film UTA:邂逅、おんがクイーン

film UTA:邂逅、おんがクイーン


どうしたものか…とウタは咄嗟に付けた仮面の位置を直しつつ、悩んでいた。


「ねえ、お姉さんだあれ?」


目の前の、まるで自分を意識した様なツートンカラーの髪の毛をした少女…ロミィに対して、どう答えるべきかを。


時は少し遡る。

見たことのない電伝虫を起動した事で、自身が玩具にされた因縁の地であるエレジアに意識のみが転移したらしいウタと、その相棒のムジカ、大元である魔王と共に島を探索をしていた。が、何やらこのエレジアはおかしい所だらけだった。

世界一の音楽の島として栄えていたはずのエレジアの街は荒れ果てており、人一人として見かけない。

放置された建物の中には草木が生い茂り、動物も我が物顔で歩いている程…人がいなくなり久しい様子だった。


『…これ、どういうことだと思う?』そう聞くウタに魔王は知らんとしか応えないしムジカも分からないと頭を捻らせる。

記憶通りならば音楽の絶えない、賑やかで美しい国だったのに、何があったというのか…そんな風にウタもまた考察をしながら歩く。ふと、足に何か当たった。


『ん?これ……』


その金属片の様な物を拾い上げようとした時だった。


バヂッ


『ゔっ、ま、た…?!』

「ムゥ!?」


此処に来る前に聞いた声。その瞬間に頭に走る痛みの様な、揺すられる様な感覚にウタは顔を歪める。船にいた時より、強い気がした。

そうして聞こえてくる声は、不思議なことに皆楽しそうだった。これからある事にワクワクが止まらないと言った気持ちが溢れる声…だがその内容はウタからすればわけが分からない事だった。


「ウタちゃんのライブ遂に来た〜!!」「いい席だといいな!」「ドキドキする」「グッズ買えた?」「え?そっちは食事付き?」「特別席だもんね〜!」

「グッズ買えて嬉しいけどやっぱり一番はウタに会える事だよ!」「この日をどれは楽しみにして来たか…」「ウタ様…」「ウタちゃん」「ウタ」「UTA」「ウタ」…


ウタ?ウタは私だよね?でもライブなんて知らない…グッズ?席?なんで様付け?会えるって何?そんなに皆が喜ぶ様な存在の人?それならば尚の事、私ではないはずなのに、如何してこうも自分が呼ばれている気がしてならない。


この世界に来る前に声を聞いた時の様に、まるで複数の腕に縋られ沈む様に意識が引っ張られる。


私はウタだよ?ウタ、は私。でも今呼ばれてる人は誰?分からない。分からない。

でも、何故か、ヨばれてイル気がしテ


「ムー!」ベシッ

『いたァ!?え、何!?』


唐突にムジカに叩かれて驚くウタだが、ムジカはそんなウタを見てまるで安心するかの様に抱きついた。

何も分からないウタだけが頭にハテナを浮かべている。


【おい】

『魔王?』

【何を引き摺られている…】

『…引き摺られて??』

【自覚無しか、だが、まぁ分かる。此処の空気が変わった…自分を強く持てよ】

『?…うん』


魔王の言葉はよく分からないが、ただ、確かに自分ではないウタが皆に必要とされている様な声だけは伝わって来ていた。

ただ、あれらは少し…ただの海賊でしかない自分には重過ぎる気がして、そもそも背負おうとは思えないなと苦笑しているとピクッとウタがまた反応し、ある方向へと顔を向ける。


『…ん?』

【おい、また何か聞こえたのか?】

『うん、あっち…ちょっと行ってみよう』


そうしてウタは走り出した。聞こえた声は今度は切羽詰まっている声と、下卑た声。多分面倒ごとだが…切羽詰まっている声の主が多分子供だと思い、放っておかなかったウタはそのまま足を動かすスピードを上げて、見つけたのはやたらとグヘヘ、ゲヘヘと笑ってる男共に追い詰められている少女。聞こえる範囲の言葉を拾えばヒューマンショップという単語が聞こえたのでアウトだなと思い至った。

だがお尋ね者の自分が出ても逆に自体を混乱させそうだと咄嗟に仮面を作って装着してから飛び出し、愛槍のヒポグリフをぶん回したり、武装色を使い蹴り上げて男達を沈めた。

やりきってから思い出したがそもそも此処は自分からしたらウタワールドの力を使えるのだからもっと暴れてもいいのだが…まあ、体力を温存したと思う事にした。


しかし問題はまだ残っていた。そこそこ屈強な男達を沈めたウタを何故かキラキラした目で見てくる少女…少女はハッとして頭を下げて来た。


「あ、ありがとうございます!危ないところを助けてくれて…」

『いいよいいよ!無事でなにより…あなた、この島の子?』

「ちがうよ?此処にはウタのライブを見に来たの!!お姉さんは違うの?」


ドクリ、と心臓が跳ねる。声を聞いて考えていない訳ではなかったが、お尋ね者の自分とは明らかに違う《ウタ》が存在している。今日此処で、エレジアでライブをしている経緯などは不明だが…少なくとも目の前の少女はそれを楽しみにして来たのだろうというのが見てとれる。


「お姉さんはウタのファンじゃないの?髪の色もウタと一緒だし…」

『ち、違うよー』

「?じゃあお姉さんはだあれ?ウタの妹さん?それとも…」


マズイマズイとウタは思考をグルグルさせる。たった今犯罪者な男達に襲われていたこの子に海賊というのはダメな気がする。でもぶっちゃけてしまえば自分は此処の《ウタ》とは限りなく近い存在の他人みたいなものだし…と下手な誤魔化しは出来ない…うまい、うまい嘘はないか…


『(…ん?嘘…そうだ!)』


そうしてウタは、少女へと向き直り、大きな声で名乗りを上げた。なんならしっかり決めポーズもした。


『私は!別世界から来た音楽を愛するヒーロー!!おんがクイーン!!こっちはマスコットのムジカ!!』

「ム、ムー!」

『このエレジアに起こるだろう危機、そして皆が音楽を愛する心によってこうして呼ばれたよ!!』


自身の仲間にして恩人の長い鼻の狙撃手をリスペクトした全力の嘘だった。正直恥ずかしくて死にそうだったが有難い事にムジカもノッてくれたので少し救われた。


こうして、UTAのファンだという少女…ロミィと共に、ウタ…おんがクイーンはライブ会場へと共に向かうのであった。

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