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『___ねぇアレって』

『〇〇さんとこの子よ!』


(ふふんっ)

正直言えば僕は無敵だと思う。


超有名な人気俳優の父親に、美人な母親、その上自分にまで演技の才能があるというのだ。

自分以上に神からモノを授けられた人がいるなら是非ともお目にしたい。

今この瞬間、既に注目を集めている高山の頂点である僕にはかなわないだろうが。


「___さん、部屋に」

「はい!」


〇・ーーーーーーーーーーーーーーーーー・〇




『あぁそうとも!私は生まれながらの王族だ!だからこそ_____




〇・ーーーーーーーーーーーーーーーーー・〇

(結構長引いたな)

既に宙は色が増し、黒い海が無数の砂金ぐらいの光がちりりと冷たそうに震わせていた。


「おかえりなさい〇〇さん。」

「うん、ただいま母さん」


「あのさ聞いて欲しいことあるんだけどさ!父さんどこかな!」

「すみません。今日は遅くまで仕事ですので…。」

『あーうん。別にすぐじゃ無くていいから、平気だよ。』


正直期待はしていなかった。

人気ということは、それ相応の重荷もある。

その分、父親の作る絶景は非の打ち所がない。自分の家庭を捨ててまで作る光景は憧れであり、誇りであり



(その分僕も頑張らないと!父さんに僕の作る景色を見てもらうために!)


そうだ、まだまだ新参なのに父親に話すわけなんて行かなかった。

一流の演出家には完璧なものを見せなければいけない。

これは驕りでもなんでもない、ただの礼儀だ。


(台本、もっかい読み直そう)


〇・ーーーーーーーーーーーーーーーーー・〇

「お疲れさまです」

「まだ残るのか?偉いなあ」


「まあ、'主演'ですから」

「偉いなあ」


「そっちも練習、頑張ってくださいね」

『ははぁー皇帝様ぁ』


初の大舞台での主演、1つのセリフ間違いすら許されない。

世の中には練習なんかしなくてもいい、という人間もいるが自惚れていると思う。

練習をすればさらに積み重ねられるのに、何故そこで満足するのかがよく分からない。


そんな怪物の才能をドブに捨てられると見てて痛ましい。

絶対な演技には、最大の積み重ねの上で成り立つ、これは父の頃から変わらない。


だからこそ、誰にも掴めないような空に行くには何千、何万の繰り返しが必要だ。


『故に、私は「〇〇さん!!!」


「っくりしたぁ。マネージャー、練習中はノックしてくれないとビビるって」


「す、すみません。でもお父様が!」


〇・ーーーーーーーーーーーーーーーーー・〇

悲劇とは非現実性から大衆に受け入れられる。

才能の没落、悲恋、病、そして不慮の事故


衝撃だった。

あの父親が全くと言っていい程に動かない。舞台の上で踊る父ではなかった。


『手は尽くしましたが、もう立てるかどうか』


幕は下がらない。

ライトも消えない。

演者も脇に下がらない。


いや、そもそもハナからそんなものないのだ。

これは舞台じゃない、現実なのだ。


「〇〇さん、その」

『大丈夫、だよ、母さん、そろそろ、リハーサル、だから』


気色悪い。


残酷な人生ほど笑えないものは無い。


まだ話してないことがあるのに。


まともに父親と会話したのはいつだろうか。


彼は求められてることも多いのに。


父親の代わりになるのは私だ。


ならざるおえない。


未熟だなんて言ってられない。


彼の代わりになるのだ。


黄金の景色を作るのは私だ。


『だから、変わらないと、ね』


〇・ーーーーーーーーーーーーーーーーー・〇

「流石に今日くらいは休んでもいいんだぞ」


『いえ、主演、だから、私が、いないと』

万人の期待が無くなった今、それが降りかかるのは自分だ。


たかが十年、されど十年間紡いできた道がある。

積み重ねがある。


この期待にさえ答えれば、この軌跡は確かなものになる。


ここを捨てれば、父親にはなれない。

彼の代わりにならなければ演者失格なんだから。


『いまのとこ、もう一回、お願い、します』


大丈夫、父は生きる。

演技人生は代わりに紡いでいくんだ。だからこの舞台___


〇・ーーーーーーーーーーーーーーーーー・〇

『あ、え、……、い』(絶望)


『…………』(醜悪)


『……っぁっ……』(下劣)


(幕があるし、光も僕に向いてる、なんかみんな言ってる気がする)


ああ、これはちゃんと舞台だったか。


聞こえる音はなかった。いや、そもそも誰も話していないのだろう。

こんなこと考えていても幕は下がらない。


冷たい視線を浴びるだけの時間が何分と続いただろうか。

アレだけ重くした台本の中身が出てこない。

そんなことしてても劇は進まず、時計の針だけが進んでいる。いつになったらおわるのだろうか。


そもそも今は何の演技をしていたんだっけ。


演目が……あーそうそう、七光りのバカ息子。


思い上がったバカ、父親のおかげで成り立っていたのに居なくなった瞬間に落ちぶれた馬鹿な子供の話だった。


「なんだ、ちゃんと演技できたじゃん」


ようやくモノクロの絶景が、僕を迎えてくれた。

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