fall

fall


薄暗い寝室で目を覚ます。身体が怠い。

もう何日もまともに歩けていないのをぼんやりと思い出した。

ブレイブが正気になることはもう無い。

そう認識したとたん、俺もどこかが壊れてしまったようだ。恋人じゃないと言い返すのも億劫になって、もうずっと宿主の姿で相手のなすがまま。

今は半ば監禁状態だが抜け出す気力さえない。このままズルズルと俺は消えていってしまうんだろう。それを恐ろしいとすら感じられない自分はもう相当腑抜けてしまったようだ。

俺の自我が宿主の記憶に侵食され尽くすのもきっと近い。


「小姫ぃ……」


同じベッドに横たわるブレイブが囁きかけてくる。何度も聞いた耳障りな狂った男の声は思いの外優しく響く。澱んで暗い眼はいつもわたしだけを見ている。


「小姫ぃ…どこかにいくのか……」

「…ううん。べつに何処にもいかないよ、飛彩」


男の両腕に絡め取られ、また深いシーツの中へと引き摺り込まれる。今度浮かび上がれる時、俺は俺を保っているだろうか。最奥まで蝕まれてもなお、俺は残っているだろうか。


叶うはずはないけれど最期に名前を呼んで欲しい。わたしじゃない、俺の名前を。


俺の名前は……。


「小姫……百瀬小姫……きみはここにいる…。

確かに、おれの腕の中に……」


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