especially for you

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カルデアのキッチンは広い。その隅っこを借りて今日は作業をする。他の面々も同じ目的のため、特に理由などは突っ込まれないのがありがたい。

溶かしておいたチョコにその他の材料。そして数種類の塩。これは中に混ぜる用とトッピング用だ。

バレンタインなる行事の事を聞き、せっかくだから何か作ってみるかと思い至ったのでいくつかレシピを検索した。その中に塩チョコというものを見つけたのでこれを作る事に決めて材料も用意した。

(きちんと分量を守ってやらないとお菓子作りは上手くいかない)

多少の目分量が許される料理と違って、製菓はそこが重要なポイントだ。

スケールで量りながら材料を混ぜる。型に入れたら粗熱をとって冷蔵庫へ。

(しっかり固まるまでは時間がかかるから、余裕を持って作業する事)

時間つぶし用の本を開きながら周囲を見渡した。今回は溶かして混ぜて冷やすだけだが、オーブンを使うレシピもあった事を思いだす。

(いきなり難易度の高いレシピはリスクが高い。少しずつ慣れてから挑戦してみるのもいいな)

古今東西の英霊が集うここはレシピの種類も膨大で、試してみたくなるものが多い。

あちこちから聞こえる楽しげな声と漂う甘い匂いに、気分が盛り上がる。

(あいつは喜んでくれるだろうか・・・)

渡す相手の事を思いつつ、次の作業までの待ち時間、本を読む。


アラームが鳴ったので冷蔵庫から取り出す。中までしっかり固まっているのを確認して型から取り外せば、直方体のチョコがいくつも現れる。

トッピング別に分けてバットに並べる。ココアパウダーをまぶしたり、フリーズドライの果物をのせたり・・・

コーティング用のチョコにくぐらせたものには粗目の粒の塩をかけた。

(ここまでは上手くいった)

化粧箱に完成したチョコを入れてラッピングする。黒い箱に白いサテンリボン。赤いシールでリボンの端を留めれば出来上がり。

(どうやって渡そう・・・)

せっかく渡すのだからそれっぽい空気の中で渡したい。

(いや、でも、さりげなく渡した方が受け取りやすいかもしれない)

変な所で悩んでいる自分に、ここでの生活で受けた影響を感じた。


後片付けを済ませてキッチンを出る。手にはチョコの入った箱。別に待ち合わせている訳でもないので相手の部屋へと向かう。

部屋の前でノックしようとしたその時、中から扉が開く。

「うわっ」

「あ、悪い」

「いえ、こちらこそ。どうかしましたか?」

「・・・これを、渡そうと思って・・・」

なんだか締まらない感じになってしまったがやって来た理由を告げる。受け取った相手は、それが何かを理解すると嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。これは私宛、でいいんですか?」

「宛も何も、お前にしか作ってない」

「特別な頂き物ですから、大事に食べますね」

「そんなに日持ちするようには作ってないぞ?」

「そういう心持ちで食べる、という意味です」

何であれ、喜んでもらえてよかった。作業中に、味見として1つだけ食べてみたものはチョコ作りが初めての自分にしては美味しく出来ていた。

「お返しを考えておきますね」

「来月、だったよな」

「はい。楽しみにしておいてください」

自分の部屋に帰ってまずやる事は来月の予定表、14日に印をつける事、だ。

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