fairy bride
星移天下×北島名花わん
くっ
しょ
ん
・22牝馬2冠×22フェアリーs
・ウマミミシッポある
それでも言いという方は↓へ!
◆
ステイゴールドは寂れたホテルの受付で、カウンターに肘をつけ溜息をついた。それと同時にギギと音を立て、古びたドアが開かれる。そこに居たのは花の名前を模した名を持つかわいいかわいい孫娘と、その同期の牝馬二冠バだった。
「おじいちゃん、こんにちはー!」
明るく元気な声が響く。こんなホテルに似合わないような声。
ステイゴールドはそんな孫娘ことライラックと、こちらを懐疑そうに見つめる牝馬二冠バことスターズを見て、二度目の溜息をなんとか押し殺して向き合った。
ライラックはこのホテルのことをよく知らないようだが、スターズはここがどんなホテルかよく知っているようだ。
…面倒なことになりそうだな。ステイゴールドはそう判断すると、そういう目的ではなく、ただ友達と遊びに来たのであろうライラックに比較的何も無い部屋の鍵を持たせると、スターズへ目配せをする。純粋なライラックを守らせるためだ。
「行こうアースちゃん!じゃあねおじいちゃん!」
「おー。何かあったら電話しろよ。」
「分かった!」
「…任せてくださいね」
「…おう。頼んだ。」
無邪気に先行するライラックを尻目に、ステイゴールドとスターズオンアースは静かに会話を交わしたのだった。
◆
◇
「みてみて!アースちゃん!」
こんなホテルには似合わないような明るく元気な声。スターズとライラックはステイゴールドに持たされた鍵の部屋を散策していたのを終え、それぞれ休憩を取っていた。無邪気にスターズのことを呼ぶライラックの方向を向けば、彼女はベットの上でシーツを頭から被るように持っていた。スターズにはそれがまるでベールのように見えて、無意識に彼女のウェディングドレス姿を空見する。
スターズの脳内の彼女は、幼い顔立ちは変わらないのに雰囲気は確かに大人のように見えた。小さな体躯を真っ白なドレスで覆い包んで佇む彼女。思わず見とれてしまうくらい綺麗で、地上に舞い降りた天使のよう、なんて。スターズはライラックのウェディングドレス姿を楽しそうに思考していた。
のだが、スターズの脳内に嫌な想像も出来てしまう。
ウェディングドレスということは、隣に誰かがいるのだ。スターズの知る男か、知らない男が分からないけれど。確定していることは絶対にスターズでは無い、誰かであることで。スターズにはその事が無性にイラついて、気に入らなくて。頭の中に浮ぶ真っ白の協会と、ゴーン、ゴーンと鳴る大きなベルをどうにか霧散させたくて。その感情が何を表すかなんて知る由もなく、悩みこんでいた。
必死に別のことを考えようとするとふとまた彼女が、ライラックが視界に映り込んでくる。こんな雰囲気の部屋には来たことがないのか、見知らぬものに目を輝かせ、葛藤を抱えるスターズのことなど露知らず無邪気にこちらに笑いかけている。大きなシーツを小さな身体で被っては、時々居心地が悪く体制を変えるのか、頭から被ったシーツがひらりひらりと宙に舞っている。それがスターズにはどうにも天使の翼のように見えて、ウェディングのベールのようにも見えて。
スターズの脳内はもうぐちゃぐちゃだった。
けれど、でも。ぐちゃぐちゃなスターズの頭に、ひとつ確かなことが浮かんだ。この子は、ライラックは。今後ウェディングドレスを着たって、スターズの知る男や知らない男と祝福で包まれた道を共に歩いたって。この瞬間、この時間は。スターズだけを見つめているのだ。この空間にはライラックとスターズしかいないのだ。スターズの知る男も知らない男もいない。スターズと、ライラックだけの空間。
自身を見たあとから動きを止めたスターズのことをライラックは心配そうに眉を下げ、首を傾げる。どうしたの、そう言葉にする前にスターズはライラックとの距離を詰める。少しの距離。数歩歩けばすぐ届く場所でも、スターズは違和感の残る脚に無視を決め込んで駆けた。今すぐにでも彼女に触れたかった。部屋の景色だって移して欲しくない、ライラックに自分だけを見て欲しかった。
「っわ、」
勢いに任せてライラックのいるベットに乗り込んで、シーツごとベットに縫い付ける。
ライラックは少しの間は驚いたような顔をしたが、それも少しすると綻ぶような笑みに表情を変化させた。スターズを見上げると、先程紡げなかった言葉を彼女の名前もデコレーションしてスターズへ渡す。
「どうしたの、アースちゃん。」
「…なぜ、でしょうね。」
…私も、分からないの。
掠れて震えて、無理やり捻り出したかのようなか細い声。今のスターズにはそれで精一杯だった。今にも溢れだしそうな程に涙を貯めて、苦しそうに顔を歪めた。
すると、静かな部屋にパサり、と髪の落ちる音が響く。それと同時に、ライラックはスターズを抱きしめた。…いや、抱きしめたと言うより、スターズの顔を自身の肩へうずめさせたのだ。そのままゆっくりと体制を変えていき、二人はベットの上で向き合った。
「こっちの方が脚、楽でしょ?」
スターズは顔を歪めたまま頷く。ライラックは満足そうに幼い顔を破顔させると、モゾモゾと動いてはスターズとの距離を密着させていく。スターズの涙を自身には大きな袖で拭うと、スターズの両頬へ小さな指をあて、にっこり笑ってみせた。
「わたし、アースちゃんの笑ってる顔が好きだよ」
ポツリ、ポツリと小さな子どもに読み聞かせするように、ライラックは柔らかな声で話し始めた。それも、スターズに話しかけるような話し方ではなく、独り言のようにつぶやく形で。
「初めて会ったの、フェアリーステークスだったよね。」
ポツリ。スターズも思い出しているのか、少し懐かしそうに頷いた。
「あの時は勝てたけど…アースちゃんは凄いな、わたし全然ついていけなくて。」
ポツリ。スターズはそんなことない、と言いたげな目線を送りながらゆっくりと頷いた。
「でも、アースちゃん。最近は辛そうだよね」
ポツリ。スターズにも思い当たる節は沢山ある様で、悲しそうに目を伏せ頷いた。
「お怪我とか、沢山の不幸があって。」
ポツリ。スターズは苦虫を噛み潰したように顔を歪めさせ、自身の苦悩を振り返りつつ頷いた。
「それでも、諦めずに頑張ってる。」
ポツリ。スターズの瞳がまた歪んで、大粒の涙が生み出されていく。スターズが頷くと、すぐにライラックは優しくその涙を拭き取って微笑む。ライラックはゆっくり、それでね、と続ける。
「…わたしね、そんなアースちゃんがすきだよ。お友達としてじゃない、恋愛感情として。」
ポツリ。スターズはその言葉に驚きに目を見開き、先程まで分からなかった感情への理解が追い付いてはまた鼻の上あたりにツンとした感覚が走って、ポタリポタリと涙が溢れ出る。ライラックは、それも優しく拭き取り水分を袖へと含ませていく。ライラックは深く息を吸うと、これまた深く息を吐いた。
覚悟を決めたような顔で、ライラックはスターズへと向き合う。
「…いやだった?」
「…いいえ。私も、貴女と同じ気持ちよ。」
覚悟を決めたはずなのに、すぐにでも崩壊してしまいそうな涙腺をどうにか保ちつつライラックはスターズに問いた。その問いに対し、またスターズも涙をこらえ、震える声で答えた。返答が聞こえると、ライラックは大きな目に涙を貯めてながら嬉しそうに顔を綻ばせた。そしてそれは、スターズも同様で。
白いシーツに包まれた二人に、なにか気にすることなんてなかった。それまで溜め込んだモヤモヤも歪な思考も。シーツという名の幸せのベールに包まれて、新たな道を共に歩くだけ。真っ白なシーツは、二人の涙を吸い込んでは彼女達を祝福するようにひらりと揺れる。
ライラックはポケットから携帯を取りだして、心底楽しそうな表情で自身の祖父に通話を繋げ告げる。
「おじいちゃん、朝まで延長で!」
幸せな妖精達の夜は、まだ終わらないのだから。
◇