていて、畑からの帰りらしい。
いわゆる膝枕状態に、クロコダイルは戸惑った。もちろん顔には出さないが。
平然と眠りに入ろうとするミホークをつま先まで観察すると、長い脚が入りきらずソファからはみ出ている。
「おい。何してると聞いてるんだが?」
右手の人差し指で形の良い額を突く。
するとミホークはパッと目を開けて、一言だけ呟いた。
「ひまつぶし」
そうしてまた鷹の目を隠してしまう。
「……」
あまりに泰然とした態度に、クロコダイルは閉口するしかなかった。
ここでミホークを叩き落とすことは容易いが、その後のいざこざは面倒であると予想がつくし、べつに嫌悪感を覚えるものでもない。
とりあえずは男の好きにさせてやることにする。
「顔に泥ついてるぞ。身だしなみくらい整えやがれ」
懐から皺のないハンカチを取り出して泥を拭ってやる。ミホークは何も言わない。
ふとクロコダイルの脳裏に、小さくてふわふわした気まぐれな生き物が浮かぶ。
鷹の目――の二つ名を持ちながら、マイペースでたまに不思議な行動をする男は、どこか猫らしくも見えるような……。
「……ばかばかしい」
膝の上の黒い毛を撫でてみる。上質とは言えないが、これといって悪くもない。
クロコダイルは動物が嫌いではない。