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「ボール出して!!」
窮屈な足先をすり抜けたボールが足元に駆け寄ってくる。
(同点でアディショナルタイム3分……前には4人か)
(余裕っ!)
目の前に広がっている巨体はボールの方へ体を動かすことも無く置き去りにされる。
1人、
2人、
そして3人、
自分に為す術なく背中を見せられる相手には同情してしまいたくなる。
だが、
「俺は絶対に抜かさせないから!!!」
ボールに蹴りを入れたあとは何となく、「ああ入るな」と分かる。
絶好調の当たりは、キーパーの手を掠める瞬間すらなくネットを貫いた。
「っしゃああああああ!!」
「ナイシュー!」「流石やお前ぇ!!」
「汗まみれで抱きつくなって!」
楽しかった。
自分の力で皆が心から笑っているのを見ると楽しい。
人のために行動を出来ると思うと楽しい。
きっとあの二人見たくずっとこうして過ごしていけるのだろう。
ずっと。
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「ただいま。」
「おかえりなさい。見てたわよかっこいいゴール」
「流石父さんの息子だな!」
「次はハットトリックするから見ててよ」
「お!言うようになりやがって!」
幸せだった。
万人の為に走れる父親に、万人から愛されるような母親。
この二人の下で育てたことがどんなに幸福だろうか。
そして、紛れもなくこの二人の血が自分にも流れている。この2人のように自分もなれる。
(あ、シューズ新しいの買わないと)
もう10足目になるだろうか。
「参考書も50ページ進めて…そうだ、体育祭のチームも組まないとだった。3時までに終わるかな……」
3時からは自主トレをしないといけないのに目の前の問題は山積みだ。
2000回は読み直した参考書が辺りに散らばっているのも頭が痛くなってくる。
(これも父さんたちみたくなるためだ)
「よし、もう一息だ」
既に壊れた時計が異様に音を鳴らす部屋で、俺は努力する。
2人からも誇れる息子になるために。
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『委員長、ありがとう』
「いや別に当然のことだよ」
『マジでサンキュー!』
「分からないことあったらなんでも」
『お前は今回も100点か!流石だな!』
「俺も先生の問題には毎回苦労させてもらってます」
『今回の編成はお前を中心に組んだ。頑張れよ。』
「はい!ありがとうございます!」
『最近ホントすげぇよ!お前無理してないか?』
「普通に頑張っただけだよ、それで俺はすぐに結果が出るだけ。多分あとからみんなに追い抜かれるよ」
『でさ!これどう思う?』
「うーん。夜の予定が詰め込み過ぎかなぁ。彼女さん疲れちゃうからここの予定を___」
『1つ聞きたいことがあるんだけどさ』
「ん?なにかな、なんでも言ってよ」
『君ってさ、なんでそんなむだな努力してるの?』
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(やばっ!寝ちゃってたぁー!今なん時___)
電気つけないで勉強してたんだっけ。
とりあえず携帯で明かりを。
(あれ、この辺に置いてた…てかこれなんだ?)
暗闇で見えないが、ネチョネチョした何かが手に触れている。
なんかきもちわるい
さすがにねなさすぎたか
てかあたまあがってないなおれ
いきしないと
はやくたたないととれーにんぐまだ
きたいにこたえなきゃだめなのに
てかけいたいどこおいたんだっけ
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次に目を覚ましたのは病院だった。
どうやら椅子から倒れ落ちる音で両親が異変に気がついて、そのまま救急車で運ばれたらしい。
出来た両親だと思う。
正直、何も聞きたくなかったから詳しくは知らないかストレス性の何からしい。
あの日の朝、俺は吐血して倒れたと顔をぐちゃぐちゃにして泣いた両親に伝えられた。
この2人は人のために泣けて素晴らしいと思う。
数日の間は気を使って離れてた友人たちも大勢見舞いに来てくれた。
心配するものや、無理矢理笑おうとしてるもの、号泣で部屋に入ってくる人もいた。
でも、ちがう。
誰も責めてくれない
完璧じゃない自分を見たのに誰も蔑まない
俺の穴のせいで急変したチームは敗退したのに
体育祭のチーム分けも結局みんなに決めてもらったのに
テストだって受けてないのに
みんなの期待を裏切ったのに
泣くなよ、怒れよ
お前らが期待してた俺はここにいないのに
両親のような完璧な人では無いのに
こんなののためにその顔を使うなよ
戻ってきた時に使ってくれ
バレてない時に使ってくれ
なんで誰も俺を
貶さない?蔑まない?罵らない?軽蔑しない?侮蔑しない?戒めない?
俺を捌けよ
首くらい閉めろよ
殴れよ
殺せよ
こんな俺必要ないだろ
なんのために俺はあんなに
(この手紙くらい置けばいっか)
いつもトレーニングをする時間に活気のない居間にしばらくの別れを告げる。
(警察とか探すのかなあ。まあそれも楽しそうか)
正直自分でもダサいと思うが、人生で初めての家出をしてみようと考えた。
別にどこに行くかは決まっていないが、綺麗な海でも見に行こうか。
結局、自分が何なのかは分からないが
これくらいしたら1人くらいはぶん殴ってくれるだろうか
「よし、逃げよっか」