happy end〜逃げ続けた先に〜

happy end〜逃げ続けた先に〜


「良いですか。お2人の名前は今日からルーシーとウナです。間違っても人前で本名を言わないように。それとその伊達メガネと付け髭を忘れないように。お二人の見た目は世界中に知られているので素顔がバレたら大事になります。ウタさんはしっかりパーカーを着てて下さいね。フーシャ村の中ならコスプレで済みますが他の場所に行くならウタさんのその髪色は目立つので。それから…」

「なーコビー。もう良いだろー。おれ早く行きてェよ。」

「そうだよコビーくん。心配しすぎ。」

「僕はですね!お二人の平穏のために!」

 船の上で話し合う3人の影。1人は大戦で大きな戦果を上げたコビー。残りの2人は20年前に行方不明になった英雄ルフィと歌姫ウタ。つい2週間ほど前20年の時を超え帰還した2人はこの時代について学んだり、下準備などで拘束されつい先程解放されたばかりだった。長期間の拘束など嫌な2人だったが世界を変えるという大規模な事を押し付けてしまった後ろめたさから大人しくして、解放された後の事を話し合っていた。そして、解放されて2人が最初に望んだのは今や世界有数の観光名所となっているフーシャ村の観光だった。

「大体心配しすぎたんだよ。コビーは。おれもウタも子供じゃないってのに。」

「あー。ルーシー。今の私はウナだよ。気をつけないと怖ーい兵隊さんに連れてかれちゃうよ。」

「いいじゃねェか。今はコビーとウタしかいねェんだし。おれはウタが好きなんだよ。」

「じゃあ、今の私は嫌い?」

「そんな事いってねェだろ!?」

 人の気も知らないでイチャイチャしだす2人をみてコビーはため息をつく。元々、この2人を長期間縛っておくなんて不可能だったのだ。

「わかりました。この船は僕が護衛しておくので存分に楽しんで来てください。これお小遣いです。それだけ有れば大体の物は買えるでしょう。」

「ありがとう。じゃあ行ってくるね。」

「待ってろよ。コビー。土産買ってきてやるからな。」

 大きく手を振り2人を見送る。

「変わらないなぁ。あの人達は。」

 コビーは2人にこの平和な世界をとことん楽しんで欲しかった。


『新時代はこの未来だ〜♪』

 歌姫と英雄の聖地と言うだけあって出てる店もほとんどが英雄グッズ歌姫グッズでを取り扱っており、街中にはウタの歌がループで流れている。

「懐かしいなぁ。」

「ああ。けど変わっちまった所もある。」

「あっ!ねぇねぇ。ルーシー。あれ、見てよ。新時代のマーク!歌姫と英雄の愛のシンボルだってさ。」

「見ろよウナ!麦わら帽子にヘッドホン!なりきりグッズだってよ。」

 2人は自然と腕を組み変わってしまったフーシャ村を歩く。記憶にある寂れた村はなく所狭しと建物が並ぶ都市。あの頃のような風は感じないけれど何処かあの頃を思わせる道の作り。そしてあちこちにある英雄ショップ。歌姫ショップ。道を歩くウタとルフィのコスプレをした人達。変わってしまった寂しさとみんなが笑ってる世界への嬉しさが混じり2人の足取りは自然と早くなっていく。そんな心境で港から歩けば自然と行き着く先は決まってくる。

ーPARTYS BARー

 あの頃と少しも変わらない看板とあの頃と大きく変わった外装の前で2人は立ち止まる。他の店に比べて少し小さな酒場。フーシャ村と言えば、やっぱりここしかないだろう。

「いらっしゃいませ〜」

 変わってしまった内装と変わってしまった匂い。そして変わらない声が耳に届く。

「2人だ。」

「2名さまですね。席は」

「カウンター席でお願い。」

「わかりました。カウンター席ですね。」

 少し老けた定員に案内されカウンターに座る。まだお昼前だからかそれとも別の理由からか客足は少なかった。

「注文は何になさいますか?」

「そうだなぁ。ここのメシは大体うめェからなァ。」

「あら嬉しい。けど、今回が初めてのお客さんよね。どうして、」

「ちょっとルーシー。私と居るのに浮気?そんな人だとは思わなかったなぁ。」

「わりィわりィ。ちょっと懐かしくなってな。じゃあ、マ…定員さん。これとこれ。あとここからここまでくれ。」

 詮索しようとした定員の言葉を無理矢理途切れさせ、ウタとルフィは注文をする。旧知の仲であった為大変心苦しかったが今、2人の事を知られるわけにはいかないのだ。

「まぁ、いいでしょう。深く詮索はしないでおきます。」

「おう。そうしてくれると助かる。」

「おねぇさんはこの酒場を1人で?」

「あら。こちらからの詮索は避けるのにそちらからは詮索するのね?」

「いいじゃねェか。昔馴染みにでもあったと思って。おれ達、この街に来るのは初めてなんだ。村の頃なら知ってるんだけどよ。ニシシ。」

 酒場の女店主はカウンター席に座る若い2人組に懐かしい物を感じていた。確かに記憶には無い筈の若者だが2人はまるで慣れたように酒場の席に座っている。まるでそこに居るのが当たり前と言うように。こんな空気を纏うのは自分の知る限り数人しか居ない。そして、みんな死んでる筈だ。けれども、不思議と嫌な気はしなかった。

「そうね。今も昔も1人でやってるわ。」

「大変じゃありません?いくら店内が狭いとはいえ、この街は観光名所でしょ?客足も多いんじゃなくて?」

「大丈夫。たまに旦那や子供も手伝ってくれるから。」

 流れる空気は違えどまるで25年前までのあの日に戻ったような感覚を覚える。楽しく会話しながら、掃除機のように料理を吸い込んでいく2人組をみて、店主はその感覚を強く感じる。

「「ごちそうさまでした。」」

「ねぇ、ルーシー。ここまで良くしてもらったんだしちょっとぐらいお礼しても良いと思わない?」

「お礼?あーなるほど。ウナ!お前いい事考えるな。なぁ。店の一角を貸してくれないか。ウナが歌いたいらしいんだ。」

「歌?いいけどおススメはしないわよ。ここは歌姫の聖地。世界一の歌手の歌声がずっと流れてる街なんだから。」

「問題ねェよ。ウナの歌声は世界一だからな。」

「そこまで言うならもう止めないけど。」

 女店主は少し迷った後に了承する事にした。その方がいい物が見える気がしたから。2人組はまるで慣れた手つきで今居る客足の誘導とステージの作成を行う。わずか数秒。それで簡易的なステージが酒場に出来た。机と椅子を組み合わせた簡易ステージの上に男性が白い布をひき、女性の手を取る。まるで舞踏会に参加する姫とそれを支える王子を連想する2人の動きはとても洗練されていた。姫がステージに立ち、王子はその近くに騎士のように立つ。まるでそれは…

『この風〜は〜♪』

 もう居ない筈のルフィとウタの動きとそっくりだった。


「いやー。マキノが元気で良かった。」

「けど、悪い事しちゃったね。いくら理由があるとは言ってもちゃんと挨拶したかったなぁ。」

「仕方ねェだろ。コビーもサボもうるさいんだから。それに、おれ達の気持ちは伝わったさ。いい歌だった。」

 酒場を出てフラフラと観光する2人。特に目的もなく、あの頃良く通った道を通る。

「20年だもんね。」

 変わったフーシャ村はその月日を残酷に突きつけてくる。時代に取り残される感覚。これが逃げた罰なのだろうという罪の意識。けれども

「「2人なら耐えられる。」」

 呟きが重なりお互いに見合う。2人はそのまま体を密着させ、ゆっくりと口づけをし

「あーーーっ!忘れてた!ルフィ!コビー君へのお土産!」

「落ち着けウナ。おれはルーシーだ。」

「あっ…」

「今、ルフィって…」「コビー君って、あのコビー?」「ねぇ、今の声…ウタじゃない?」ヒソヒソ

 一気に注目が集まる。嫌な汗が出る。けれども、狙われてるのは慣れている。

「しっかり捕まってろよ。」

「ごめんね。ルーシー。」

「気にすんな。後でコビーにうんと怒られよう。」

 ルフィはウタを抱き寄せウタもそれに応じて身を寄せる。そして、極限まで気配を消す。並み居る襲撃者から逃げる為の必須スキルがこんな事で使えるのは果たしていい事か悪い事か。結局、混乱する道を誰にも気付かれる事無く、ルフィとウタは駆け抜けた。


「ねぇねぇ。あれとかいいんじゃない。あっ、ラブストーリーだって。この本買っていこうよ。」

「このキーホルダーウナに似合うんじゃねーか?緑色に光ってて綺麗だしよ。なぁ、この釣竿なんてコビーにいいんじゃないか。あいつ釣好きだしよ。」

 店を回り始めて17軒目にして空が赤らんでいく。お互いにもたれかかりながら歩く2人の腕には大量の買い物袋があった。

「流石に買いすぎちゃったかな。」

「色々買ったからなァ。」

 コビーから受け取ったお小遣いはまだ半分も減ってない。けれども長く感じる逃亡生活を営んで来た2人にとってはそれがどれ程の量か判別はつかない。寄り添い歩く2人はこのまま船に着き、問題を起こさなかったとコビーに感動される事になる。流石に心外だと2人は思った。


「ねぇ〜見て〜ルフィ。私たち海軍に入る前から付き合ってる事になってるよ〜」

「洞窟の中で2人っきりの静かな結婚式だってよ。ウタ。本当に色々あるなぁ。」

 その夜、2人は自室で買ってきた本を読んでいた。その殆どが歌姫と英雄のラブロマンス。いくつかは実際にあった事だがその殆どが脚色されている創作物。その終わり方さえ多種多様だった。

「ねぇルフィ。このセリフ言って。」

「おう。いいぞ。どれどれ『全部が終わったら、結婚しよう。』」

「する?結婚。」

「待ってくれよ!こう、そうゆうのは作られたセリフじゃ無くてよ、おれの言葉で言わせてくれよ。」

「ふふっ。わかった。待ってる。」

 お互いに本から言って貰いたい言葉を抜き出し言い合っていく。緩やかな平和な時間。

「本当に感謝しないとね。みんなには。辛い事いっぱい押し付けちゃった。」

「ああ。だからこそ、おれ達は平和を満喫しないとな。おれ達が幸せに生きてるのがサボ達へのせめてもの礼だ。」

 布団の中でくっつきながら2人は静かに話す。この平和な世界を楽しむ。幸せに過ごす。そして、出来るだけみんなを笑顔にする。押し付け、逃げてしまった分の精算はいつかする事になるだろう。それでも

「ねぇ。ルフィ。幸せになろうね。」

 今度は逃げずに戦えるだろう。自分達はそれだけ愛されているのだから。

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